2.憎しみ、恨み、怨み、そして……
「オ゛エェエッ!! オ゛エェエッ!!」
先程まで口の中にあった物を吐き出す。
全て、全てを吐き出す……
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
死ね死ね死ねッッ!!
「ペッ!! ペッ!! エ゛ッ!!」
口の中に残った物を次こそ完全に吐き出す。
「クソクソクソ!! アイツ、絶対に殺す、絶対に!!」
なんで、俺がこんな目に合わなきゃならないんだ。
どうして……
どうして……
不意に鎖で繋がれた腕が視界に入る。
その瞬間、いわれもない無力感に襲われる。
私はなにもできない。
俺はなにもできない。
「くそぉ…… どおして、どおして、私が…… 俺が…… 俺は…… 私は……」
もう、からこれ一ヶ月になる。
突然、訳もわからないまま異世界に跳ばされ。
目の前にいる訳のわからない気持ち悪い連中に捕まって。
そして、訳もわからない薬を飲まされて。
身体を女に変えられて……
そして、そして…
「どうして!! 私がこんな目にッ!! どうして!! 俺が何かしたのかッ!! 私が…… うぅ…… 私、私…… うぅ……」
その時、私/俺の腕に何かが触れた。
「ひっ!! ごめんなさい!! ぶたないでッ!!」
見ると、隣の鉄格子に入っている老人がこちらに手を伸ばしていた。
な、なんだ、コイツッ!!
「なによ!! 貴方も私をッ!! いや、お、俺をッ!!」
すると、老人は人差し指を立てると唇に当てみせた。
それは、静かにしろと言う慣れ親しんだ仕草だ。
思わず目を丸くしてしまう。
すかさず周りを見渡す。
辺りにある鉄格子の中の奴隷達は、こちらを鬱陶しそうに見ているが興味はないらしく、直ぐに視線を落とした。
再び老人に視線を戻すと、彼は先程と同じ様に人差し指を唇に当て、私/俺と同様に周りの様子を心配そうにキョロキョロと眺めてもいる。
この老人は一体……
暫くして、私/俺が落ち着いたのを確認すると、再びこちらに腕を伸ばして来た。
思わず身体が硬直する。
男の手。
それは今の俺/私には、もはや恐怖の象徴でしかない。
逃げたい、この老人から離れてしまいたい。
全てを拒絶してしまいたい……
でも……
でも、本当にそれでいいのか……
私は…… いや、俺は……
老人の目を見ると、澄んだ様な青色をしている。まるで青空の様な綺麗で澄んだ瞳。
それは、この世界に来て一ヶ月は見れていない見事な空色。
もう、見ることも出来ないと思っていた青色空の色だ……
忘れかけていた感情が呼び起こされる。
もう一度……
もう一度、青空の下に……
外の世界に……
この鉄格子の外に……
俺/私は老人の伸ばした手を見据える。
ただ彼の手を拒絶しない、ただそれだけ……
情けないけど、今の俺/私にはこれが精一杯。
老人の手が真っ直ぐと俺の腕に触れる。
そして、何かを書くように、何かをなぞる様に動く。
これは……
これは文字だ……
彼は文字を描いている。
俺は老人の指を追う。彼が何を伝えようとしているのか、それを突き止めるために……




