17.宿
知らせなきゃっと……
アンパンマンはつぶあんって知らせなきゃ……
いや違う違う。
なんか隣の部屋の奴等が不味そうだって知らせなきゃ……
私は先程の老人が指差した方へと歩く。
今、グレイスさんはカールって人に馬車を売りに行ってるはず……
馬車の止まってる所を探せば入れ違いとかも起こらない…… はず……
多分……
こんな小さい街で入れ違いなんて起こらんだろう。
え? もしかして、これフラグ?
と、そんなこんな考えながら歩いていると先程まで俺達が使っていた馬車が止まっている家が目に入った。
見ると、その家の主人と思われる人とグレイスさんが話している。
ふう、よかった。
流石にこんな小さい街で入れ違いなんてミラクル起きないか。
暫く遠くで見ていると、話がまとまったのか馬車から馬を離しこちらに向かって歩いて来た。
どうやら、馬車を売ると言うのは後ろの部分を売ると言う事だったらしい。
あれって売れるんだ~
殺人現場みたいになってたけど……
「うぉ~い、グレイスさん~」
取り敢えず手をブンブンと振る。
コチラの存在に気付くとグレイスさんは少し驚いた様な表情を浮かべた。
「これはヨゾラ殿。どうしたんですか? 部屋で休んでいたのではないのですか?」
「ええ、実はかくかくしかじかで……」
私はグレイスさんに隣の部屋の住人達の事を話た……
「ふむ、なるほど。それは少し面倒ですね。なんとか顔を会わせない様にしなくては……」
彼は少しめんどくさそうに顔を歪めて見せた。
やっぱり、マズイのか……
俺の表情を見て、何かを察したのかグレイスさんが苦笑いを浮かべながら答えた。
「ええ、こう見えても我輩は結構顔が知れ渡っていましてな。恐らく、軍属であれば我輩が何者か直ぐにわかってしまうでしょう」
やっぱりか……
近衛とか言ってたしな……
「ですが、事前に知れたのは助かりました。ありがとございます、ヨゾラ殿」
「ええ、困った時はお互い様ですからね!」
そう言って、ガッツポーズをして見せる。
そんな私を見て、グレイスさんはニコリと笑って見せた。
そして、こちらに向かってその手が伸ばす……
その手を見て思わず身体がビクリと硬直する。
「貴方はまだ若いのにしっかりしておいでだ。これで二度も助けられましたな……」
そう言うと彼は私の頭にそっと手を置いた。
恐る恐る目を開くとグレイスさんが優しくも悲しげな瞳でこちらを眺めていた。
「そうですな。まだ男が恐ろしいのですね」
「あ…… す、すいません……」
彼は直ぐに手を話すと馬を引いて歩きだした。
私は黙って彼の後を追った。
どうしよう、気分を悪くさせてしまっただろうか……
「良いのです、仕方なき事。ですが固まるのは良くない。固まるくらいなら逃げた方がいい。その方が戦いの場では役に立ちます故……」
そう言うと彼は朗らかに笑って見せてくれた。
「は、はいっ!!」
よかった、どうやら気を悪くした訳ではないようだ。
そうだよな、この人はそんなことでヘソを曲げるような人間じゃないよな……
そんなことを考えていると、グレイスさんが何かを思い付いたらしく得意気に口を開きながらこちらを見た。
「そうだヨゾラ殿。ちゃうど馬車を売った金が手に入ったので、服を買って帰りましょう。そろそろ、この小汚ない服にも飽きた頃でしょう、サイズと合ってない様ですし」
そう言うと、グレイスさんは自分が纏っているボロボロの服を摘まんで見せた。
確かにそうだ、この格好は流石に酷い。
思わず自分の纏っているブカブカの服を摘まむ。
「ええ、いいですね。私も早くちゃんとした服に着替えたいです!」
「そうでしょう、そうでしょう! では善は急げです、行きましょう!! ヨゾラ殿!! きっと、ヨゾラ殿には可愛い服が似合うはずですぞ!!」
そう言うと、馬を引く彼の足が速まった。
可愛い服って……
俺、一応は男なんだけどなぁ……
そこら辺、知ってるハズなんだけどなぁ?
そんなことを思いながらも、俺は彼の後をついて行った。




