16.宿
私達は老人に教えられた宿へと向かうと直ぐに部屋を借りた。
「我輩は先程聞いた人に馬車を売りに行こうと思う。その後に一緒に服を買いに行くとしよう。ヨゾラ殿は暫し休んでいてくれ……」
「はい、わかりました。貴方も気をつけて下さい」
俺がそう言うとグレイスさんは静かに頷くと部屋を出て行った。
コツコツコツと規則正しい足音が小さくなって行く。
その後、耳が痛くなる程の静かな時間が訪れた。
ひと息して肩の力を抜く。
そして、次は溜め息をついてベッドに横たわる。
まだ汚い服を着たままだから、なるべくベッドを汚さないように丁寧に仰向けになる。
久しぶりの一人だ……
そして、この世界に来て初めてのまともなベッドだ……
フカフカで気持ちがいい……
長旅で疲れた身体の力が徐々に抜けて行くのがわかる……
意識が徐々に薄れていく、うつらうつらと世界が揺らいでいく……
ああ、眠い……
このまま眠って……
その時、隣の部屋から突如として馬鹿デカイ笑い声が聞こえて来た。
余りの声に飛び起きてしまう。
見ると窓の外の景色が薄く赤みがかっている。
どうやら、私は少し眠っちゃってらしい……
突然目覚めたからか、先程の馬鹿デカイ声にビックリしたからか心臓はドクンドクンと強く脈打っている。
「ビックリしたなぁ、もう……」
思わず自分の胸に手を当てる。
すると、ほんのり柔らかい御胸が手に当たった。
「……」
直ぐにその手を引っ込める。
その瞬間、再び大きな笑い声が聞こえて来た。
えらく荒々しい笑い声だな……
迷惑な事に隣の部屋から、複数人の男達の笑い声と話声が聞こえてくる。
「それにしても、この戦争は傑作だったな!!」
「いやー あの騎士国家の鼻をあかしたと思うと胸がすきますな!!」
「それに噂ではあちらの国の近衛隊長を捕まえたらしいですよ!!」
「ははは、それは大層な事だな!! 捕まえた奴はさぞかし褒美を貰っただろうな!!」
笑い声と共に話の内容が聞こえてくる。
て言うか、丸聞こえだ……
隣の部屋の住人達はその後も「国に帰ったら、速く女をどうしたい」だの「あの街のどこの店は最高だ」だのと、しょうもない話を繰り広げている。
「本当、男って……」
む、いやいや俺も男なんですがね。
いや、それよりだ……
アイツ等の話していた近衛隊長ってのはグレイスさんの事だろうな。
確か近衛騎士団団長って言ってた様な気がするけど……
いや、細かいことはこの際構わない。
問題はこの隣の部屋の住人とグレイスさんが何か運命のイタズラでかち合ってしまった場合、大変な事になるのではないか?
最悪の可能性として有り得るよね……
コイツ等がグレイスさんの顔を知らなかったら問題は起こらないだろうけど……
なんかグレイスさんって有名人っぽそうなんだよな~
顔も結構渋めのナイスガイだし……
これは、事前にグレイスさんに知らせた方が良いかもな……
俺は直ぐに布を頭に巻いて髪の毛を覆うと部屋を出た。
「えっほ、えっほ。隣の部屋の人がヤバそうって知らせないきゃ」




