10.旅立ち
「まず、異界の人は魔法が使えん!」
衝撃的な事実である。
よくもまあ、このグレイスとか言うジジイは俺に幸福がうんぬんと言えたなぁ、たまげたぜ……
「まあ、人間がどんなに努力しようと、水の中で息が出来ないのと同じように異界の人はどんなに努力しようと魔法が使えるようにはならん、と言うことだな!」
終わってる。
早速、終わってる。
「君が召喚されたのもそれが理由だ。異界の人間は魔法が使えん。つまり、御しやすいのだ。故に奴隷にする為こちらの世界から召喚することが多い」
最悪じゃん。
ブラック異世界じゃん。
「なおかつ、その黒髪に黒い瞳。それは我々の世界では非常に珍しく美しさの象徴ともされている。取り分け、君はその顔の造形も含め特に美しい」
そうなの?
変な薬飲まされたから鏡を見てないから、自分がどんな顔してるかわからないんだよねぇ。
でも美人さんか~
それは嬉しいな~
「故に商品価値がえらく高い」
それは全然嬉しくない。
「じゃあ、俺は奴隷にされないように隠者みたいに姿を隠して生きて行かなきゃならないってことですか?」
「それは違う。表向き、この国でも我輩の国でも奴隷は禁止されている」
あら、随分と文明が進んでいらっしゃる異世界なのねステキよ、私はそんな異世界だったなら大好きよ……
「いや、ならアイツ等はなんなんですか?」
「アイツ等は裏で奴隷商売をしている輩だ。そう言う奴等は少ないが間違いなく存在する。これは我輩の国でも同じだ。だから、君にはそれを重々承知していて貰いたい」
ま、まじか……
な、なかなかハードな話じゃねぇか。
「当面、日常生活に慣れるまで我輩の側を離れないようにしてくれ。その間は必ず我輩が君を守る」
俺は彼の言葉を強く肯定する為に何度も頷く。
「わかった、そうします」
「うむ。我輩もなるだけ注意する。君は我輩に取っては恩人だ必ず守ってみせる。それは任せてくれ。となると、我輩達の向かうべき場所だが……」
そう言うとグレイスは決意の固い表情を見せる。
「もし君が許すならば、我輩の祖国へと向かう事を許して欲しい。そこならば君の身の安全は我輩が保証できる。是非、我輩を信じて目的地を我輩の祖国として欲しい」
空の様に青い瞳。
そして、身なりを整えたことにより見違えた姿となった初老の紳士。
その姿と強い意思を持つ瞳に圧倒される。
そして、彼の戦う姿。
彼を信じられるのか……
正直、彼がどんな人なのか全くわからない。
変な冗談を言ったり、そうかと思えば変に律儀だったり。
でも、あの地獄を俺達は二人で共に乗り越えたんだ。
ならば……
「わかりました。俺は貴方を信じます。私を貴方の国に連れて行って下さい!!」
「承りました。我が祖国グランディール王国の名に懸けて。近衛騎士団団長シャルディエル・グレイロックスが貴殿を必ず我が祖国へとお連れいたす!」
うん? 今、なんか凄いこと言いませんでしたか、この人?
「さあ、行きましょう!! 我が祖国へ!! この我輩が貴女の騎士となり、剣となりましょう!!」
う? ううん?
近衛騎士団の団長って言わなかったか?
私が混乱しているとグレイスは馬へと飛び乗り手綱を握った。
「さあ、ヨル殿!! この手を取って!!」
「へ? あ、は、はい!!」
馬車に乗ったグレイスがコチラに手を伸ばす。
私は思わず、目を丸くする。
「ああ、これは失礼。我輩としたことが失念していました。ヨルと言うのはあの奴隷商が付けた名前でしたかな?」
「は、はい。そ、そうですが……」
「ああ、やはりそうですか。それは失礼な事を…… ここに謝罪します。では、貴女の本当の名前を……」
「そんな代わりは無いんですが。私の名前はヨゾラ…… ヨゾラと言います」
「ヨゾラ。星をなぞる空の名前ですね。素敵な名前です。さあ、ヨゾラ殿、この手を……」
「は、はいぃぃ……」
な、なにこれ。すげぇ恥ずかしいんだけど……
こ、これじゃあまるでお姫様みたいじゃん。
私は恥ずかしがりながらも彼の手を取る。
すると、グレイスは軽く私を引っ張り挙げると馬車の御者席に座らせられた。
そして、私が座ったのを確認するとグレイスは手綱を取り馬を走らせたのだった。




