表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/12

第七話  素材集めから始める建築魔法


 カゲノタケの脅威が去り、宿には静けさが戻っていた。

 地下室の扉をしっかり閉めた後、アレンはようやく一息つく。


「……ふぅ、これで大丈夫だな」


 リリィの母親――先代リリィも、ベッドの上で落ち着いた表情を見せていた。

 顔色はまだ少し青白いが、先ほどより明らかに良くなっている。


「アレンさん……本当にありがとうございました」


 リリィが深々と頭を下げた。


「まさか宿の地下にあんなものが生えてるなんて……私、一人じゃどうしようもなかったと思います……」


 母親も弱々しくではあったが、微笑みながらアレンを見つめた。


「あなたがいなかったら、私は今頃どうなっていたか……本当に感謝しています」


 その言葉に、アレンは少し照れ臭そうに頭を掻いた。


「ま、たまたま知識があっただけだよ。俺がいなくても、いずれは気づいてたんじゃないか?」


「そんなことないです! アレンさんは私たちを救ってくれました!」


 リリィは強く言い切った後、真剣な表情でアレンを見つめた。


「だから……何かお礼をさせてください!」


「私からも……本当に何かお返しをしたいのです」


 リリィと母親がそろって申し出てくる。


「お礼……か」


 アレンは腕を組み、少し考え込んだ。


 助けたことに対して何かをもらうつもりはなかったが、せっかく申し出てくれているのに遠慮するのももったいない。


 そこでふと、一つの考えが浮かんだ。


「……そうだな、この街に余ってる土地とかないか?」


「え?」


 リリィが目を瞬かせる。


「土地……ですか?」


「ああ。俺、料理人だからさ。いずれ自分の店を持ちたいって思ってたんだよ」


 アレンは笑いながら言った。


「店が無理でも、せめて料理を作るための場所がほしい。

 あんまり広くなくてもいいから、使われてない土地とか、誰も住んでない建物があれば教えてくれないか?」


 リリィと母親は顔を見合わせた。


「……実は、この宿のすぐ裏に使われていない土地があります」


「マジで!?」


「はい。でも、何年も誰も使っていなくて……雑草が生い茂っているだけの場所なんです」


「いや、それで十分だ! もし貸してくれるなら、俺がちゃんと活用する」


 アレンは即答した。


「でも……本当にそんな場所でいいんですか?」


「もちろん! 料理をする場所さえ確保できれば、後は何とかなる。

 畑にするのもいいし、屋台を開くのもアリだな……!」


 アレンの脳内に、次々と計画が浮かんでくる。


 リリィはそんなアレンの様子を見て、くすっと笑った。


「……ふふっ、なんだかすごく楽しそうですね」


「そりゃそうだろ! これで俺の料理人としての新しいスタートが切れるんだからな!」


 アレンは拳を握りしめ、思わずガッツポーズを取った。


 こうして、アレンはリューンの街に「自分の場所」を持つための第一歩を踏み出すことになった。


「さて……建築魔法を使う前に、まずは素材を集めねぇとな」


 アレンは腕を組み、リューンの街の外れにある使われていない土地を眺めた。


 確かに広さは十分ある。

 けど、雑草がボーボーで、地面はでこぼこ、あちこちに石ころが転がっている。

 このままじゃとても建築なんてできない。


「よし、まずは整理と素材集めからだな!」


 建築魔法は素材さえあれば、あとは魔力を込めて構築するだけ。

 でも、素材がなければ何も作れない。


「必要なのは……木材、石材、それから補強用の金属か?」


 最低限の材料はそのくらいだろう。

 あとは装飾用にレンガとかタイルがあれば最高だが、贅沢は言ってられない。


「よし、行くか!」


 アレンは道具袋を肩にかけ、素材集めのために街の外へ向かった。


「木材はやっぱり森で集めるのが一番だな」


 街のすぐ近くには大きな森が広がっている。

 ここで適当な木を切り出せば、建築素材にできるはずだ。


 アレンは森に入り、太さと硬さのバランスがいい木を探し始めた。


「この辺の木なら……おっ、ちょうどいいのがあるな!」


 しっかりと根を張り、適度に乾燥した木を見つけた。


 アレンは腰に差していた自衛用の剣を抜く。


「料理人にとっちゃ、刃物の扱いは日常茶飯事だ……!」


 剣を両手で握り、一気に木の根元に振り下ろす!


 ズバァン!!


 鋭い刃が木の幹に深く食い込んだ。


「……いい感じだな」


 そのまま数回振り下ろし、最後に思い切り蹴りを入れると――


 ドサァッ!!


 一本の木がゆっくりと倒れる。


「よし! これを適度な大きさに切り出して……っと」


 アレンは手際よく木を切り分け、運びやすいサイズに加工していった。


「これで木材は確保っと……次は石材か!」


「石材なら、街の採石場に頼むのが早いか?」


 リューンの街には、建築用の石を切り出すための小さな採石場がある。

 建築魔法を使うとはいえ、しっかりした基礎は必要だ。


 アレンは採石場の管理人に頼み、余った石材を安く分けてもらうことにした。


「へぇ、店を作るのかい? 料理人のあんちゃんが?」


「まぁな。自分の店を持つのが夢でな」


「そりゃいい! よし、使えるやつをいくつか見繕ってやるよ!」


 管理人は親切に、適度なサイズの石材を積み上げてくれた。


「助かるぜ!」


 こうして、木材と石材は確保。

 あとは補強用の金属素材だ。


「金属素材は……新しく買うと高いからな」


 そう思って、アレンは街の外れにある廃材屋へと足を運んだ。


 ここでは、使われなくなった鉄材や金属パーツが安く手に入る。

 どうせ建築魔法で加工するのだから、多少ボロくても問題ない。


「すんませーん、使えそうな金属の端材とか余ってません?」


「おお、珍しいな。何に使うんだ?」


「店を建てる補強材にしようかと思って」


「ほぉ、それならこっちの鉄板とかどうだ?」


 廃材屋の親父が、比較的状態のいい鉄板やボルト類を見せてくれた。


「お、これいいっすね!」


「まとめて持ってくなら安くしとくよ!」


「助かる!」


 こうして、最低限の金属素材も確保。


「……よし!」


 アレンは集めた素材を整理しながら、拳を握った。


「木材、石材、金属――これだけあれば、最低限の建物は作れる!」


 建築魔法は素材の組み合わせによって自由に形を変えられる。

 集めた材料を組み合わせれば、小さな店ぐらいなら建てられるはずだ。


「さぁ、次はいよいよ……建築魔法での施工開始だ!!」


 アレンの夢に向けた第一歩が、いよいよ動き出そうとしていた――!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ