第四話 森を抜けて新天地へ!
「……お? おおっ!?」
アレンは目の前の光景に思わず声を上げた。
森の中をひたすら歩き続け、ようやく木々の密度が減ってきたと思ったら――
目の前には広がる広大な草原!!
どこまでも続く緑の大地、風に揺れる草花、遠くには青々とした丘がいくつも連なっている。
そして、澄み切った青空の下、鳥が自由に飛び回っている。
「ついに……ついに森を抜けたぞ!!」
アレンは思わず両手を広げて深呼吸した。
清々しい空気が体の中に広がっていく。
「うおおお!! 広い!! 超広い!! やっと木のトンネルから解放された!!」
森の中での息苦しさから解放されたせいか、テンションが上がる。
無駄に走り回り、ジャンプしてみたり、寝転んでみたりする。
「最高じゃねえか……!」
青空の下、風を全身で感じながら、アレンは満面の笑みを浮かべた。
そんな様子を後ろから見ていたジンは、苦笑しながら腕を組んでいる。
「……めちゃくちゃはしゃいでるな」
「そりゃそうだろ!? 森の中、ずっと薄暗かったんだぞ!? 閉鎖空間から解放されたらこうなるって!」
アレンは草の上に大の字になり、手足をバタバタさせる。
「いや~、開放感って素晴らしい……!」
「子供かよ……」
呆れたようにジンは言ったが、どこか楽しそうに笑っていた。
アレンが寝転んで空を眺めていると、ふと、遠くの丘の向こうに何かが見えた。
「ん? あれは……町か?」
目を凝らすと、確かに建物のようなものが見える。
煙が立ち上っているのも確認できるので、人が住んでいるのは間違いない。
「よし、まずはあそこを目指すか!」
アレンは勢いよく飛び起き、ジンの方を向いた。
「おーい、ジン! とりあえずあの町まで行こうぜ!」
「お前、ほんとに元気だな……。まあ、俺もちょうど補給したかったところだし、行くか」
ジンは肩をすくめながらも、アレンの横に並ぶ。
長い草原を歩き続け、ようやく街の入り口にたどり着いた。
高い石造りの壁に囲まれたその街は、そこまで大きくはないが、活気があった。
門の前には衛兵が立っており、商人らしき人々が荷馬車を引いて行き来している。
「おー……やっと人のいる場所に来たな……」
アレンはしみじみと呟いた。
「ここはリューンって街だ。そこそこ発展してるし、食材も手に入るぞ」
ジンが街を指さしながら言う。
「お前にとっては天国みたいな場所だろ?」
「マジで助かるわ……森の中は食材が限られてたしな」
二人は門をくぐり、街の中へと入った。
道沿いには市場が並び、商人たちが威勢よく声を上げている。
パンの焼ける香ばしい匂い、スパイスの刺激的な香り、焼き肉の香り……
「うおおお……いい匂いがする……!!」
アレンは思わず鼻をひくつかせた。
久しぶりに「ちゃんとした料理」が食えると思うと、自然とテンションが上がる。
「さて……俺はここで別れるとするか」
ふと、ジンが足を止めた。
「……え?」
アレンはキョトンとした顔でジンを見た。
「お前はこれからどうするんだ?」
ジンは腕を組みながら尋ねる。
「え? 俺?」
アレンは考えた。
森を抜けて、新しい街に着いた。
でも……この先、どうするかなんて何も決めてない。
「やっべ……決めてなかった……」
アレンは額に手を当て、頭を抱えた。
とりあえず食って生き延びることしか考えてなかった!!
「お前なぁ……」
ジンは呆れたようにため息をついた。
「まあ、そういうと思ったけどな」
ジンはポケットから小さなコイン袋を取り出し、アレンに放った。
「ほら、少しだけだが旅の資金だ。宿代ぐらいにはなるだろ」
「え!? いいのか!?」
「お前、寝床も決めてねえんだろ? 野宿する気か?」
「……ぐぬぬ」
図星だった。
「とりあえず宿を取れ。そして、これから何をするか考えろ」
ジンは軽く肩を叩くと、踵を返した。
「お前はどうするんだ?」
「俺はもう少し王国の様子を見て回る。リューンには長居しねえよ」
「……そっか」
アレンは少し寂しさを感じた。
短い間だったが、ジンとはいいコンビだった気がする。
「またどこかで会うかもな」
「そのときはうまい飯でも作ってくれよ」
「おう! 任せとけ!!」
ジンは笑いながら手を振り、街の奥へと消えていった。
「……さて、俺はどうするかな……」
アレンは改めて周囲を見渡し、深く息をついた。
リューンの街を歩き回り、アレンは宿屋を探していた。
立派な建物の宿屋もあれば、こぢんまりとした宿もある。
ただし、値段を見ると……高い!!
「……うわ、結構するな……」
市場の飯も食いたいし、手持ちの金はできるだけ節約したい。
そう思っていた矢先、ふと目に入ったのは――
『宿屋リリィの家』
看板はかすれた文字で書かれていて、建物自体も少しボロい。
壁はところどころ塗装が剥がれ、屋根もなんだか歪んでいる。
「……めっちゃ年季入ってんな」
しかし、入り口には『1泊 5シルバー(朝食付き)』という張り紙が貼られている。
「安ッ!!」
他の宿が10シルバー以上する中で、これは破格の安さ。
「……ここでいいや、安いし」
アレンはそう呟くと、扉を押し開けた。
「いらっしゃいませ!」
入った瞬間、元気な声が聞こえた。
カウンターの向こうに立っていたのは、一人の少女。
年の頃は14~15歳くらいだろうか。
明るい栗色の髪を肩まで伸ばし、エプロン姿でニコッと微笑んでいる。
「お泊まりですか?」
「あ、うん。一泊頼む」
「ありがとうございます! 一泊5シルバーで、朝食が付きますよ!」
「安いな……何か条件とかあるのか?」
「うーん、しいて言えば……ボロいってことですかね!」
リリィは自分で言って笑った。
確かに外観は微妙だったが、ここまで堂々と言われると逆に清々しい。
「でも、お部屋はちゃんと掃除してますし、ベッドも悪くないですよ!」
「マジか? じゃあ期待しとくわ」
アレンはシルバーを渡し、リリィに案内されて部屋へ向かった。