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第一話 追放されたけど新大陸で食堂開きます

 第一話 追放されたけど新大陸で食堂開きます

「料理に毒を仕込んで我が息子を殺そうとは……! なんという愚行だ!!」


 俺はカワサキ・アレン、宮廷料理人の料理長だ。


 そして俺の目の前でキレ散らかしているのは自己中でブスで傲慢デブというこの世の終わりみたいな国王と……


「そうだよ!パパ!僕ちんの苦手なピーマンに毒を仕込んで苦しめて殺そうとしたんだ!!」


 わがまま太っちょ王子だ……てかそもそもターゲットが苦手で食べないものに毒は仕込まないだろ?馬鹿かあいつらは……


「あーっ!! パパ! また僕ちんを馬鹿にしてるような目つきをしてるよアイツ!!」


「それは本当か!! この無礼者め!!」


 ……こういうのに鋭いのが余計に腹立つ。


「あなた……少し落ち着いて……」


 この人はシュライク王妃……とても優しくて綺麗な人だ。


 正直言って夫があんな奴なのが不思議だ。 死んでも理解できない。


「お兄様……! コックさんは私たちのために幼ころからずっとここで……!」


 そしてこの子はユリア姫……簡単に言うと天使だ。


 大体4歳差ぐらいか? 俺が6歳の頃の修行時代から離乳食などをよく作ってあげたしお世話もした。 元気でいい子に育ってくれて何よりだよほんとに……


 だが……


「「うるさい!!」」


「僕ちんを疑うならお前の首を刎ねてやるぞ!!」


「……!! ご、ごめんなさい!!」


「ふん! それでいいんだ! 兄の命令は絶対だからな!!」


 どこまでクズなんだこいつは……!! 妹の面倒を見るそっちのけで踊り子の演奏を見ていたくせに……!!


「そうと決まれば貴様は斬首の刑だ!!」


「待って!!」


「彼は私が雇いました……! 私が責任を持って罰を与えます!!」


「なんだと? 貴様……!」


「私にやらせなければ離婚しますよ……!」


「り、離婚!? それだけは……!!」


「ならば黙って二人とも王室に戻りなさい!!」


 デブ親子二人はしょんぼりとして玉座の間を後にした。


「…………はぁ」


「お母様……」


「本当に離婚してやろうかしらあいつ……!」


 すると王妃は俺の方を悲しそうな目で見つめた。


「ごめんなさい……家族同然のあなたを守ることができなくて……」


「私もなんてお詫びすれば……」


「……謝らないでください、王妃様」


 俺は静かに首を横に振った。こんなことで落ち込んでいる暇はない。


「でも……!」


「俺は料理人です。命を賭けるのは、この国の食卓を守るためですから」


 そう言うと、王妃はますます悲しそうな顔をした。

 隣でユリア姫も、今にも泣き出しそうな目をしている。


「……あなたは本当に、昔から変わらないのね」


 王妃はふっと微笑んだ。しかし、その瞳には何か決意のようなものが宿っていた。


「アレン。あなたをこの国に置いておくのは、もう限界かもしれません」


「……それは」


 俺は思わず言葉を詰まらせた。


「あなたを守るために、私にできることは一つだけです。……この国から出てもらうこと」


「!!」


 思わずユリア姫が息をのむ。


「待ってください! 俺はそんなつもりじゃ……!」


「わかっています。でも、あなたはあの王と王子にとって邪魔な存在になってしまった。

 今日の一件で、次は本当に命を狙われるかもしれません」


 王妃の声は静かだったが、その瞳には深い憂いがあった。


「……逃がすつもり、ですね?」


 俺の問いに、王妃は小さく頷いた。


「ええ。表向きには『島流し』として」


 ユリア姫が王妃の袖をぎゅっと握った。


「お母様……そんな……!」


「ユリア……あなたの気持ちはわかるわ。でも、アレンの命を守るには、これしかないの」


「……っ」


 ユリア姫は必死に涙をこらえている。


 俺は少し考えた。


 王と王子の性格を考えれば、俺がこのまま宮廷に残るのは確かに危険すぎる。

 いつ毒殺されるか、冤罪で投獄されるか、何が起こってもおかしくない。


「……わかりました」


 俺は深く頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました。王妃様……それに、ユリア姫」


「アレン……!」


 ユリア姫が悲しそうに俺を見つめる。


「あなたがここを離れた後も、私はずっとあなたのことを想っています。あなたは……私の家族ですから」


 王妃の言葉に、胸が熱くなった。


「……ありがとうございます」


 俺は心の中で決意を固めた。


 この国を出たとしても、俺の料理人としての誇りが消えるわけじゃない。

 どこへ行っても俺は――料理人、カワサキ・アレンだ。


 夜が更けても、ユリア姫の涙は止まらなかった。


 アレンが処刑されるかもしれなかった危機が過ぎ去ったことは、確かに安堵すべきことだった。

 けれど、結果として彼は遠くへ追いやられてしまった。


「……アレン……」


 誰もいない部屋で、小さくその名を呼ぶ。

 幼いころからずっとそばにいた兄のような存在。

 誕生日のたびに彼の作るケーキを楽しみにしていた。

 悲しいときは、優しい笑顔と温かい料理で慰めてくれた。

 それなのに――


「もう……会えない……」


 涙が頬を伝い、シーツを濡らしていく。


 もっと強く引き止めていたら。

 もっと何かできていたら。


 そう考えたところで、どうにもならないことはわかっている。

 けれど、どうしても後悔が胸を締めつける。


 ユリア姫は静かに泣き続けた。

 まるで、心に空いた穴を埋める方法が見つからないかのように。


 翌朝――新たな大陸


「……ん?」


 船の揺れが止まった感覚に、俺は目を覚ました。


 昨晩、王妃様の計らいで王宮の地下からひっそりと出航し、俺はこの船に乗せられた。

 確か目的地は王妃様の弟が治める別大陸だったはず。

 地図で見たときはそこそこ距離があったはずだけど……


「ん~~~……」


 寝ぼけ眼でデッキに上がる。


 ……ん?


 目の前には広がる新たな大地。


 そして、振り返ると……出航したはずの大陸がまだ普通に見える。


「え? 思ったより近くね?」


 俺は呆然とした。


 昨日、王妃様は「遠くへ逃がす」と言っていた。

 俺も心の準備をしていた。


 それなのに、想像していたほど遠くなかった。


 ――俺、これ普通に泳いで帰れるんじゃね?


 そんなことを考えてしまった。


 




 

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