大開拓中、村人の移動時期は何時だ?
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夏になり、色々と情報が集まってきた。既に税は満額納めてあるので、領都からの情報は入ってこない様になっているんだが、それでも噂というものは流れてくる。人の行き来が殆どないのにも関わらずだ。殆どないだけで、商人は動いている。マセルの商人には動くなと厳命してあるが、他の町の商人はどうやら動いているらしい。それに冒険者も多少の動きがあるようだ。冒険者だって、食べ物が無ければ生きていけない。暮らしている場所の食べ物が無くなってくれば、それは移動したくもなる。そういう事もあって、なんだかんだと情報は入ってくるんだ。
「デーデル。既に領都周辺の街道は元農民によって抑えられ、領都が孤立、籠城をしているらしいが、普通に考えたらあり得ないと思うのは俺だけか? 籠城は悪手だろう。領都には畑も無く、食料がこれ以上入ってこない。税は年に1度だけ。それを輸送するにしても軍が必要になってきている。そこを襲撃されれば終わりだ。というかだな。そもそも次の税を回収するまでに持つと思うか? 籠城は増援の予定があって初めて成り立つ作戦だ。そりゃあ生産活動を全て外壁の中で出来ているのであれば、籠城という選択肢も出てくるかもしれないが、そんな事は出来るわけがない。言ってしまえば、ここで賊撃ちをしなければ、自分の首を〆ているのと変わらないぞ?」
「賊の体力がそこまで無いと判断しているんでしょうな。……正直な話、賊にまでなり下がっているのですから、彼らは何でもすると思うのですがね。人間を襲う事も躊躇わないでしょうし。そもそもですが、森に入っているのであれば、魔物や動物も食べているでしょう。もしかしたら虫なども食べているかもしれません。そういった状況で、賊の体力が落ちるかと言われたら、難しいでしょう。何が何でも生き残るという事に全力になりますよ。籠城しても無意味でしょうな」
だろうな。籠城とは、そもそもその都市で完結しているか、増援の見込みがないと成立しない。囲んでいる賊が死ぬのを待っているだけの時間があるのかと言いたくなってくる。俺ならば打って出るしかないと判断するがな。賊同士で結託される前に、各個撃破するのがいいだろう。……既に手遅れになっているのかもしれないが。賊は賊同士の連絡手段があってもおかしくない。こういう状況だ。だし抜き合いも必要だろうが、協力できるところでは協力するだろう。敵の敵は利用できる敵だ。利用することを考えてもおかしくはない。
それに、賊の方は増援が見込めてしまうのが恐ろしい。農民から蜂起が予想されている。いや、既に予定になっている。……商人からの情報で、既に来年の税を納めずに兵糧として使い、領都を占領するという計画が色んな村から情報として流れてきてしまっている。勿論、俺たちの村はそれには参加をしない。寧ろ村に人を呼び込もうとしている。各村で800人程度なら面倒をみれる。合計すると約5000人ならなんとかなると思っているんだ。それ以上に来られても、2年でなんとかするつもりである。難しい話ではない。寧ろ簡単だと思うぞ。蜂起するよりも、確実に生き残れるんだから。
それでも全農民を抱え込むのは無理だ。どうしても蜂起する場所は出てくる。それを領都が食い止めることが出来るのか。出来たとして、今後どうして行くのか。それが問題になってくるだろう。村が無くなり、食料が滞ったらどうなるのか。町人は死ぬしかない。食料があってこその人間だ。食料が無くなれば、おのずと死んでいく。貴重な食料源である冒険者も逃げている所なんだ。冒険者は狩人と同等の食料生産が出来る。まあ、魔物を狩るという仕事なんだけどな。ゴブリンでもなんでも、肉であれば食えなければ死んでいくぞ。どれだけ不味くても、食わなければ死んでしまう。
そんな冒険者も、実はマセルや俺たちの領地の村に集まってきているんだ。何処から情報が流れたのかは知らないが、冒険者の人口が増えている。マセルの冒険者もなんだかんだと言いつつも、倍程度には増えてきているんだ。……食料のある所に冒険者が集まってきてしまっている。これでは、別の地域の魔物被害をどう抑えるのかが心配になってくるが、そもそも町や村を維持できないのであれば、どの道終わりなんだけどな。
人口は無限に増えてくる訳では無い。それは人間なら解っていて当然の事なんだ。子供を産んで、10年以上育てなければ、労働力として使えない。魔物とは違うのだ。その辺は解っている筈なんだがな。農民とて、町人とて、食料が無ければどうしようもないというのに。
「これからの予想としては、春になれば一気に人口が増えるという事だったと思う。秋の終わりに増えることは無いか? まずはそこを修正しなければならないかの問題から話をしておこう」
「増える可能性はあるでしょうな。ただし、どちらにしても食料は自前で持ってくることが出来ます。……それなりにという条件ではありましょうが。全部を持ってくることは不可能でしょう。馬車は高級品ですし、橇を使ってなんとかという事になります。食糧庫の食料を全て持ってくるだけの余力があれば、そもそもその村で過ごせるでしょうからな。それが終わってから、全ての食料を持って逃げてくる。これが一番の策になるでしょう。春になり、税を納めるべき時に居なくなれば良い訳ですからな。急いで逃げてくるのであれば、そもそも食料を貯め込めていなかった村になるので、どちらにしても早いか遅いかの違いしか無いと思います」
「そうだろうな。村人であれば、食料を無駄に放棄することは出来ないだろう。今は食料がもの凄く大切な時期だ。余すことなく使う方を選ぶだろう。……食い詰めた村人が来る可能性があるのか。それで俺たちの村の体力は持つと思うか? 具体的に言えば、肉類の支援は行い続ける。それで冬を越せるだろうかという事になる」
「なんとかなるとは思います。現状ですが、村の肉類はまだ余っている状態だと聞きます。塩で漬けてありますからな。保存は出来るので大丈夫でしょう。今も村に支援を送り続けているとのことですし、問題は無いでしょうな。守りも完璧に熟してもらっている様子。私たちの領地にはまだ余裕がある状態です」
「今の食料支援でギリギリ余っているという状況か。それならば今冬はなんとかなるか。来年の畑仕事を何処まで増やすことが出来るのかだな。麦は広範囲に植えられる。その位の種はあるはずだ。畑のやりくりで何処まで耐えられるのかが変わってくる。農民には無理をしてでも野菜を多めに作って貰うしかないか。そうしなければ、どんどん押し寄せる村人の管理が出来なくなる。税がどうのこうのと言ってられない状況になりかねんな」
「少しばかりいつもよりも働いてもらう必要があるでしょう。農民も解ってくれると思います。そうしなければ自分たちも生きるのが辛くなりますからな。今は無理をしてでも耐えて貰わなければなりません。まだ冷夏は収まらないんでしょう?」
「収まらんらしい。早く終わってくれると良いんだがな。そんなことはなさそうだ。どれくらい続くのかも解らない。最悪は、そのまま戦争になることだな。食料問題の関係で戦争を起こされるぞ」
ある話である。敵国が飢饉に襲われていたら、攻める好機である。そんな好機を逃してくれるのかという話になってくるからな。俺ならば、停戦が終わったら即攻める。もしかしたら、停戦明けを待たずに戦争を吹っ掛けてくる可能性すらある。勝てば良かろうなのだの精神だな。それも悪いとは居ない。確かに勝った方が正義なのだ。今がチャンスならば、約束を反故にしてでも攻めた方が良いのかもしれない。




