突然変異を求める
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『そんな訳でさあ。なんとかならないかなって思ってさ。技を極めるのも良いと思うんだけど、それは彼らの求めているものではない気がするんだよね。技もあった方が良いんだろうけどさ、そうじゃないと思うんだよ。圧倒的な力ってのが必要なんじゃないかなって思っているんだよね。それってさ、技とは対極にある気がするんだけど、違う?』
「違わないだろうな。技を極めるのは確かに強くなれる。単純な力よりも早く圧倒的に強くなれる。だが、それでは突然変異にはならないと思う。技を極めるのは突然変異が起きてからになると思うんだよ。今極めても良いんだろうが、それでは鬼子母神たちの願いは叶わないだろうな。求めるのであれば、圧倒的な力だ。技も何もかもを全て捻じ伏せるだけの圧倒的な力。突然変異はその先にしか無いと思う。求める方向が違うな。恐らくだが、という意見にはなるが」
『そうなんだよね。僕もそう思うんだ。でもさ、努力している鬼子母神たちに言える? 技術じゃあどうにもならないよって。頑張っているのは解るからさ。何とかしてあげたいんだよ。なんとかならないかな? こう、圧倒的な力を手に入れる方法って無いのかな? 出来れば教えてあげたいし、僕も強い魔物が欲しいからね。なんというか、ままならないのが解るんだよ。このままじゃいけないんだろうなって、彼ら自身も解っているとは思うんだけど』
力こそ全て。それを体現するにはどうするのか、か。訓練するのが一番いいんだろうが、闇雲に力を求めた先に、その突然変異があるのかって話だよな。ここで進化が止まっている意味だ。当然だが、突然変異にもある程度は法則がある。何かしらの原因がある。オークからフロストジャイアントに突然変異をしたように、環境に合わせてという側面が大きいからな。今のままでは駄目だから、故に魔物が変化する。動物が魔物化する。だから、技ではどうにもならない気がしている。
「解っているかもしれないが、俺にはどうにも出来ないぞ? 俺は天才でも何でもない。普通の人間だ。俺が突然変異を体験し、経験し、熟知しているのであれば参考になるかもしれないが、そんな経験は無いからな。俺は人間から足を踏み外したことはない。人間だからこそ、ユニークスキルもギフトも貰えているんだからな。魔物はそういうのは貰えていないと、前に話したことがあるだろう?」
『まあ、そうなんだけどね。でもさ、なんとなくだけど、マクシミルって普通の人間とは違うじゃん? ほら、ここに連れてきたアルマイア、彼とは全然違うしさ。なんというか、何かを知っているって感じがするんだよね。それがなんなのかは解らないけど、僕はマクシミルは普通の人間じゃないと思うんだよ。だから、何か案が出てくるんじゃないかなって思っているんだけど、どう?』
「普通の人間とは違う、か。まあ、普通ではないのは確かだ。人間ではあるが。普通でないと言われたらそうだと答えるだろうな。精霊はその辺は看破して見せたが、魔物では解らないって事もあり得るからな。だが、違和感を感じたのであれば正解だ。普通とは言えない」
『だよねー。普通の人間じゃないのは解ってたけど、人間なのは変わりないんだね?』
「ああ、そこは変わりない。人間の範疇でしかない。だから、突然変異を起こすことが出来ないかって言われて、出来るとは言えない訳だ。俺自身は人間であるし、突然変異を起こしていたら、既に人間では無くなっているだろうからな」
転生者ですと言って、やっぱりねとはならないだろうからな。精霊が異常なのであって、メルカバに言っても仕方がない所ではある。だから突然変異をどうやって起こすのか、そんな事は俺には解らない。……精霊なら知っているのかもしれないが、教えてくれるかどうかは別なんだよな。禁忌には触れないとは思うが。電気を扱う訳では無いんだし、禁忌に触れるのかって言われたら違うだろうと思う。電流を流したからって、突然変異するとは限らない訳だしな。……どうする? ネズミに電流を流して、黄色くなったら。そんな事は許されないと思う訳だ。世界に許されても異世界からは許されない。ハハッなんて言い始めたらもっと許されない。だから電気がどうのこうのというのは関係ない筈なんだけどな。
『簡単には出来ないよね。寒い環境でなら突然変異するかもって思ったけど、それだと強くなるのかは別問題だしね。寒さには強くなるのかもしれないけど、それは力とは違う訳だし』
「まあ、そうだろうな。力と言っても物理的な力に限定されると思うからな。魔法が使いたい訳でもないとは思う。それならマジックワンダーに師事した方が近道だからな。それをしていないという事は、魔法ではない力を手に入れたいという事だ。……まあ、魔法のような何かなのかもしれないが、方向性としてはそんな感じだな。最悪は精霊に聞くという方法もあるんだが……」
『一応聞いてきてよ。今なら居るからさ。少し走るだけでいいんだから、行って来てよ』
まあ、仕方がないか。精霊に聞いてみて、駄目ならそれでまた何か考えれば良いんだし。知っているのかどうかが問題なんだけどな。
「ああ、居たか。すまない。少し聞きたいことがあるんだが、良いか?」
「転生者ですか。なんですか?」
「突然変異を起こすにはどうしたら良い?」
「人間を止めるつもりですか? そうなるとユニークスキルやギフトは剥奪されますけど?」
「いや、俺は人間を止めるつもりはない。鬼子母神が突然変異をしたがっている。……いや、圧倒的な力を求めていると言った方がいいかもしれない。だが、それを手にするにしても、突然変異は必要だろう? 電気を使ってどうにかなるのかも少しは考えたが、出来るかどうかは置いておいても、それで精霊と敵対するのはよろしくない。他に方法があるのであれば知りたいんだが」
「ふむ。そうですねー。雷の素を使っての突然変異が出来ないとは言いません。しかし、それにも相性というものがあります。必ず出来る魔物も居れば、出来ない魔物もいる、とはお答えできますね。もっとも、先ほど言ったように、それをすれば、世界からエネルギーを吸い上げる行為として、精霊からは嫌われますね。なるべく排除する様に働きかけるでしょう。ですが、方向性が間違っているのかと言われたら、そうではありません。突然変異をするのであれば、圧倒的に足りないのがエネルギーです。多くの存在が突然変異を起こした後、繁殖が出来なくなるのはエネルギーが足りないからですね。それでも無理やり突然変異を起こすから、無理が祟って繁殖力を失うのです。……稀に残る場合もありますが、ほぼ失われると言っても良いでしょう。よって、突然変異にはエネルギーが必要なのです。それは内部外部問わずですね」
「……なるほど。エネルギーか。それを手頃に得られる方法に心当たりはないか?」
「さあ? 手頃にだと、戦闘を繰り返すことじゃないですか? それでも留まるエネルギーとそうではないエネルギーがありますし、そもそもその手のエネルギーは進化に使われてしまいますからね。それに、進化と突然変異ではエネルギーの必要量が違います。どの位とは一概には言えないですけど」
「そうか。……何か方法があれば良いんだな? エネルギーか。それがあれば……」
手頃に手に入るエネルギーは何がある? 熱なら確かに簡単かもしれない。だが、鬼子母神が望んでいるのは純粋な力なんだよな。位置エネルギーや運動エネルギーなんかは蓄えてどうするって話だし、何か方法があるのか?




