商人の動きとこれからの動き
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今年の夏ももの凄く涼しい。……去年よりも涼しいという感じはしない。同じくらいだ。最悪だと言っていた精霊が正しかったのだと言う事だろう。これは朗報でもある。去年よりも悪くなることはとりあえずは無くなったと言う事なのだから。それに伴って、オゾン層を取り払う様な事も無いんだろうな。自然災害が増えるという事は、かなりの問題だからな。それが無いだけでも助かると言う事なんだよ。
「食料に関しては問題ないとは思うが、一応の確認として来てもらった。動きとしてはどんな感じだ? こちらでは商人の動きまでは把握しきれていないからな。来ていることは知っているが、どういう状況になっているのかまでは解らない。詳しく聞かせて貰えるか?」
「そうですな。とりあえず、商人の数は増えております。大半が食料を売ってくれという事ではありますが。こちらとしても、去年から不作が続いており、売れるだけの食料が無いのだと伝えている所です。それに、この町からの大量の買い付けがあったことは解っているのです。この町が前から食料に困っていたという事になっておりますからな。言いたくても言えないという感じでしょうな。一部は、去年売った食料を返せと言ってきた輩も居りますが、金銭で清算した以上は、何も言えんでしょう? と突っぱねております。こちらとて、食料品にはそれ程余裕はありませんからな。去年よりも不作になったら、来年の分の食料が足りなくなる可能性があります。流石に肉だけでは生活が出来ないですからな。まあ、こちらに関しましては問題ありません」
「そうか。まあ、そうなるだろうとは思っていたが、思った通りになるとそれはそれでどうなんだという事にもなるな。食料が不足している訳では無いが、去年よりも悪くなる可能性がある以上は何とも言えん。……ここだけの話だが、今が最悪の可能性が高いそうだ。よって食料は去年並みにはあるはずだ。この世界の管理者からの発言だ。嘘ではないはずだが、そもそもの問題がこの世界とは別の所の問題なんだ。確定ではないが、それなりの確度のある情報だと思ってもいい」
「おお! それはそれは。でしたらなんとかなりますな。切り詰めなくても生活が出来るだけの食料は手に入ると言う事ですから。……ですが、外部には売れませんな。売れても冬を暖かく過ごすための製品だけになるでしょう。そちらの需要も上がって来ておりますのでね。人間というものは、食べずに過ごすと寒くなるようですからなあ。常に暖かくしておくべきなんでしょうが、それには食事が欠かせないと。難儀な生き物ですなあ」
そうだな。食事をしないと人間は発熱しない。まあ、殆どの生き物がそうなっているんだけどな。食事からエネルギーを取り出して、それを使って動いているんだ。人体には詳しくはないが、色々とあるそうだぞ? まあ、熱を逃がさない工夫も確かに大事なんだが。冬用の服や製品が売れているのはその所為だろう。体温が下がると何も出来なくなるからな。こんな時でもしっかりと商売をしているのには関心するな。
「それはそうと、村の方でもひと悶着があったそうだぞ? 村に直接買い付けに行った商人が居たらしい。かなりの高額で食料品を買おうとしたらしいが、ちゃんと断ってくれたとの事だ。兵士もいるし、魔物も配置してある。力ずくでという心配は無いはずだ。……安心しろ。街道にも魔物を潜ませてある。輸送中に襲われるなんてことも無いはずだ」
「流石に手が早いですなあ。もっとも、商人を襲うようになるのはもう少し先でしょうが。村の人間が盗賊の様な事をし始めてからでしょう。しないとは限りませんからな。商人が商人を襲うのはその後の話。最終段階までいくとそうなる可能性があるという事になります。……して、期間はどの程度なのかは解りましたかな?」
「いや、期間は解らん。最低でも5年程度はこのままだそうだ。今年で3年目だ。少なくとも半分しか終わっていない事になる。暫くは耐えてくれ。ああ、メイプルシロップは売っても構わん。あれはそもそもそういう需要とは関係ない所だと思うからな。貴族や富裕層に高値で売ってやれと宣伝をしておくが良い。流石のレッタニンでも伝手が無いだろう?」
「ですなあ。直接売りに行くにはどうしても伝手が必要になりますからな。こちらには流石にありませんでして。申し訳ないですな」
「いや、いい。この件についてはどうしようもない事だ。それまでのマセルの状況を考えると、とてもじゃないが、貴族家に伝手を作る意味などないからな。売り先があるだけでもまだマシだ。自分たちで消費する分はガムシロップでなんとでもなるだろうからな」
「ですな。そこまで濃厚な甘味を求めている訳ではありませんし。そもそもガムシロップでさえも十分に甘いですからな。それが食べられるだけでも恵まれています」
甘味はどうしても高くなる。砂糖の入手経路がどうしてもな。アイスクローブ王国よりも南の国で作られているらしい。そこで関税がガツンとかかる。それから更にタイガランド王国に入ってくるときに更に関税が上乗せされる。馬鹿みたいな値段になっているのはその所為だ。それでも貴族には売れるというのだから馬鹿らしい。その分をもう少し軍備に振り分けていたら、もう少しはアイスクローブ王国との戦争で勝負になっただろうにな。
ただ、甘味があればなんとか生きられる。メイプルシロップだけの生活でも数か月はなんとかなるんだ。普通に栄養不足で最終的には死ぬんだが。それでも糖はエネルギーの塊。それだけでも何とか生きられる代物ではある。高すぎて平民では手が出ないんだけどな。そのことも考えて、貴族家が何とかしなければならないんだが、本家からは何も連絡がない。つまりは減税することも考えていないという事なんだよ。本気で領都以外を潰しに来ていると思って良いよな。自分たちでなんとかしろというよりも酷い。税だけはきっちりと取るんだからな。
何もかもを自分たちで守るしかないんだ。自衛した結果、他の町が滅びかけても知らないという感じである。こっちも生きるのに精一杯なんだ。他所の助けをしている程、食料が余っている訳では無い。確かに余剰はあるが、食料自給率で言うと、130%程度である。十分に危険水準だ。食料自給率は200%が普通だ。100%なんて基本であって、危険水域には変わりない。それ以下など論外にも程がある。200%で100%を腐らせる程度で丁度いいのだ。食料とは、その位に大事なものなんだよ。大事なものは余分に確保しておくべきなのだ。
しかし、農村が他の商人に食料を売ってしまわないかだけ注意しておかなければな。脅迫もそうなんだが、泣き落としなんかをされたら、売ってしまいかねない。それではカモにされるだけなんだよ。1度があれば2度目がある。2度目があれば永遠に集られる。商人はそういった生き物だ。人情で動く商人は殆どいない。殆どすべての商人が、自己の利益の為に動くのだ。それは悪い事ではない。常識的な事なんだよ。その常識を知らないと、演技でも助けてあげなければという感情を持ってしまう。それで付け込まれては、色んな所に迷惑をかけてしまうんだ。次に商人がいうのは、あそこの家は売ってくれたのに、この薄情者、だろうな。解っていても、それでも、売らないという鉄の意志が必要になってくるんだ。農民に出来るのかは解らないが、伝えておくだけでも違うだろうからな。




