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ep8.何も知らないお嬢様に見えますか?

「街ですか?」


まさかの予想外な言葉に私は聞き返してしまった。もっと物理的なことかと思っていたので、少し拍子抜けした。


「そうだ。まずは街を歩いて俺の隣は空いていないことをそれとなく認識してもらう。これを二週間続ける。そして二週間後婚約発表のパーティーに出席してもらうことになる。」


「分かりました。婚約発表のドレスはどう致しますか?」


「流石に俺が払う。俺の頼みだしな。」


「そうですか。ありがとうございます」


会話は淡々としていて、仕事の事務的な会話をしているみたいだった。

夕食を食べ終わった後私はお風呂に入り、部屋で明日の用意をしていた。


街に出歩いてレオに婚約者がいると認識させるということは、少なからず多く歩くはずだ。

だとしたら機能性重視の服の方がいい。尚且つ一人で着れる服。

服装が決まれば後は小物やヘアアレンジだが、本来なら侍女にやってもらうのだろう。


しかし伯爵家ではミリーしか私の専属メイドがいなかったため、私も何かと一人ですることが多かった。

だから、例えメイドがいなくても実際何とかなる。元捨て子の私からすればこのくらいどうってことない。


「…もう寝よう。」


あまり良い思い出ではないことを思い出してしまった。


公爵家に来て初めての夜。


やっぱり床は硬かったし寒かった。


それでも身体は限界を迎えていたので、あっという間に眠りについていた。



『……なもの!』


"…?何の声だろう。"


少し声を荒げているその声は、聞き覚えのある声だった。


『こんなもの!』


こんなもの。とは何のことなのだろう。

見たらいけない気がする。だけど、見ないといけない気もする。


『こんなもの!消してやる…跡形もなくね…』


"…っ!!"


私は知っていた。

この声も、セリフも、この言葉を言っている人も。


『やめて…!』


つい、言葉を発してしまった。


だけど、私の声があの人に届くことはなく、永遠に【何か】を壊し続けた。

もう二度と見たくなかった光景。


呼吸が苦しくなる。


大切なものが一つずつ壊されていく。


そんな2度と思い出したくないものを思い出した。


あれから、私は大切なものや人をつくらなくなった。私が大切に思わなければ、誰も何も壊さない。

それで、良かったのに。


『もう壊さないで…!』


私が強く願った瞬間、辺りは闇で包まれた。そして、同時に私の意識もなくなった。






「……あ」


" 夢か"


最悪な目覚めだ。

時計を確認すると、朝の5時だった。

約束の時間は午後からなのでこんなに早く起きるつもりはなかったのに。


夢のせいで大分と頭が痛い。


でも今日は約束の街へ出掛ける日なので、体調不良を理由に行かない訳にはいかない。

ただでさえ私の信頼は0だと言うのに、今日行かなければ更に私の評価はマイナスになるだろう。

それで追い出されでもしたら私は行く当てがない。ここは踏ん張りどころだ。


一人で用意するには時間もかかるし何から始めようかと思っていた時、突然ノックの音がした。

扉を開けると、そこにはメイドが3人いた。


「何かご用でしょうか」


私が質問してすぐに、メイドの一人が私の髪を引っ張ってきた。

私は声にも顔にも出さずにジッとメイドの目を見た。


「あんた生意気。突然ここに来て、旦那様の婚約者だなんて、身の程を弁えたらどうなの?それか早めにここを出た方が良いんじゃないですか?とりあえず、旦那様の邪魔になることだけはしないでください。」


私をこの部屋まで案内したメイドがそう言葉を発する。

ああ…なるほど。全部分かった気がした。


どうしてこのメイドが私の髪を引っ張り、乱暴な言葉をぶつけるのか。


ここの侍従は私の事情を全部は知らない様子だった。そうと分かれば、全部言ってしまえば良い。

この人たちは、私のことを何とも思っていない。それどころか、良くは思っていないだろう。


だったら別に、私が死んでもこの人たちには何の問題もないしレオに婚約者がいなくなることに安堵するはずだ。

誰かに看取ってもらいたくてここに来た訳ではない。殺してもらうために来た。それをこのメイドたちは知らないのだ。


「安心してください、メイドさん。」


「は?」


「私、半年後には死にますから。遅くても一年。その期間以内に私は死にます。決して公爵様が好きだからとかお金に目がいったとか、そういう理由ではないので安心してもらって大丈夫です。邪魔をするつもりもありません。」


なぜ死ぬのか、どうやって死ぬのかは言わないけど、これでメイド達も安心するだろう。

そう思っていたのに、何故かメイド達は私の髪を離して焦り出した。


「っ!奥様…!すみま…!」


何かを言おうとするメイドの口に私は人差し指を当てた。

もしそれが私のことに関することなら口に出さないでもらいたかったから。


悪口を言われるのはあまり好きではない。言われるくらいなら何も知らないでいる方が余程マシ。


「内緒ですよ?先の話。特に一年以内と言うのは公爵様に報告する時にも秘密にしてください。分かりましたか?」


「…何故、ですか。」


「申し訳ないですが、それは言えません。まあもしかすると、半年後に死ぬというのは公爵様が答えてくれるかもしれません。気になるのであれば、半年の方を聞いてください。一年と言うのは、先も言った通り秘密ですよ。」


「分かり、ました。…それで、っあの!」


次から次へと話題を出そうとするメイドの口を塞ぐように私は言葉を発した。

このまま話すことを許してしまえば、私の領域に入ってきそうで、それだけは絶対にさせたくなかったのだ。私の壁を壊させはしない。


「一度向こうへ行ってもらえますか?出掛ける準備をしないといけないので。」


「………その、準備を私達でさせて頂けないでしょうか…」


私の話を聞いて頭でもおかしくなってしまったのか、数秒前まで目の敵にしていた私のために準備なんて、信じられる訳がない。

この人たちもまた、私をのうのうと生きてきたお嬢様だと思っているのだろう。


世の中を知らないお嬢様。

メイドに暴力を振るうお嬢様。


「…必要ありません。用意は私だけで出来ますし、髪を引っ張るほど私を恨んでるあなたにお手伝いはお願いは出来ません。それでは」


そう言ってドアを閉めた。


もうすぐ死ぬとはいえ、弱みを見せるなんて私らしくない。


私は口から吐き出しそうなものを我慢して急いで水のあるところに向かった。


ーゴフッ…_!ー

最後まで読んでくださりありがとうございました!

次話も見て頂けると嬉しいです!

評価&グットで応援、ご指摘よろしくお願いします

m(_ _)m

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