ep6.恩人との再会
まさか私が待つと言うとは思わなかったのだろう。
ずっと紳士的な対応をしてくれていた門番が、初めて腑抜けた声を出した。
だって、この機会を逃せばもう二度と会えなくなるかもしれない。
だったら、会う以外の選択肢なんてない。
「夕方まで待ちます」
「ですが!……いえ、分かりました。帰る時はいつでもお声かけください」
「…ありがとうございます」
やはり紳士的だ。そしてこの会話以降、私は門番と話すことにした。
「門番さん。門番さんはどうして公爵家で門番をしようと決めたのですか?」
「ああ、私は令嬢の思うようなかっこいい理由はありませんよ」
「かっこいい理由ですか?」
「はい。公爵様に憧れた。だとか、剣技を拝見して強くなるため。などです」
どうやら紳士な門番のかっこいいの基準はそこらしい。
理由を言えば何か言われるとか思っているのだろうか。もしそうだとすれば少し心外だ。
「私はかっこいい理由を聞きたいのではありません。門番さんが公爵家で門番をしようと決めた理由です」
「…!っはは、キャンベル伯爵令嬢はとても面白いですね。ですが本当につまらないですよ。それでも良いですか?」
何も話さず夕方まで待っているよりも、誰かと他愛のない話をしていた方がつまらなくはない。
一番つまらないのは、誰からも相手にされないことだということを、私は経験している。
「もちろんです」
「分かりました。私が公爵家で門番をしようと決めたのは、お金の為です。私は庶民なので、お金を稼ぐ術を見つけなければいけませんでした」
これだけ聞いて、どうしてこの人が私に親切だったのかが分かった。私が貴族だからだ。
逆らえば何をされるか分かったものじゃないことを、この人は知っているんだと思う。
だけど、貴族じゃなくてもこの人なら同じ対応をしたんだろうなとも思う。
門番の立ち振る舞いから、それは重々感じていた。
「私には家族がいるんです。妻と娘。二人を生活に困らせることなく養うためには、普通の仕事じゃ足りませんでした。そこで、サリバン公爵家で門番を募集しているという情報が耳に入りました。幸い剣技は得意だったので、門番に受かり、無事に家族を養うことが出来たという話です。つまりは、お金に目がくらんでこの職業に就いたのです。つまらないお話ですよね」
「いいえ、全くそんなことありません」
「え?」
私は、ありのまま思ったことを口にした。
この話のどこがつまらなかったのか、そしてかっこよくない話だと思っているのか、説明してほしいものだ。
「カッコいいじゃないですか。つまりは、家族を幸せにするためにこの職業に就いたということでしょう?とても素敵な理由ですよ」
「…!!まさかそんな素敵な言葉に変えられるとは…。なんだか少し救われた気がします。ありがとうございます」
「いえ、お礼を言われるようなことはしてません。それより、夕方までお話に付き合ってもらってもいいですか?」
「はい…!喜んで」
◇◇◇
門番と話してどれくらい時間が経っただろうか。
辺りはすっかり夕暮れ色に染まっていた。
門番との話はとても楽しく、思いの外早く時間が過ぎた。お昼を食べるのも忘れるくらいに。だけど、自然とお腹は空かなかった。
私が門番と何気ない話で盛り上がっていると、門の開く音がした。
「おい、うるさい。先から誰と話して…て、誰だ?知り合いか?」
どうやらレオが様子を見にきたようだった。
私が朝訪ねた人だとは気付いていないらしい。
「いえ、朝訪ねてきたご令嬢です」
「朝…?まさか、キャンベル伯爵令嬢か?」
流石に予定が立て込んでいたのか、私との約束は先ほど思い出したようだった。
まあ仕方がない。これに関してはアポなしで来てしまった私が悪い。
「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。キャンベル伯爵家のソフィアと言います」
「まさか本当に待ってるとはな…まあいい。俺と話がしたいのだったな?」
やはり、子供の時とは口調も姿も違う。口調は少し荒々しい気がするし、姿は男らしくなったと思う。
全く違う人と話しているみたいで少しソワソワしてしまう。
「はい。5分で構いません。どうか私の話を聞いていただけませんか?」
「…はぁ、まあいい。入れ」
呆れられたっぽいけど、何とかレオと話す時間を貰えた。
私は応接室に連れられ、レオはドカッと大きい音を立てて座った。
「ん?お前、座らないのか?」
「えっ、と、座ってもよろしいのでしょうか」
「は?座らないと話が出来ないだろうが」
しまった。家ではいつも座れと言われてから座っているため同じようにしてしまった。
"普通の貴族はそんなことしない…?"
「そうですよね。失礼します」
私が座ると、急かすようにレオは私に要件を聞いてきた。
「で、要件は」
見てくださりありがとうございました!
次話も見て頂けると嬉しいです!
評価&グットで応援、ご指摘よろしくお願いします
m(_ _)m