ep56.決意は固いようで
「ふふっ、その可愛さに免じて今日は許してあげる。じゃあ本題に入ろうか。ソフィアちゃんが生きるための方法」
「「…!」」
カルロスがいつもと違ったのは、語尾を伸ばさないところ。つまり、今から話すことは紛れもない事実でありカルロスの真剣さを表す。
私とレオは緊張し、カルロスは少し間を置いた後、ゆっくりと話し始めた。
「まず始めに、この国じゃ治療は出来ないってことだけ伝えておくよ」
「…っ」
レオは驚いていたけど、まあそうだろうなとは思っていた。
カルロスは旅をするうえで治療法を見つけてきたのだから、治療に適した気候や環境が必要なことはなんとなく分かっていた。
「でも大丈夫。ちゃんと治療が終わればここに帰って来れる」
帰って来れるという言葉を聞いて安心した。
もしもそこでしか暮らせないのなら、一緒の時間を過ごすことは絶対ではないが叶わなくなる。
でもその杞憂はそのまま杞憂に終わった。
私は覚悟が出来た。どんな治療法でも受けるという覚悟。
「治療法を今から説明するね。まず、治すにはその国でしか作られていない薬を飲む必要がある。飲んだらソフィアちゃんは2年間眠りにつくことになる。」
「っ?!それは一体、どういうことですか…」
「その2年間の間に飲んだ薬の効果を使って心臓の治療をする。」
「2年間…?カルロス…本当に、ソフィアは生きられるんだよな」
レオが不安に思うのも無理はなかった。
だって、私も不安になったのだから。
そもそも、一年以内に死ぬと言われているのに2年間の治療なんて、矛盾でしかない。
だけどカルロスは違うようだ。不安を押し殺した表情で簡単に言ってのける。
「うん。僕だってソフィアちゃんに生きてもらうために必死だったからね。それで話の続きだけど、ソフィアちゃんが眠っている2年間、その間はコールドスリープで仮死状態にする。」
先からとんでもないことをサラサラと言うあたり、本当に世界を旅してきたんだなと思う。
そしてどうやってと聞くまでもなく、カルロスは丁寧に説明してくれた。
「コールドスリープっていうのは、簡単に言うと身体の老化を遅らせるんだ。そうすれば、ソフィアちゃんの弱っている心臓も2年間持たせることが出来る。その間に治療を行う」
「…2年後、私が生きている確率はどれくらいありますか……?」
「………五分五分だよ……」
そうだろうなとは思った。
100%生きることが出来る治療法など存在しない。
最後、この治療法を受け入れるかどうかは私にかかっている。
それをカルロスも分かっているのだろう。
悔しそうに歯を食いしばって俯いていた。どうやら先の不安そうな顔の正体はこれだったようだ。
私は慰めるように言った。
「カルロス。そんな顔しないでください。あなたが何ヶ月も旅をして見つけてきてくれた治療法を私が受けないと思いますか?」
「「…!!」」
「生きられる確率は絶対じゃないんだよ…。それでも受けるの?」
「カルロスの言う通りだ。もしソフィアを見送ってそのまま帰って来なかったら俺は……」
カルロスはともかく、レオは今までもずっと私の看病をしていたからかネガティブに捉えるようになってしまう癖が出来てしまった。
もう精神が消耗しきっている状態だ。
「落ち着いてください。特にレオ様。私はこのまま死ぬのを待つか、生きることが出来る可能性がある治療を受けるかだったら、私は生きる可能性が見出せる方を選びたいです。」
「……」
「約束しましたよね。一緒に生きるのだと。私はレオ様との約束を破りたくはありません。約束は破るためではなく守るためにあるのでしょう?でしたら、私はその約束を必ず守ります。レオ様に笑っていて欲しいですから。」
私の中で約束というのは特別だ。
約束はそれが守られた時は互いに幸せを感じるだろう。しかし同時に、守られなかった場合は破る方も破られる方も互いに辛い。
お兄様たちとの子供の頃に結んだ約束がその悪い方の一例だろう。
あの時の私は必ず戻ってくるというお兄様たちの言葉を信じて邸宅の中で待ち続けていた。
だけど私が伯爵家にいる間、お兄様たちが帰ってくることはなかった。
幸いなことに今は再会できたし、手紙の誤解も解けたから一緒にいることが出来た。
だからと言ってずっとそんな幸運なことが続くわけではない。
だから約束というのはあまり好まなかった。
でも今回、私は約束した。
「…ああ、やはり俺の心を救ってくれて俺の世界に色を付けてくれる人はソフィアしかいない…。ソフィア、治療が終わったら必ず生きて帰ってくると約束してくれるか…?」
レオの不安気な言葉に、私は迷いなく答えた。
「もちろんです。あなたが私が帰って来ないかもしれないという不安で怯えることがないよういくらでも約束します。」
「…なぁ、カルロス」
「…なに…?」
「ソフィアは本当に天性の人たらしだと思う。そして俺を英雄だとかイケメンだとかいう奴らがいるが、ソフィアは俺よりイケメンだ思うんだが、どうだ」
「あ〜…そうだね。否定のしようがないよ。僕も誑しこまれたうちの一人だしねぇ。それにソフィアちゃん、お顔が整ってるうえに言ってることが本当にイケメンそのものだよ。」
急に何の話をし出すかと思えば、私は断じて人垂らしでもイケメンでもない。そう。断じて
それはレオとカルロスの思い込みだろう。
私は咳払いをして言った。
「冗談が言えるほどに精神が回復して良かったです。」
「いや、断じて冗談ではないがな」
私の言葉と重ねるようにしてレオに何か言われたような気がしたけど、聞き直したら何故か後悔するという直感が働いたので辞めておくことにする。
「…2人とも、もう大丈夫そうかな?」
「カルロス、待っててくれてありがとうございます。」
「大丈夫だよ。…ごめんね。確実に治す方法を見つけることが出来なくて。」
カルロスは笑っているけど、とても良い笑顔とは言えない悲しそうな笑い方だった。
レオもつられるかのように私を見つめて唇をキュッと結んだ。
"ああ…そうだ"
今表情には出していないけど、きっと苦しんでる。
私のためにって探してくれた方法は確実に生きれるわけじゃなくて、運に身を委ねてしまう。
2人とも怖いのだろう。
自分が提案した方法でもし私が死んでしまったらと、怖くて堪らないのだ。
私は2人に大丈夫だということを分かってもらいたい。
もちろん私だって怖くないと言えば嘘になる。だって気が付いたら死んでる可能性もあるのだ。
だからって受けなければ死は確実。なら、運に身を任せるのも悪くはない。
「カルロス、レオも、こっちへ来てください。」
「ん、なぁに?」
「どうした?」
不思議がりながらも私が寝ているベッドの近くまで移動してくれた。
私は両手を伸ばしてレオとカルロスの手を掴んだ。
「私は大丈夫ですよ。2人とも。」
「………大丈夫じゃないだろ…。」
「………大丈夫じゃないよ。…。」
なんて完璧なタイミングで同じことを言うのだろう。
それに、今大丈夫じゃないのは私じゃなくてレオとカルロスの方だ。
「いえ、私は本当に大丈夫なんです。だってみんながいてくれるんですから。私にとって、私の大切な人が側にいてくれるほど心強いことはありません。だから大丈夫です。もし命が危なくなっても心の中でみんなが私をここに連れてきてくれるって思うんです。国を離れたからって心の距離が縮まるわけではありませんよね?」
私が今笑顔でいられて大丈夫だと言えるのは間違いなくここにいるみんなのおかげだった。
だから我慢してるわけでもなくて、本当に大丈夫。泣くこともないし怖がる必要もない。
みんなが心の中にもいる。
不安がることなんて一つもない。
「…はぁ、もう完敗だよ。ソフィアちゃん。ありがとう。慰めてくれて。本来は僕たちがするべきだったのに、困らせちゃってごめんね。」
「だな。すまない。支えるのは俺の役目のはずなのに逆に支えられてしまっては立場がないな。」
「そんなことありませんよ。慰めるのも支えるのも、私だって出来るんですから。ちゃんと頼ってください。」
「「ありがとう」」
2人とも不安が少しマシになったのか少しだけ晴れやかな笑みを浮かべてお礼を言った。
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