ep53.公爵様の愛は重たいです
「ソフィア…」
「はい」
「本当は会わせたくないんだが、ソフィアの義父がどうしても一度会話したいらしい。これはソフィアが決めればいい。どうする?」
「…会います。」
「…!分かった。呼んでくるから少し待っていてくれ。…伯爵と話す時、俺も側にいた方がいいか?」
いつでも私の心配をしてくれるレオのその優しさや気遣いが、ざわついていた心を落ち着かせてくれる。
人は大切なものがあった方が強くなれるということを、今日初めてこの身を持って知ることが出来た。
今は1人じゃないから
「大丈夫です。お義父様と、2人で話してみます。」
「分かった。何かあったらすぐに呼べよ?」
「はい、承知しております」
フフッと笑って見せれば、レオもまた安堵したように笑った。
それから少しして、義父を部屋に入れてレオは退出していった。
義父が部屋へ来たまでは良いものの、何も話そうとせず、少しの間静寂が部屋を包んでいた。
私から話す内容もないので待っていると、ようやく義父が口を開いた。
「ソフィア…体調は…もう大丈夫か……」
「はい。今は大丈夫です。…お義父様は、お聞きになられましたか…?私のこと」
恐る恐る聞いてみると、義父は驚いた顔をした後、目を細め眉を八の字にしながらゆっくりと頷いた。
「…。いつからだったんだ…?」
「私が知ったのは家を出た前日です。お義父様が医者を呼んでくださった日に病が見つかりました。」
声で分かる義父の下がっている気持ちに対して、私は何故か平常心だった。
「…何故何も言わなかった……」
もっと義父と会話をすれば動揺するものだと思っていたのに、そんなことはなくて、むしろ不思議と落ち着いている。
そして私は思ったことを口にする。
「言ってどうにかなりましたか?」
「…!それは…」
「私になるべく危害が及ばないようお義母様の機嫌を損ねないようにしてくださったことには感謝しています。」
初めて口に出来た感謝の言葉。皮肉と言われればそれまでだけど、しっかり感謝はしていた。
「…お前、分かっていたのか…?」
「当たり前です。私もそこまでバカではありません。私が言いたいのは病気のことを言ってお義父様が私を気に掛ければ、お義母様に危害を加えられるのは確定していたのです。その被害は私だけでなく、おそらくお義父様にもお兄様たちにも加えていたはずです。ですから言えませんでした。頼る人なんて、あの家にはいなかったのですから。これで良かったのです。」
何の気持ちのぶれもなく言えた。
もしあの時同じような選択肢になれば、私は同じ道を…殺してもらう道を選ぶだろう。
前世の記憶が蘇っていなくともそうしていたはずだ。違うのは行く場所が公爵家ではないということだけ。
「ソフィア……。今まで、すまなかった。一刻も早く夫人と離婚するべきだった。そしてお前たち兄妹をもっと気にかけてやるべきだった。お前たち兄妹は、あの葬式以来一度も泣かなかっただろう。特にソフィア。お前は葬式以来、泣いているところを見たことがない。泣かせてやれなかったのは私の責任だ。本当にすまない。」
「……私はもう大丈夫ですよ。お義父様」
今は心からそう思える。自分に言い聞かせていた大丈夫は、私の本心へと変化した。
「え?」
「身寄りのない私たちを引き取ってくださったお義父様には本当に感謝しているんです。だからもうそんなに気負われなくて大丈夫です。私も、もう苦しくはありませんから」
本当のこと。
泣くことが出来た。
ここにいても良いんだと思える場所が出来た。
愛する人、愛してくれる人が出来た。
だから苦しくなんてなかった。辛くなんてなかった。
「…ごめんな…ありがとう……。ソフィア…その、私にも手伝わせてくれないか?」
「何を、でしょうか?」
「ソフィアが生きるための方法」
「…!良いのですか?」
目を見開いて再確認する。あの義父が、と疑ってしまったのだ。
「これまでの償いくらいさせてくれ。必ず見つけてみせるから。」
初めて見た義父の優しい笑顔に、私はとてつもない安心感に身を包まれてるような気分になった。
同時に、この人もある意味義母の被害者なのだと悟った。何十年もこの人の笑顔を奪ったのは義母だから。
義父なら、安心して、信頼して大丈夫だろう。
「分かりました。…手伝ってくれますか?お義父様」
「ああ。私に任せてもらおう」
義父と初めてまともな会話をしていると、物凄い音と共に扉が勢いよく開いた。開けたのは私のよく知ってる大好きな人。
「「ソフィ!!!」」
「っお兄様!?」
あまりにも大きな音と声に戸惑っていると、2人とも私を抱きしめてくれた。
「…はぁ、ソフィの目が覚めて本当に良かった。」
「…もうあんな無謀なことしたらダメだよ……。」
レオの声を聞いただけでも十分安心したと思っていたけど、どうやらそうではなかったらしい。
まだ多少の不安と緊張はあったのだと分かった。
安心したような顔をしているルイス兄様と、未だ不安でいっぱいそうにしているリアム兄様。
2人にはいっぱい心配をかけてしまったなと反省した。私もまた、この2人の家族だから。
「ご心配おかけしてすみません。これからはちゃんと自分のことも気にかけますから大丈夫ですよ」
リアム兄様とルイス兄様は2人して顔を見合わせて笑った。
何故笑っているのか分からず顔にはてなマークを浮かべていると、お兄様たちは私を揶揄う時の表情で言った。
「説得力がねぇよソフィ。」
「そうだよソフィ。今までソフィがどれだけ無理していたかソフィは自分で分かってる?」
「それは…その…」
正直なところわかっていなくて言葉を詰まらせた。本当は自分の身体を労る方法も分からないのに流石に口から出まかせだった。
自分のことを気にする暇もなかった私にはとても難しいことだったのだ。
「はぁ、だと思った。今回も無理しすぎだけど、前に俺たちがここに来た時、本当は朝から心臓が痛かっただろ」
「…えっ…と。」
"何でバレてるの…?"
「ソフィはまず自分を大事にする方法をわかってもらわないとな。」
義父はこの様子を傍観、リアム兄様とルイス兄様にジリジリ迫られていると、部屋にレオの「そこまでにしておけ」という声が響いた。
この時は救世主が来てくれたと、そう思っていた。すぐに酷い勘違いだったと分からせられたけど。
「レオ様…!」
「ソフィア…。俺はあなたのことを庇わない。実際、無理をしている時でもソフィは表情に出なさすぎる。だから」
だから?
"嫌な予感が…"
この先の言葉を聞くのはダメだと直感が働いた。しかし止めようとした頃にはもう手遅れだった。
「俺たち総出でソフィを保護すれば良い。」
「…あの、公爵様…?」
「名前で呼んでくれと言ったはずだ」
そんなところでいじけないでほしい。それよりももっと気にしなければいけない発言があるだろう。
「レオ様」
「なんだ?」
「もう充分過保護なのでこれまで通りで「ダメだ」」
「ソフィアはまだ自分がどれだけ愛されて大切にされているかが分かっていない。だから無謀な行動に出るし無理もする。だったら分からせるまでだ。」
戦を仕掛けに来た騎士か何かなのか。と思ったが、そういえばこの人は騎士だったことを思い出した。
あまりにも一緒にいる時間が長すぎて忘れていた。
「ということで、ソフィアは何も言わずにただ俺たちに愛されていてくれ」
「………はい…。」
もう素直になる他なかった。
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