ep5.本音なんて言うわけもなく
◇◇◇
ミリーと帰ってきた私は夕食を食べた後、自室に籠っていた。
誰にも私の部屋には入らないでと言ってある。
もちろん出ていく準備のためだ。今日の夜中、私はこの家を出る。
準備と言っても、持っていくのは着回せる服を数着と父と母が残してくれたお金。それと、唯一の形見である家族写真。
他の父と母の物は、全て義母に壊された。
なんとか一つ残っていた時は、心の底から安心したものだ。
他に大切な物はない。大切な人もいない。そう思わなければやっていけなかった。
"そう、いないの…。始めっから、大切な人なんて、一人もいない"
言い聞かせる。嘘なんて、今までたくさん吐いてきた。だから自分の心に嘘を吐くことなんて容易いこと。
そう自分に言い聞かせながら荷物をまとめていると、あっという間に家を出る時間になった。
今は夜中の0時だ。
この時間に家を出ることを知っているのはお義父様だけだ。何故かお義父様が見送りをしたいと言ってきたので了承した。
どうして今になって必要以上に関わってくるのか、理解は出来なかった。
最後まで、同じ態度のままでいてくれれば良かったのに。
そうすれば、変に情が湧くことなんてなかったのに。
…この気持ちはお義父様には言ってやらない。本当は分かってる。私と必要最低限の会話をしかしなかったのは、お義母様が関係してるってことくらい。
"でも少しくらい、寄り添ってほしかったな…"
少しだけ、気持ちが吐露してしまう。
瞬間、義父の声がした。
「…行くのか」
「…!、はい」
「馬車は用意してあるから、その馬車で行くといい。…またな」
「今まで育ててきてくださって、ありがとうございました。さようなら」
『またな』なんて、私からすれば馬鹿馬鹿しい言葉だ。
私に『また』は存在しないから。
「さようなら」この言葉を最後に、私は家を出た。すると目の前には義父の言った通り馬車が用意されていた。
お義父様の最後の好意だと思って、ありがたく使わせてもらうことにする。
馬車に乗るとすぐに私の眠気は限界が来てしまい意識が微睡んだ。
眠る前に御者に行き先を伝えたところで、私の意識は完全に落ちてしまった。
次に目が覚めた時には日が昇っていた。
そして、ちょうど目的地まで到着したようだ。
「お嬢様、おはようございます。お加減は如何ですか?」
「ありがとう、ヘンリー。ゆっくり進んでくれたおかげでゆっくり眠れたわ。夜中なのに送ってくれて本当にありがとう」
「いえ、お嬢様を乗せるのはまた一年後かと思うと寂しくなったので、私から名乗り出たのです。帰る時はいつでもご連絡ください」
ヘンリーは小さい頃からずっと多様な領地の話をしてくれた。御者なので色んなところに行くヘンリーの話はとても面白かった。
もう聞けないのかと思うと残念だけど、仕方がない。
「ええ、また連絡する。さよなら、ヘンリー」
「はい、またお会いしましょう。お嬢様」
私は振り返らずに目的地まで歩き続けた。
向かっているのはもちろんサリバン公爵家。事前に連絡を取らないのは失礼に値することは知っている。
しかし、私には連絡する手段がないのだ。
やはり朝一なので、まだ人は少ないようだった。
今は普通に歩けているが、そのうち歩くことも出来なくなるだろう。
だから私は
「すみません」
「はい」
「サリバン公爵家の当主様に会いたいのですが…」
「アポは取っていますか?」
「いえ…、事情があって取れていません」
自己中心的な行動で申し訳ないが、私も時間はない。
今こうしているうちにも、私の砂時計は、刻一刻と少しずつだが擦り減っている。
「かしこまりました。では、爵位と名前を教えてください」
私は門番の言う通りに家の爵位と名前を教えた。すると、聞いてくるので少し待っていてほしいと言ってくれた。
こんな失礼な行為にも紳士的な対応を取ってくれるなんて正直思っていなかった。
むしろ、今日は土下座でも何でもする勢いだったので、何だか肩の力が抜けた。
少し安心していると、門番が戻ってきた。
「…申し訳ありません……」
やっぱり無理だったか。そう思っていると、予想外なことにまだ続きがあった。
「話を聞いてほしいなら、今日の夕方までここで待っていろとのことなのですが…。待てるはずないと分かっていてこんなことを言ったのだと思います。なので今日は…」
「待ちます」
「ですよね無理で……へ?」
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