ep45.日常から非日常へと
◇◇◇
公爵家に来てあっという間に4ヶ月経った。
「おやすみなさい、公爵様、リアム兄様、ルイス兄様」
「おやすみ、ソフィア。」
「おやすみ。良い夢を」
レオは私の名前を呼び頭を撫で、お兄様たちは毎日良い夢をと言って額にキスをする。いつのまにかそこまでがルーティンになっていた。
明日の朝も、またいつもの過保護な人たちの元、穏やかな日常があるんだと思っていた。
だけど、穏やかで楽しい日々なんてやはりそう長くは続かないもので、私が次に目を覚まして見たのは見知らぬ光景だった。
「…ここ、どこ?」
驚きすぎて思わず心の声が口に出てしまった。
まずは座ろうと身体を動かそうとすると、自由が効かないことに気付いた。
意識がはっきりしてくると、私の手と足はロープで縛られ、床に座らされていることが分かった。
埃臭くて所々荷物が置かれている。しかも、天井は屋根特有の形をしている。
ということは、ここはどこかの物置部屋であり、屋根裏部屋だと瞬時に理解した。
3人とも騎士だからか、戦に出れば眠っている間に獣に襲われることもあるからと寝ている間も戦中では気を張り巡らせているのだそう。
しかし流石にレオもお兄様たちも、自分の住んでいるところでまで寝ている時に気を張っている訳ではないだろう。
そしてここに連れ去られたということは、レオもお兄様たちも眠っている間に窓から連れ去られた可能性が高い。
これらのことが分かったからと言って脱出出来るわけではないが、少しでも多く情報を得て状況を判断するのが大事だ。
何故こんなに冷静でいられるのかなんて私にも分からない。
多分急展開すぎて心が追いついていないのだろう。
頭をフル回転させてあれやこれやと考えていると、扉の開く音がした。扉から見えたのは予想通り、義母だ。
「お久しぶりでございます。お義母様。」
「あら、随分と余裕なのねぇ。」
「…」
余裕なわけないじゃないですかとは言えず、私は口を継ぐんだ。
すると義母が口を開いた。
「まあ良いわ。それよりお前、私はパーティーの時言ったわよね?3ヶ月猶予をあげるからその間に公爵様と離縁しなさいと。」
空気がピリッとして、私は緊張と冷や汗を掻きながらも落ち着いて応える。
きっと朝になれば私がいないことに気がつくだろう。それまでの間くらい、耐えてみせる。
「…嫌です。」
「は?」
「嫌ですと言いました。それに、仮に私が承諾したとしても公爵様がお許しにならないでしょう。勝手に婚姻関係を妹に移すのはやめてください。」
「…あなた、随分言うようになったわね。もう一度私が教えてあげましょうか。そうねえ、まず一つ、公爵様がお許しにならない?あなたは自分のことを公爵様にとってそれほど大きい存在だと思ってるの?そんな訳ない。あなたは公爵様にとってただの他人でしかない。そうでしょ?」
義母にそう言われて、心臓が抉られるような感覚に陥った。
今日はまだ吐血も心臓の痛みもないのに。どうしてこんなに心臓の辺りが痛くなるのだろう。
また違った痛さに困惑する。
それを義母は私が絶望していると受け取ったらしい。義母は続けて捲し立てた。
「お前は人を不幸にさせるの…。今までもこのさきも、お前の周りにいる人はみんな不幸になる。だから本当に結ばれるべきはラリアと公爵様なのよ」
それは、本当に言っているのだろうか。
だとすれば、それは間違いだ。
「…ラリアは家の道具ではありません…。ラリアだって心があります。ラリアが公爵様と婚姻を結びたいと言ったのですか?公爵様との婚姻を結ぶことをラリアは同意し、喜んでいますか?もし違うのであれば、あなたはラリアの気持ちを尊重せず、道具のように扱っているだけです。本当に大切な娘なのであれば、ラリアの気持ちをもっと考えてください。」
ラリアは純粋で可愛い、私をあの家の中で心配してくれた数少ない私の大切な人だ。
その人の幸せを考えるのは当然のこと、なのだが、どうやら義母とはとことん価値観が合わないらしい。
仕舞いには、義母は私の頬に一発ビンタを喰らわせてきた。
「あなたが気安くラリアの名前を呼ばないで!ラリアのことは私が一番分かっているの。当然でしょう?!」
「ですから、それが勘違いだと言っているのです。お義母様とラリアは全く同じではないのですから、ラリアの気持ちをしっかり聞いてください!」
「さきから私のラリアの名前を気安く呼ばないでちょうだい!」
そこにキレるのかと思いながらも、私はもう一度義母のビンタを受けた。というか、避けられない。
おかげさまで目は覚めたが私の両頬は真っ赤だ。それでも、私はラリアのために続ける。
私が死ぬにあたって、レオに幸せに生きてもらうのは当たり前だが、私の大切な人もどうか幸せであって欲しい。
それはラリアも例外ではない。
どれだけ好きでない義母でも義母とラリアは別の人物だ。二人を重ねて憎んだり憎悪の心を膨らませたりすることはない。
しかし義母にはそれが出来ないようで、いつも私と母を重ね合わせているように見える。
「…あなたの幸せとラリアの幸せはイコールの関係ではありません。ラリアにはラリアの幸せがあります。」
私は意地でもラリアと名前を呼んだ。呼ばないとそれは失礼に当たる気がしたから。
すると義母は何かの諦めがついたかのようなため息をついた。
「…はあ、もういいわ。お前とは分かり合えることはないと思っていたの。あの女から生まれてきたから予想はしていたけど。性格は似るものね」
「……私に、何をなさるおつもりですか」
義母の目が変わった。
少し前まではただの卑しい女の娘という見方だったのに対して、今はもうどうでもいいような顔をしている。
私が警戒していると、義母は鼻で笑った。
「この際だから言ってあげる。お前のことを消すわ。だって、私にとってもラリアにとっても必要のない物だもの。だから私が味わった苦痛の分だけゆっくり殺してあげるわ。感謝することね。」
「私はあなたに殺してと頼んだ覚えはありません。」
「黙りなさい。あなたの意見なんて聞いていないわ。私の意思はラリアの意思なの。ラリアが殺してと言ってるのだから、可愛い娘の頼み事を聞くのは当然でしょう?」
…ラリアが私のことについてどう言ったのかは分からないけど、少なくとも、義母の意思がラリアの意思だなんてことは決してない。
ラリアにはラリアの好きなことや嫌いなことが存在する。
この人がいては、ラリアはモノとしてしか扱われない。
「お前、これが何か分かる?」
「いえ…」
義母が手に持っている薬らしきもの。見たことはないが、何をしてくるのかは予想はついた。
「この瓶に入っている毒を全て飲み終わる頃にはお前は死ぬわ。だけど、一気に全て飲ませてあげない。少しずつ、少しずつ飲ませてあげる。」
ご丁寧に説明までしてくれた。
「私が素直に飲むと思っているのですか?」
「っふふ、そんなわけないじゃない。こうするのよ…!」
義母の言葉と共に、少量の毒が私の口の前まで持ってこられた。そして、思い切り私の口に入れてくる。
拒否したいのに、手と足を縛られているせいでどうにも出来ないのがもどかしい。
ゴクン…と、義母の持っている毒を私の喉が伝っていくと、喉の焼けるような痛みが私を襲った。
「ッガ…ァァ…」
喉の痛みのせいで上手く息が吸えない。
どんどん過呼吸になっていく。
「っは、まだ少ししかあなたの口に入れてないのに、この先それで耐えられるの?」
「…耐えて…見せます。私は、こんな。ところで、死ぬ…わけにはいか…ないんです。」
私が殺してと頼んだのはレオであって義母ではない。 だから死ぬならレオの手で死にたい。
「その威勢がいつまで続くか見ものね。」
ここからは私が死ぬのが先か、レオとお兄様たちが私を見つけてくれるのが先かの戦いだ。
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