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ep4.嘘つき

あれからお昼までは適当なお店に入り、必要なものがあれば買って行った。

そして昼食の時間。私はトイレに行ってくると言って店を抜け出した。


向かったのは、午前中に寄ったお店のうちの一つで、ミリーが目で追っていたアクセサリーを買うためにここに来たのだ。


「すみません、これください」


「15銀貨です」


「どうぞ。お釣りは取っておいてください。それでは」


「えっ?えっ?!お客様…!」


戸惑いと驚きを隠せない店員の私を呼ぶ声に応えている暇はなく、ミリーに心配させないためすぐに戻った。

お釣りだって貰っている時間が勿体無いと思ったからいらないと言っただけ。


「ミリー、遅くなってごめんなさい」


「あ…いえ!むしろ、料理を堪能してしまって申し訳ないです。本来は私なんてお嬢様と一緒に座って良い立場では…」


ミリーがこの先言おうとしていることが、私はすぐに分かった。だけど止めさせてもらう。

今日は、ミリーとの最後のお出かけだから。


「ミリー、今日は私とのデートよ。最後まで付き合ってくれるかしら?」


「…!はい!」


ミリーは素直で可愛い子だ。そして、私を大切に思ってくれている。

だからこそ、連れていけない。ミリーは多分、私の死ぬ姿を見るのは辛いと思う。

私がサリバン公爵家の領地に行くのは…レオ・サリバンの元へ行く理由は、公爵の領地は誰も私を知らないからだ。


そこにミリーを連れていけばどうなるか。頼れる人もいないなか、私が死んで1人で悲しんでしまったら、それはミリーが可哀想だ。


だから、ミリーは伯爵家にいた方がいい。そしたら私の死の知らせなんて、こっちには届かないはずたから。


「ミリー、行きたいところはあるかしら」


「行きたいところ…最近流行りの演劇があるのですが、お嬢様が宜しければ、一緒に観に行きませんか?」


「良いわね、行きましょうか」


劇場に着くと、ミリーが「ここです」と教えてくれた。それから席を取り、ミリーと一緒に劇を見た。

ミリーが行きたいと言った劇場の内容は、学園恋愛ものだった。

互いの意外な一面に少しずつ興味を持ち、惹かれ合い、結ばれる。そんな現実ではあり得ないストーリー。


現実ではあり得ないことだからこそ、見ていて楽しいのかもしれない。

けど、ミリーには申し訳ないが、私には分からなかった。元々、感情があまり揺れないからだろうか。


喜怒哀楽を感じていた頃は、全てが新鮮に見えた。きっとこの演劇も、ワクワクしながら見れたことだろう。

だけど、色々ありすぎた。


実母と実父は亡くなり、兄は私の前から消えて11年。義母は私をいない者のように扱い、義父との会話は最低限。おまけに婚約者には破棄しろと言われる始末。…いや、最後のはどうでもいいか。


とにかく、私の人生は感情なんてものを気にしていたらキリがなかった。いつの間にかどこかに正の感情を置いてきたみたいだ。

けどそんなこと、誰も気付かない。家族は私に興味がないし、侍従の前では気が付かれないように振る舞っているから。


時折り、全部がどうでもよくなる時がある。ニコニコしながら振る舞うのも、傷ついていないかのように振る舞うのも、強い私であり続けるのも…全部どうでもよくなる時。


「…様…」


昔、父と母は不運な事故で亡くなった。確かにそう聞いていた。だけど、それが本当かどうかも分からない。

どうやって亡くなってしまったのか、どういうふうに亡くなっていたのか、私は一度も見ていないのだから当然だろうが。


最後に私が父と母の姿を見たのは、埋められる前の姿だった。


「……嬢様……!」


今でも鮮明に覚えている。顔には布が被されていて、お腹の前に添えられた手は、生きている人の色ではない青白い色をしていたこと。

あの時、兄がいなければ耐えられていなかったと思う。今はその兄達もいないけど。


まあ、もうどうでも良いことだ。みんな、もう二度と会うことのない人たちだから……。


「ソフィアお嬢様…!」


「…?!…なに?」


「演劇終わりました。申し訳ありません…私がつまらないものを見たがってしまったばかりに、お嬢様を退屈にさせてしまいました…!」


どうやら、私が少し考え事をしていたせいでミリーに気を遣わせてしまったようだ。


「違うわよミリー。演劇、とても面白かったわ」


" ごめんね、嘘"


「本当ですか…?」


「ええ、本当よ」


" ごめん、嘘"


「ヒロインと主人公の男の子がだんだん自分の気持ちに気付いていく流れが、とてもロマンチックで素敵ね」


"嘘よ…"


「…!分かります!お嬢様とこの劇を見られて良かったです!もし良ければ、今度はお嬢様の好きな劇も見せてくれませんか…?」


「……いつかね。とにかく今日はもう夕方だし帰りましょうか。今日はついてきてくれてありがとう、ミリー」


「いえ…!お嬢様と街を歩けてとても楽しかったです!」


ごめんね、ミリー。

こんなに嘘ばかり吐く悪い子で、本当にごめん。




見てくださりありがとうございました!

次話も見て頂けると嬉しいです!

評価&グットで応援、ご指摘よろしくお願いします

m(_ _)m

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