ep36.忘れていた人・思い出したく無かった人
配置は当然のことのように私が真ん中で左隣にリアム兄様、リアム兄様の隣にルイス兄様、そして右隣にレオとなっている。
すっかり街の人たちの注目の的になったけど、以前に一ヶ月ほど街を毎日のように歩いていたからか、顔見知りの住民もいた。
「相変わらずラブラブねぇ」と頬に手を当てて生暖かい視線を送る者もいれば「最近見なかったが元気で安心したよ!」と心配してくれる者たちもいた。
みんな大切な街の住民だ。
この街で私も平民として暮らせたら楽しいのかなとありもしない想像を膨らませていると、目的地に到着したようだった。
今回は珍しくレオからここに行きたいと言う提案があったのだ。
「さてソフィア、今日はここだ。」
「このお店は?」
ちなみに、私は何も聞かされていないのでレオの言うままに進んできた。
「まあまあ、取り敢えず中に入ろう。」
そう言われ中に入ると、内装がとてもオシャレなお店だった。
今回はカフェのようだ。カフェには今まで何度も行ってきたが、何故ここに指定したのか私にはまだ分からなかった。
「ミルクレープを頼む」
レオが注文してしばらくすると、ミルクレープがやってきた。
「これは、何でしょうか…?」
「クレープは知っているだろう?そのクレープの生地とクリームを層にしてつくられるケーキだ。…どうしても、ソフィアに食べて欲しかったんだ。」
「は?いや俺たちは」
「ついでだ。」
レオは当たり前だろとでも言うようにサラッと言ってのけた。
だけど、レオの言葉とは反対に私とお兄様たちに話をする機会をくれたことに変わりはない。
「どうしてこれを?」
質問ばかりで申し訳ないが、今の所レオの行動には疑問を持たざるを得ない。
「ミルクレープにはな、幸せを重ねると言う意味があるんだ。俺はもっとソフィアと幸せを共有していきたい。」
「……!!?」
そんな小っ恥ずかしいことを言われて動揺しない訳もなく、目を大きく見開いてしまった。
今私はどんな気持ちでレオを見ているのか分からない。
嬉しいような気もするし少し悲しいような気もする。
それでも、今はやっぱりみんなで出掛けてるから悲しい顔なんて出来なくて。
「ありがとうございます、公爵様。」
私は満面の笑みを浮かべて返事をした。
「公爵様、好きあらば妹を口説こうとするのはやめて頂きたい。」
「それは無理なお願いだ。諦めてくれリアム。」
また始まったと呆れながら私とルイス兄様はまた二人の口論を止めに入った。
デザートの時間も終わり、街を見て回った後、帰ろうと帰路を辿っていた時、何故かいるはずのない人物がいることに気がついた。
向こうもこちらに気づいたようで、『見つけた!』とでも言うかのように勢い良くこっちに来た。
「やぁ、ソフィア。久しぶりだな。」
せっかくの楽しかった時間が台無しだ。
「お久しぶりです、小侯爵様。何用でこちらにいらっしゃったのですか?」
「もちろんお前を迎えに行くためだ。戻ろうソフィア。もう一度僕と婚約を結ぼう。あれはただ普通に話をしていただけだ。な?」
あまりにも意味の分からないことを言う少侯爵ことサミュエルに、私は呆れを通り越して落胆していた。
これからも気の迷いで何度も同じことをされてしまっては敵わない。
それに、自分から言い出した婚約破棄をもう一度結ぼうなどという意味の分からない発言に心底腹が立つ。
まさか自分の元婚約者がここまで自分勝手だとは思わなかったのだ。
このままではサミュエルの命が危ないのではないかとヒヤヒヤする。
レオもお兄様たちも何も言わないが後ろから感じる物凄い圧にこっちまで気圧されそうになる。
「少侯爵様、私はもう既に婚約している身です。どうかお引き取り頂けませんか。」
「それは無理な願いだソフィア。僕は君の母上に言われて来てるんだからな。」
「……っ!!お義母様に…?」
「ああそうだ。僕が婚約を結ぶのはソフィアであり、代わりに公爵様の婚約者にはラリアがなると言っている。」
瞬間、私の心臓がドクンと大きな音を立てた。
どうして?"
"何故ラリアがレオの婚約者に?"
頭の中は疑問だらけだった。それでも、混乱した頭の中をサミュエルに悟らせる訳にはいかない。
「それは一方的ですよね?公爵様は了承されていないかと思います。」
これは確信して言っていることだった。レオは女嫌いで有名だ。私との婚約も一時的であり殺してもらうまでの期間に過ぎない。
私が反論していると、レオも加勢し始めた。
「その通りだ。俺はラリアという名前の令嬢がいることすら知らない。…というか興味がない。そちらで勝手に決めるとは公爵家を侮辱しているのか?」
「…っ、滅相もありません。ソフィア、お義母上の言う事を聞かなかったこと後悔するぞ…。これでも元婚約者として言っている。僕の元に戻っておけ。」
「……私に、またラリアと仲良くするのを見過ごせと仰るのですか…?」
"残り数ヶ月のこの命を、またあなたの元で過ごさないといけないのですか?"
こんなこと言える訳もなく、出来るだけオブラートに包んだ。ちなみにサミュエルに対する嫉妬は一切ない。
「…もうあんなことはしない……。これからはソフィアを幸せにすることに尽力する。俺の元に戻っておけばお前が傷つくことはない。」
「…もう口を開くな。少侯爵。不愉快だ。」
これ以上サミュエルが口を開けばレオが何をするか分からなかったのでこの会話を早く終わらせることにした。
「小侯爵様…私はもうどれだけ傷付こうと痛みが分からないんです。だから、今更どこに傷がつこうときっと私は気付けません。お気遣いありがとうございます。」
「………お義母上には気を付けろ。…俺は忠告したからな。これでも、お前のことは気にかけていた……」
そう言ってサミュエルは護衛と共に去って行った。
案外あっさり引いてくれたなと思いつつ、私はサミュエルの言ったことが気になっていた。
サミュエルの元にいれば傷つかないとはどう言うことだろうか。
疑問が解消されてはまた新しい疑問が降ってくる。
どうしても頭が痛くなる。
「ソフィア…」
「ぇ…?」
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