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僕の異世界日記 〜記憶の継承物語〜  作者: カエル♂
第1章 先駆者の気配
8/10

第7話 故郷の気配

第7話「旅路にて」、第8話「故郷の匂い」を統合し、

第7話「故郷の気配」としました。

「あんたなんか知らない!」

家に帰るなりユリが叫ぶ。


「どうしたんだユリ、なにか嫌なことでもあったかい?」


「嫌なのはあなたよ!ろくに家事もしないくせに飲み会ばかり。家族をなんだと思ってるの!?」


「わ、悪かったよ。でも今は大事な時期なんだ。分かってくれよ。」


「大事な時期って、なんで飲み会があるのよ!」


「取引先とか...い、いろいろあるんだよ!

お前こそなんなんだよさっきから!働いてるのは僕なんだぞ!僕がお金を稼いでいるんだ!僕がいなくなったらお前はどうするんだ!」


「う...うあーわーん...ひどいよぅ...

私だって我慢してるのに...友達が羨ましいよぅー」


ユリ...どうして...。



目が覚める。


そうか、もうユリは...。


2つ目の太陽の頭が出ている。

なぜ今あの夢を見たのだろうか。


昔の記憶だ。

ユリと1回だけ大喧嘩をしたことがあるが、たぶんそのときの記憶だろう。

訳が分からず叫んでいて、ようやく落ち着いたと思ったら僕もユリも泣いていた。


なんて朝だ。

まだ開かない目を擦り、なんとか視界を広げる。


...ん?目の前に女の人が...。

まさか、ユリ!?


寝ぼけていていたのだろう。普段なら慎重な僕なのだが、今は目の前の見覚えのある女の人に抱きついた。


「おい!どういうつもりだ!」


抱きついた途端に叫び声と共にグーパンチが飛んで来た。


「なんで?ユリ!ごめん、僕が悪かったから!飲み会も控えるから!だから...だからどっかいくなんて言わないで...」


「なんなんだこいつは!おい!いつまで抱きついているつもりだ!まったく、これだから短命は。いいか?戻ってこないものは戻ってこないんだ!いい加減目を覚ませ!お前が元の世界に戻れるかなんて、私にも分からないんだぞ!」


3回ほど続けて頬を殴られてようやく目が覚めた。


「す、すみませんでした!なんてお恥ずかしいところを...。あ、あの、僕元の世界に戻りたいなんて言いましたっけ。」


「自分で言ったのだろう、ユリに会いたいからって。私は覚えているぞ...(あ、そうか、記憶消したんだったな。)」


「言った?僕がですか?確かにユリに会いたいですけど....。僕はもうこの世界で生きる覚悟をしているつもりです。だから、だから僕は大丈夫ですから。」


「あぁ、そうか。やはり強いな。君たちは。」


それがどんな意味か分からなかった。ただ、そう言ったエルフの背中は少し寂しそうであった。



どれくらい乗っているだろうか。2つの太陽はすでに正午を示している。寝ていたから長い時間が経っている感じはしなかったが、もう半日は歩いているらしい。跨っているこいつをもう化け物とは思っていない。乗り慣れない僕を落とさないように歩いてくれている。なんて優しいやつなんだ。



そういえば、記録しなくては。初日に記録をして以来一度もメモ帳に書き込んでいない。そろそろ書き込まなくては。

目まぐるしい時間を過ごした。


キノシタミミという日本語が彫られている石版を見つけて。さらにその石版には変な日本語が彫られていたんだ。たしか...セノボル?なんとかだったと思う。謎の声の主に襲われたのはその夜だったな。もうだめだ、死んだと思ったら日本語が聞こえたんだよ。かと思ったら美人エルフが目の前に立っていた。まったく、人生っていうのは分からないものだ。


書くことは大体決まった。あとはメモ帳に落とすだけ.....。

あれっ......あれ......。


鞄がない。さっきまでは持っていたはず。

ということは...持ってくるの忘れた...。


「?どうしたんだ?何か落としたか?」


エルフが不思議そうにこちらを見る。


「い、いえ、大丈夫です。」


「おう、そうか。」


今から戻るなんてできないもんな。諦めるしかないか。はぁぁ。なんで間抜けなんだ...。

エルフは相変わらず不思議そうにこちらを見ていた。

旅はまだ続く。




ダンゴ。それは僕が今跨っているこいつの名だ。名付けの親にはネーミングセンスがないのだと思う。見た目とかけ離れた名で呼ばれるこいつは嬉しそうである。まぁ、嬉しいならいいけどさ。


「ダンゴって名前、あなたがつけたんですか?見た目はかっこいいのに...んー、名前で損してる気がして。」


「お前、ミミ殿が名付けの親だと分かってのその発言か!あぁ?おい、耳の穴かっぽじってよく聞けよ?

ダンゴとはな"この世のどんな花よりも美しい者"という意味だ!それ以上ない名をミミ殿から賜ったんだ!お前もミミ殿と同郷ならそれくらい分かるだろう!この無礼者め!」


そんなに怒るかな...。というかキノシタミミが名付けの親なのか。...まぁ喜んでいるならいいか。


「そ、そうだったんですね...その...すいません。("花より団子"ってことなのかな?)」



「おぉ、花より団子か!いい言葉じゃないか。おい、ダンゴ!今この瞬間からお前の二つ名は"花より団子"だ!」


キューーン‼︎


ははは。まったくお気楽な人たちだ。

キノシタミミよ、君はこんな人たちとこの世界を生きていたのか?




キューーン


少し前で大きく鳴く声が聞こえる。夜の間ずっと怯えていた声。まさかこんな形で聞くなんて思ってもみなかった。僕はダンゴがなぜ鳴くのかをエルフに聞いてみた。なんでも、ダンゴは周囲の探索をするためだに鳴いているのだそう。声帯から音と共に高密度の魔力波を出して周囲の状況を把握しているらしい。それにより周辺の地形や魔物の種類、土壌の状態まで感知できるらしい。魔力波?なんだそれ。地球でいうところのイルカとかコウモリが超音波を出すのと同じことなのだろうか。

ダンゴを見るとたしかに鳴くと同時にソニックブームのような透明な何かが広がっていくのが見える。これが魔力波というものか。水面に水滴を垂らしたかのように広がっていくそれは見ていて気持ちがいい。


キューーン


お、また鳴いたな。僕はいつの間にかダンゴの声を聞くのが楽しみになっていたようだ。

この旅はまだ続きそうだ。




地平線の向こうまで続く緑の大地。この世界は空と草しかないと思っていた。しかしそれは僕の思い込みであったらしい。しばらく歩いているとダンゴが何か気が付いたように鳴いた。それと同時にエルフも何か準備を始めている。何を感知したのだろう。もしかして魔物というやつか?襲われてしまうのだろうか。周りを見ても何も変わった様子はない。目を凝らして前方を見てみる。地平線の彼方。ここから見える世界の果てのところ。小さな黒い点が見えた。

あれは、なんだ?



「疲れただろう、そろそろ集落だ。降りる準備をしておけ。」


「おぉ!分かりました。」


じゃああれは建物なのか。ダンゴはあれに気が付いて鳴いていたのか。

こう見ると感慨深いな。この世界でたった1人生きなければいけないと考えていたあの日。孤独に生きる、そんな必要はなかった。また人と暮らすことができる。そう思うと溢れた気持ちが抑えられなくなる。拭っても止まらない涙にエルフは笑っていた。




集落に近づくと門番が2人、こちらに近づいてきた。背が高いのか、ダンゴに乗っている僕たちと目線が同じだ。いや、違う?浮いているのか?2人が直立不動のまま草の上でスライドしながらこちらに近づいてくる。足にローラーがついているわけでもない。背中にエンジンを背負っているわけでもなさそうだ。

2人が近くに来て初めて気がついた。髪の間から小さなツノが見えている。これはもしかして鬼というものか?僕は改めて本当に異世界に来たのだと感じる。



「案内お疲れ様です。この方が異界からの...。」


「その通りだ。すぐに宿に案内してやってくれ。温泉付きの宿の方が好ましいだろう。入浴後はヤギの乳にチョコレートを入れたものを渡してやれ。きっと喜ぶだろう」


おー、分かっているじゃないか。温泉のあとはコーヒーミルクが欠かせない。これもキノシタミミの影響なのだろうか。


「いろいろとありがとうございます。助かります。」


「なに、私はミミ殿に受けた恩を返しているに過ぎない。礼ならミミ殿に言ってくれ。」



ミミ殿か。彼女ははこの世界の住人から相当好かれていたらしい。


宿までは門番の1人が案内をしてくれた。

途中で街の様子を見た。流石は異世界である。道を照らす和モダンな街灯には魔法の光が灯っている。大通りでは魔獣と呼ばれる生き物が台車を押して食材を運ぶ。飲み屋街ではフライパンや調理器具がひとりでに動いて料理を作っていた。それに街で暮らすのは人間だけではない。緑色の肌の者、腕が6本ある者、全身が岩でできた者。皆楽しそうだ。まるで夢の中に迷い込んだような気分になる。

門番によると、この街を作ったのはキノシタミミらしい。差別なく皆が平等に暮らせる街を作りたかったのだそうだ。すごい人だ。

それにしても、彼女は本当に故郷が好きだったようである。この街のいたる所で日本風の建物が立ち並んでいるのが見えた。まるでこの世界を飛び出して京都や金沢にいるかのような錯覚さえしてしまう。それも彼女の計画なのだそうだ。

未だ自分がなぜこの世界にきたかも分からない状況。そんなときに故郷のものを見るとなぜだか安心する。

この街にはキノシタミミの存在が色濃く残っている。この街で彼女の足取りを追うのも良いかもしれない。そうすればこの世界で生き抜く方法も見つけることができるかもしれない。




夜。

青白い月が星々を率いて太陽を追いかけている。空を見上げている僕は露天風呂に入っている。とてもいい湯だ。岩で囲まれた露天風呂。この他にも室内風呂や水風呂、サウナまでも付いている。ここを見るだけでもキノシタミミが相当な温泉好きなのが分かる。

風呂の後にはコーヒーミルクならぬチョコレートヤギミルクもあるらしい。なんとも気が利くおもてなしだ。温泉を出てそれを飲むとするか。

(あとがき)

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次回は第8話「道標」です。

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