第3話 キノシタミミ
サンドウィッチを食べ終わった僕は岩を調べることにした。
草に隠れて少ししか見ることができない岩になにかロマンを感じる。
それにしても草が邪魔だ。いっそのこと引っこ抜いてしまおうか。
草の根元を持って手前に引く。根っこが頑丈なのだろうか、びくともしない。
仕方がないので茎を折って周りを広げることにする。
徐々に岩の全体像が見えてきた。どうやら岩は石版のようである。
横の長さはおよそ3メートル、縦の長さはおよそ6メートル。縦に長い石版だ。
岩の角から5センチ毎くらいに丸い模様が彫られている。オリンピックの5輪に近いだろうか。
長い間放置されているようで、大部分が苔で覆われている。一体誰が使ったのだろう。とりあえず苔を落としてみるか。
カバンから下敷きを出して苔を削り取る。
全ての苔を落とすと文字列が現れた。これは、日本語ではないな。象形文字?とも違うか。何にしても、見たことがない文字が並んでいる。
最初は題名が彫られているらしい、大きな文字がありその後に本文が続く。
この場所の、この世界の手掛かりがないか探してみる。見覚えのある字はないか、地図はないか...。
無念、何もなかった。気を落として再び座ろうとしたとき、右の側面に何か彫られているのに気が付いた。これは何だろう。
それが何か気が付いて息を呑む。
これは...。
"キノシタミミ"
そこに書かれているのは他のどの文字でもない。日本語だった。
キノシタミミ。おそらく日本人の名前だろう。
石版を作った本人なのだろうか。石版には何が書かれているのだろう。草以外何もないこの地になぜ石版を作った?きっと意味があるはずだ。
もしキノシタミミが石版を作った本人でなくても、きっと何か伝えたいことがあるはずだ。
でもなぜ日本語なんだ?英語でもよかったのではないだろうか。
もしかして、
この世界に他の日本人が来ているからか?
他にも日本人が来ていると知っていたから日本語を残したのではないだろうか。
"キノシタミミ"
文字の感じからして彫られたのは随分前だ。まだこの世界で暮らしいているかは分からない。時間が経っても変わることのない石版。それに乗せて何を伝えようとしているのだろう。
もう一度石版をよく調べる。読めない文字列を念入りに探し、日本語がないかを探した。
しかしそれらしい文字は何も見つからない。1時間くらい経っただろうか。真上から傾いた太陽はまだ強い光線を放ってくる。服が汗で湿っている。
あつい。
僕はついに諦めかけていた。昼に探し始めたがのがもうすでに夕方だ。石版にもう手がかりはないと思って周りの草を掻き分けて他の石版がないか探した。しかし結果はこの通り。茎から折られた草が大量発生しただけだ。一体どれだけの範囲を探しただろう。同郷の先人がいると期待した僕がバカだったのか?
重い足取りで石版に戻る。周りの様子は秋、刈り取られた後の田んぼのようになっている。全て茎から折ったので見晴らしが良い。地面が露出している。大地は茶色の土が覆っているようだ。
はぁぁぁ。
大きなため息をついて石版の側にあるカバンに手を伸ばす。目線が地面に近くなったからだろうか、石版の奥の方の側面。地面に埋もれている文字を見つけた。
あっ!と声が出る。灯台下暗しとはこのことだろうか。まさか埋まっていたなんて。急いで文字の部分を掘り起こす。この石版は元々立っていたのだろう。文字が地面の方を向いていない。
10センチくらいか、手を土だらけにしながら掘り起こすと3行の文が現れた。土を落とすと、それは日本語だった。
"キノシタミミ"
脳裏にその人の名前が浮かぶ。
一体何が書かれているんだ。
「セノボルアルイテカミ...」
なんだこれは...日本語なのに意味がわからない。全てカタカナで書かれている。途中からは崩れていて読むことができない。
もう1つ目の太陽は沈んでいる。2つ目の太陽が沈むのも時間の問題だ。
無念...。ここは目の前の答えに背を向けて寝るしかないだろう。
夜まで時間がない。朝に聞こえていた謎の鳴き声も気になる。今日は寝床を確保するという目標があったのだが...。
ふと視界に草の山が見えた。僕が茎からちぎった草だ。これだ。
僕は草の山に穴を掘り、かまくらのようにして身を守る空間を作った。
よし、かなりよくできたぞ。こんなことをしたのはいつ以来だろうか。子供の頃いとこと雪山で遊んだ以来だろうか。
あ、今日の記録書かなくちゃ...けど明日でいいか。
5分も経たないうちに2つ目の太陽が沈んだようで暗くなる。僕は即席の寝床の中で眠りについた。
(あとがき)
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次回は第4話「声の主の襲撃」です。