ぬるいねこ
戦争が起きていた。
後に第一次地球戦争と呼ばれる大きな戦争が。
医師である私の診療所にも毎日沢山の患者が運ばれてきた。
そのほとんどが火傷による患者だった。
手のひら、腹、頬。
もう薬が無くなっていたし、こいつらはいくらやめろと言ってもアレをやめない。
このままでは人類は……
「……先生。あんたもいずれこうなるぜ?」
全身の火傷を冷やすために子供用のビニールプールにぶち込まれた兵士が言った。
「だろうな」
私も認めるしか無い。
「あっ!ネコチャン!」
誰かの叫び声がする方を見ると、ネコチャンがトコトコと診察所にやって来て真っ直ぐ私のところに向かってくる。
いったいどこから?
その場にいる全員が震えた。
私は腹に力を入れて息を止めた。
ここで私が負けては誰が彼らを治療するのだ。
「にゃー」
ネコチャンの前では人間ごときは無力。
私は甘い声で泣くネコチャンを思わず抱っこして撫でてしまった。
「……終わったな。先生」
20☓☓年。ある日、ネコチャンは熱くなった。
強い中毒性と可愛さそのままに体温は100℃。
ネコチャンを吸ったり撫でたりお腹に乗せている人間はみな大ヤケドを負った。
世界中でネコチャン可愛がり禁止が宣言され、人間たちは歴史上最も強いストレスを負うようになった。
ネコチャンを可愛がれないストレスを戦争に向ける者。
ネコチャンを可愛がるのをやめられず大ヤケドをする者。
人類はこの2パターンに分かれた。
私もネコチャンを可愛がる者になってしまった。
このままネコチャンが熱いままでは世界が滅びてしまう。
さらばだ人生よ。
最後にネコチャンを可愛がれて良かった……。
ん?
「……ぬるい!」
『『ぬるい!?』』
ネコチャンはぬるかった。
ちょうどいい温かさだ。
まるでよく晴れた日に干したお布団の様なぬるさ。
なぜ?昨日まで熱かったのに!
ラジオからニュースが流れてきた。
『世界の皆さん!ネコチャンがぬるくなりました!お近くのネコチャンを可愛がってください!繰り返しお伝えします!ネコチャンがぬるくなりました!戦争はやめましょう!戦争はやめましょう!ああ!我慢できない!私も施設に保護されている愛猫のケリーに会いに行きます!では!』
それを聞いた兵士たちは全員武器を捨てて「ブラヴォー!」と叫んだ。
ネコチャンがぬるくなったこの日。戦争は終わったのだ。
私はネコチャンを空に掲げ、思い切り腹を吸ったのだった。
にゃー。




