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3話 違法アバター

『違法アバターだろ、それ……ッ』

『さぁ、どうだろう? 目撃者がいなければ違法も合法も関係ないよね』

『グワァっ!』

 カメレオンの舌が伸び、藤太の腹を打った。バランスボールほどの大きさの舌先は重く、藤太は床の上でのたうち回る。もちろんこれも現実世界に反映されているため、ソファに座っていた藤太の体は大きく傾き床に激しく叩きつけられた。

『警察のクセにフィジカル弱すぎじゃない?』

『ハッ……悪いが俺は頭脳派でね……!』

 藤太は床に散乱したデータをできるだけ多くかき集めると、それを勢いよくバラ撒いた。カメレオンは反射的に左右の瞳を忙しなく動かし、宙を舞うデータを追って藤太から目を放した。その隙に藤太は痛む体を引きずるようにしてまだ被害を受けていない棚の影に身を潜める。

『やよい! やよいっ!』

 現実世界へ交信を試みたが、返事が無い。先ほどまで生きていたはずの通信がこの停電によってオフにされたのか、どれだけ呼びかけてもワイプが現れることはもちろん、やよいが返事をすることはなかった。

『クソッ! 応援も頼めねぇのか!』

 藤太は舌打ちをすると自分ひとりで巨大な相手と戦うために右手で銃の形を作る。それを上下に二度降って電子拳銃を呼び出した。警察官にのみ与えられた特権スキルのひとつである。

『これでぶっ倒れるタマじゃないだろうけど、逃げ道確保くらいにはなってくれよ……!』

『あぁ! こんなところにいたァ!』

 藤太が電子拳銃を構えたのとほぼ同時に、棚の上からカメレオンの頭がぬうっと現れこちらを見下ろした。同心円を描く突出した目玉はふたつとも藤太を捉えている。

『さあ、観念してよね、ケーサツさん』

『それはできねぇ頼みだなぁ』

 藤太が電子拳銃を弾くのと、カメレオンが舌を伸ばしたのとは殆ど同時だった。

『ギャッ!』

 電子拳銃から放たれた玉はカメレオンの顔の目の前で弾け、猛烈な光を放った。目が焼けるような白が一面を覆う。突然の光源に怯んだカメレオンはバランスを崩したのか、棚が倒れる大きな音が響いて床が揺れる。

『ぐぅッ……!』

 奇襲をかけてきたカメレオンを遠ざけたがしかし、藤太もまた舌に打たれており、過剰ダメージによってピポリティから強制ログアウトさせられてしまった。



「やよい! さっきの情報は⁉」

 現実世界へと戻ってきた藤太はずくずくと重い痛みに支配された体をなんとか床から起こすと、間髪いれずにパソコンを操作していたやよいを問い詰める。

「それが、えっと……突然画面が弾けて、それから真っ暗に……。復旧を試みたんですが、全然動いてくれなくって」

 今にも泣きそうなやよいからパソコンを受け取って確認すると、どうやら内部ディスクがやられているようだった。

大抵のことではめげないやよいがべそをかいている。少し悩んだ末、藤太は意気消沈といった雰囲気で俯いているやよいの頭を無遠慮に撫でまわした。

「センパイ⁉ ちょっと、髪が……!」

「おまえの落ち度じゃないから、そうしょぼくれるな」

「でも、せっかく身元が判明したのに私……私がもっとうまくサポートできていたら……」

「こんなのミスのうちにも入らないっての。落ちこむなら店に迷惑かけたことに対して落ちこんで反省しろ。いいな?」

「はい……」

 やっと顔を上げたやよいの目はうっすらと濡れているが、次に自分がすべきことを理解しているように見える。これ以上励ましはいらないと判断した藤太は現状の重さをより明確に伝えるべく厳しい顔を作った。

「ピポリティ上で攻撃を受けたんだ」

「えっ? それって、カード会社のセキュリティ……なのでしょうか」

「可能性は捨てきれないが、警視庁の権限で行った捜査だからセキュリティが反応したとは思えない。それに、いくらクレジットカード会社とはいえ、一般企業がセキュリティとしてこれほどの破壊力があるものを導入するか?」

藤太はうんともすんとも言わなくなったノートパソコンをトントンと指で叩く。

「それって、つまり……」

「俺たち警察に捜査されちゃ困るヤツがいるらしい」

「今回の事件って、もしかして私が思っているよりも、ずっと大きなものかもしれないってことですか?」

 口元を押さえるやよいの顔は血の気が引いて白くなっている。

「違法アバターが絡んできたから十中八九そうだろうな。まったくめんどくさいことになってきたが、まあいい。やよい、棚元の勤め先に行くぞ」

「えっと……棚元って被害者でしたよね? でも私……アナログでメモとかとってないですから、勤務先なんて覚えてないですよぉ!」

 やよいの顔はますます白くなっていく。

「落ち着け、やよい。メモもデータも必要ない。俺のリープルの能力を忘れたのか?」

「センパイの、リープルの能力……って、なんでしたっけ?」

 眉をこれでもかと下げたやよいに呆れつつも、藤太は自分のこめかみを人差し指で軽く叩いてみせた。

「リメンバランス――一度見たものは人の顔だろうが数字の羅列だろうが忘れやしない。さっき見た棚元の情報は全部覚えてる。勤務先はここからそう遠くない。すぐに向かうぞ」

「はいっ!」


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