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会社の仕事ができる先輩に和菓子をもらった

作者: くにたかあきな

会社のランチ休憩、営業部の同僚との帰り道、企画部の甘井さんが一人で公園に入っていく姿が見えた。

どうして甘井さんほどの人がひとりぼっちで食事しているのだろう。

企画部の甘井さんは2年先輩の女性だ。仕事をテキパキとこなし残業はほとんどせず、柔らかい人柄で同僚からも信頼されている完璧超人。彼女なら食事に行く相手なんていくらでもいるだろう。


入社以来、俺の昼休みはなんとなく同じ部署の人たちと定食屋に行き、当たり障りのない会話をして、全員が食べ終わるまでスマホを眺めて時間を潰す。職場に戻る道を広がりながら歩く同僚の後ろ姿、楽しくないけれど安心する時間だ。

人は一人では生きていけないから、とにかくつながることが大事だ。


興味本位で公園まで追いかけた俺に甘井さんはすぐ気づいた。

照れ笑いをしながら彼女は座っていたベンチの横を指さす。

「珍しいですね。甘井さんが一人で過ごしているなんて」

「週の半分くらいは一人で休んでいるよ?毎日みんなで食事したいとも思わない」

常識でしょ?みたいな軽い口調で言い放つ。

「近くの和菓子屋さんで買ったいちご大福、おいしそう」といちご大福にかじりついた。俺に観察する隙を与えない速度で。

甘井さんは両目を優しくつむり二つ目のいちご大福にかじりつく。

甘井さんにとって一人で和菓子を食べる時間は当たり前で、意味のある時間なのだろう。俺には怖くてできない。

ずいっと甘井さんがいちご大福を差し出した。

「君も食べる?何も考えずに食べることに集中すればいいよ」

この人は何個買ったのだと思いながらかじりつく。

いちごの酸味に続いて柔らかい糖度が口に広がる。

そういえば、ランチで何を食べたのか、どんな味だったのか、覚えていない。

同僚との会話を維持することに必死で目の前の料理を味わうことすら出来ていなかった。

「お昼休みは自分のための時間だから、自分がどう過ごしたいのかを大事にしている。お店で今日はどの和菓子にしようか選ぶのと同じ」

「もし、選びたい商品がなかったら?」

「その時はお店の人に聞いてみる。こんな和菓子ありませんかって。そうすると作り立てを出してくれるかもしれない、別の日に新商品を用意するかもしれない」

「自分が望むものは自分で選んでいいですか」

「そう。目の前にあるものだけが選択肢じゃないから」

そう言った甘井さんは職場の方向に歩いて行った。

手の中に残った大福をかじりつく。ゆっくりと味わいながら。

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