初。【2】「精神障害者になった私」
毎日平凡な生活を送っていた。
まさか自分が精神障害者になると思わずに...
統合失調症という精神疾患になったのは18歳。
私は自分の置かれている状況も理解出来ないまま、
高校三年生の終わり頃に精神病院の精神病棟に二ヶ月入院した。
進学先の専門学校は決まっていた。
いつ病院から出られるのか、自分はみんなと同じように進学出来るのか、
不安になる度に家族に電話をかけて確認した。
何度聞いても進学についてはやんわりとはぐらかされ答えてもらえず、
私は桜が舞い散るのを毎日不安げに眺めた。
やっとの思いで病院を退院した時には、
両親によって専門学校の入学辞退の手続きが済まされていて、
私はその事実を受け入れることが出来ず、絶望した。
何をやるにも無気力無感動。
退院してからの二ヶ月間はただただぼんやり過ごした。
人との接触がなくならないようにという両親の考えで、
私は通院している精神病院のデイケアに通うことになった。
年齢層も高く人数の多い病院のディケアの
利用者から見た十代の私は物珍しかったらしい。
歳が若いだけで目立つ上に、利用人数の少ない女性利用者ゆえに、
高齢の男性利用者たちに下心丸出しで声をかけられる。
だんだんとデイケアに通うことが怖くなっていった。
お腹が痛い、頭が痛い、何かと理由をつけて休もうとする私に、
「自分が精神障害者という認識が出来ず、
まだ健常者なんだと思っているんでしょう。」
両親にそう言われてしまい私はデイケアに通うのが怖いと言えなかった。
半年間出来るだけ目立たないように
静かな場所を探して隠れるように過ごしていた。
そして次第にある知的障害者の男性に目を付けられるようになっていった。
人気のない少し薄暗い部屋でいつも通りただ時間が過ぎるのを待っていた。
そんな中、事件は起こった。
いつも絡んでくる知的障害者の男性に
部屋の隅に追い込まれ身体を触られたのだ。
恐怖で声も上げられない。
ただ逃げ場を探す。
身体を触る手は止まらない。
やっとの事で逃げ出し、
「怖い!助けて!」
と、デイケアの職員にそのことを話した。
病院のデイケアにはもう通いたくない...
なにか他に方法はないだろうかと混乱した頭でぐるぐる考えていた。
偶然にもその日は障害者支援センターの相談員の方との面談の日だった。
今日あったことを両親に何て話せばいいんだろう...
不安な気持ちを抱えたままデイケアの帰りに障害者支援センターに寄った。
その時、担当してくれた女性の相談員方は、とても親切な方だった。
面談をした時、私はとても怯えた表情をしていたようで、
それに気づいた女性の相談員の方は私に「病院で何かありましたか?」と。
私は「知的障害者の男性に身体を触られた。」と一言だけ。
その相談員の方は「そんなことがあったんですか!大丈夫ですか?」
「とても気分が悪いですよね...」「ちょっと上着を脱いでもらえますか?」
突然どうしたんだろう?と、
私は訳も分からず上着のジャンパーを彼女に手渡した。
「一緒にジャンパーをはたいてお祓いしましょう!」
「今日のことは病院に伝えておきます、安心して下さい」
そう言って彼女はバタバタとジャンパーを叩いてくれた。
その日、彼女と面談が出来たことを私は今でもとても感謝している。
次の日、デイケアに行くと
私にセクハラ行為をした知的障害者の男性の姿はなかった。
デイケアの職員の方に、
「昨日の出来事は聞きました!病院側と相談して彼は出入り禁止にしました」
「私たちの監督不足でした!本当に申し訳なかったです」
と、何度も謝られた。
あの女性の相談員の方は私との約束を守ってくれた。
精神障害者の戯言ではなく一人の人間の話として聞いてくれた。
その出来事で私の中で何かが変わった。
その後、私は障害者支援センターとの面談を重ね、
施設を見学し、家族と話し合い、
ディケアに通うのを辞めてセンターに移る事になった。
それから障害者支援センターのB型作業所で約2年間、
就労移行訓練をしハローワークに通って就職活動をした。
そして数ヶ月後、幸運にも障害者枠で、
ある会社の事務作業補助の仕事に就くことが出来た。