【改題して長編化してます】婚約破棄されまくる苦労令嬢は、ある日本当の恋を知りました
唐突に思いつき、夜中に書きました。
過去一エモい(胸キュン)短編ができた気がします。
いかがでしょうか?
「フルーラ、君と婚約破棄したい」
「どこか私に至らない点などございましたでしょうか?」
「いや、何もない」
「──? では、なぜ」
「強いて言うなら面白みがない」
そんな風に言われた私は脳内で浮かんだ言葉を7分後に自分の執事に愚痴るが、ひとまずその場では目の前にいる婚約者様に笑顔で「かしこまりました」とおしとやかに伝える。
すまない、と口にすると、あとで父上を通して手紙や婚約破棄に関する書類を送るからと一方的に去られた。
後でわかったことだが、婚約者様……あ、婚約者様だった方はあるご令嬢に入れ込み浮気をしておりました。
そんなことはつゆ知らずに私は婚約破棄現場である自分の家の庭から自室へ戻ると、先述した脳内の言葉を私専属執事のシリウスに伝える。
「なんなの、あんの唐変木っ!!! 私を振るなんてしかも婚約破棄なんて信じらんない!!」
私の投げ捨てたコートを拾い上げて埃を払うと、彼はそっとしなやかな手付きで自らの腕にかけて持つ。
黒髪のサラサラとした髪を輝かせて、彼は私を宥めるように言う。
「まあ、お嬢様。男は星の数ほどおりますから、次はお嬢様を大事に思ってくださる方が見つかりますよ」
「それ2年前にも聞いた。そのとき強気な性格が理由で振られた私にあなた言ったわよね?! 『お嬢様、次はおしとやかにされてはいかがですか?』って。その結果がこれよっ! どう責任取ってくれんのよ!!!」
私は長く色素が薄めの金髪(癖でウエーブしてる)を振り乱しながら抗議するも、彼は素知らぬ顔で笑顔を見せる。
「お嬢様、執事の私には出来かねることでございます。また旦那様が素敵な方を見つけてくださいますよ」
「もうだからその答え聞き飽きたっ! お父様が見つけてくる男性はろくな人がいないわ」
呆れたようなため息が斜め後ろから聞こえてくるが、私は完全に無視してベッドへ寝ころびに向かう。
そんな私に、ドレスがしわになりますよといつものように小言を言ってくるシリウスだが、これまた意に介さずに目をつぶる。
こんな私を嫁にもらってくれる人など現れるのだろうかと少し落ち込みながら、私は目を閉じた──
次に目を覚ました時、外はもう暗くなっており私の肩をそっとさすってシリウスが起こしてくる。
「お嬢様、ディナーのお時間ですよ。もう旦那様も奥様もお待ちです」
「もう少し寝かせて……」
「いけません。レディなのですからしっかりなさいませ」
そんな紳士的で礼儀の正しい口調で言いながら、私の着ているシーツを剥ぎ取るという暴挙を起こす。
こんなことするなんて……覚えてなさいよ?!
そう心の中で思いながら私はその足でディナーの席へと向かう。
ダイニングに着くとすでにお父様とお母様が席についており、私もシリウスの引いた私の席の椅子に座る。
目の前には前菜のテリーヌとスープが置かれてそれを家族で食べながら、話をする。
もちろん今日の話題は件の婚約破棄である。
「フルーラ、どうしていつもいつもお前は……」
「私に合わなかったんです。今度は素敵な方をみつけてください」
「そう言ってもう9人目だぞ。いい加減に親を安心させてくれ」
「そうよ、もうちょっと落ち着いて上品にしてみたら?」
「お母様、今回はおしとやか作戦でいってダメだったの。もう私には無理よ」
そんな家族の会話を聞きながら、私のテーブルには料理が次々に運ばれてくる。
もちろん配膳をしているのもシリウスだが、相変わらず非の打ちどころのない所作と言葉遣いでなんだかむかつく。
「じゃあ、明日知り合いにいい人がいないか聞いてみるから」
「ええ、お願いしますお父様。今度はもっと私好みの方にしてくださいませ」
「そんなこと言っているからうまくいかないんだ……」
もはや頭を抱えるようにして食事も進まないお父様を尻目に、私はもぐもぐと一定のマナーを守りつつ美味しく食べる。
よく食べる私は家での食事は普通の令嬢の2倍の量で出される。
あんな少しの量で足りるご令嬢の気が知れないわ、と心の中で呟きながらデザートのアイスクリームを頬張る。
そして、そんな私に一生一代の婚約話が舞い込んでくるのはこの5日後だった──
◇◆◇
「フルーラっ!!!!!!!!」
大きな声というかもう叫び声で私の部屋に入って来るお父様の手には、何やら一通の封筒のようなものがある。
「お父様、ノックはしてっていつも……」
「それどころじゃないっ! 来たんだよ、婚約話がっ!!」
「はいはい。あとでどのような方が確認するからもう少し寝かせ……」
「第一王子だよっ!!!!!!」
ん……?
「はい?」
私はお父様に疑問を呈するが、お父様ももうそれどころではなく呼吸困難に陥るのではないかというほどひどく肩を上げ下げしている。
それよりも、今第一王子って言った?
第一王子がなんて?
「第一王子がどうしたの?」
「だ・か・ら!! 第一王子のセルジュ様からお前に婚約話が来たんだよ」
「…………は?」
そのレディらしからぬ素っ頓狂な声と顔に首を傾げた様子を、ちらりと視線の先にいたシリウスは頭を抱えて嘆いている様子だった。
婚約者の段階から妃教育をしたいからと今すぐに王宮に来て、そしてそのまま一室で住むようにと手紙には書いてあった。
ひとまず第一王子を待たせるわけにもいかない上に、まさか私のように子爵令嬢が断るわけにも行かずすぐに馬車で向かうことに。
お父様とお母様は突然の娘との別れにかなりショックを受けた様子だったけど、なんとか気丈に振舞って送り出してくれた。
その少し後ろにはシリウスが控えており、私と目が合うとゆっくりと丁寧にお辞儀をした。
お別れなのね、みんなとは……。
そんな少し寂しい思いを抱えながら私の乗せた馬車は王宮への道を進んでいった。
やがて王都が見え始め人の賑わいが感じられるようになってまもなく、王宮が見えてきた。
馬車は王宮の目の前につけると、私はゆっくりと馬車から降りる。
すると、そこにはなんと第一王子がいらっしゃり私は慌ててカーテシーで挨拶をする。
「いらっしゃい、フルーラ」
「殿下にご足労いただき恐縮でございます」
「構わない、なんたって君を婚約者に迎えるのだからね。それ相応の出迎えをしなければ」
そこまで言われて自分が殿下のみならず騎士、メイド、執事、様々な王宮の人たちに出迎えられている事に気づく。
私はあまりのレベルの違いに驚き委縮してしまう。
そんな様子に気づいた殿下は私の手を優しくとって、王宮へと迎え入れてくれた。
「ここがフルーラの部屋だよ。何か不便があれば言ってくれ」
「かしこまりました、ありがとうございます」
私にはどうやらメイドが3人も専属でつくらしく、殿下とのディナーの支度で髪を整え、立派なドレスを着せてもらい、お化粧もする。
こんなに綺麗にしていただいてなんだか悪い気がする……。
夕日が部屋に差し込むと温かく感じられる。
そんな日の当たるベッドでゆっくり昼寝をしたいが、そんなことは当然許されずディナーの席へと案内される。
すでにそこには国王様と王妃様、そして殿下がいて私は人生で一番緊張する。
「フルーラ、セルジュの婚約者になってくれてありがとう」
「こちらこそ、身に余る光栄でございます」
「そんな気負わないで。さ、食べましょう」
思ったよりも国王様も王妃様も、そして殿下も優しくて私はこれからの婚約生活、そしてその先の妃となる未来に期待を寄せる。
そうよ、この幸せのために今まで我慢ばかりして、それで婚約もうまくいかなかったんだわ。
そう思いながらディナーの時間はあっという間に過ぎ、私は殿下と部屋でワインを飲むことになった。
「フルーラが婚約を受けてくれて嬉しいよ」
「私も、殿下の婚約者になれて嬉しいです」
ワイングラスをそっと寄せ合ってそして一口飲むと、なんとも言えない芳醇な味わいとほのかな苦味が訪れる。
「殿下ではなくセルジュと呼んでくれ」
「よいのですか?」
「ああ」
「では……セルジュ様」
私の呼びかけに満足そうに微笑むと、セルジュ様はワインを一口、また一口と飲む。
その様子を見て、私もワインを飲んでセルジュ様に微笑みかける。
ああ、なんて幸せなんだろう。
こんなに幸せでいいんだろうか。
月が輝く窓の外に広がる空を眺めて私はふわっとお酒の心地よさに酔いしれる。
そんな時、月がなんと段々揺らめいてそして二つに見える。
あれ、おかしいな……。
酔いすぎたのかと思い目をこすっても月は二つ、それどころか段々視界が暗くなりやがて月も見えなくなる。
そして私の身体はぐらりと揺れて私の手からはワイングラスが落ち、そして床に落ちてガラスが割れる。
私は耐え切れずに地面に臥すと、目の前にはしゃがみ込んで私の顔を見つめるセルジュ様がいた。
「効いてきたみたいだね、薬」
「……え?」
「君のワインに薬を仕込んだんだ。さ、ベッドに行こうか」
セルジュ様は私を難なく抱えると、そのまま私の身体をベッドにほおり投げる。
「──っ!」
気が付くと、私の身体にのしかかるようにセルジュ様の身体をあり、そしてその顔は獲物を捕らえた獣のような表情をしているように見えた。
私は必死に逃げようともがくも、身体は思うように動かず意識が飛びそうになる。
「はぁ……はぁ……」
息を切らせる私にセルジュ様の顔を近づいて来る。
「君は知らないだろうけどね、フルーラ、君は聖女なんだよ。この国唯一の聖女だ」
「せい……じょ?」
「ああ、神聖で美しくてそれでいて私に相応しい。だから婚約者にした」
聖女だなんて聞いてないし、私はただの子爵令嬢のはず。
「君は僕を癒すためだけに生まれてきたんだ。君は僕のものだ。黙ってその身を捧げるといい」
「はぁ……い……や」
私は助けを呼ぼうと声を出そうとするが薬が効いているのか、声すらもうまく出せない。
そしてセルジュ様は逃げようとする私を無理矢理押さえつけ、そして私の頬を一回殴った。
「──っ!」
「おとなしくしろ、君は私の言うことだけ聞いていればいい」
セルジュ様は私のドレスに手をかけ、そして首元にあるネックレスを引きちぎった。
やめてっ!!
それはシリウスが私の誕生日にくれた大事なネックレスなの。
セルジュ様の手は止まらず、私の胸元に手をかけてそしてもう片方の手で私の頬に手をあてると、唇を近づけてくる。
やめてっ!!!
唇と唇が重なりそうになる瞬間、私は心の中で叫んでいた。
『シリウス、助けてっ!!!』
刹那、ベッドの脇にあった窓ガラスが割れ誰かが入って来るや否や私に覆いかぶさるセルジュ様を蹴り飛ばした。
そして私を優しく抱きかかえると、その人は吹き飛んだセルジュ様をにらみつける。
その見慣れた顔に私は涙がこらえきれなくなり、思わず呟いた。
「シリウス……」
私を逞しい腕で抱きかかえたシリウスはセルジュ様ににらみつけて言う。
「あなたの素性を調べさせてもらいましたよ。金髪の女性を聖女と呼んでは婚約者にして襲っていたそうですね」
「それがどうした? 第一王子だぞ、私は。こんなことをしてただで済むと思っているのか?」
「すでに私の主人が国王にこのことを証拠と共にお伝えしているはずですよ」
「──っ!」
その言葉通り、ドアが大きく開くと国王がセルジュ様に威圧的な態度を見せる。
「セルジュ、なんてことをしてくれたんだ。バルト子爵から全て聞いた」
「父上、これにはわけが……」
「わけも何もあるか! お前は今日を以って廃嫡とする!」
「──っ!!」
その国王の言葉にセルジュ様は肩を落としてうなだれると、私の記憶はそこでぷつりと途切れた。
◇◆◇
あの王宮での出来事から3日ほど寝込んでしまった私は、お父様とお母様にかなり心配された。
でも、回復後に相変わらずの食事量を食べていると安心したのか、二人は顔を見合わせて笑った。
私はお日様のあたる自室のベッドで寝転がりシリウスと話す。
「はあ……やっぱりこのお日様の当たるベッドでのお昼寝がいいのよね~」
「お嬢様、あまりぐうたらしますと旦那様と奥様に叱られますよ」
「もうっ! シリウスは小言ばっかり! まるで小姑ね」
そんな私の嫌味を気にすることなく、いつも通り私の飲む紅茶を用意しているシリウスに私はぼそっと呟く。
「ありがとう、助けてくれて」
「お嬢様が助けを呼んでいらっしゃったので、行ったまでですよ」
「聞こえてたの?」
「ええ」
そんなわけない、だってあの時私は声なんて出せてなかったもの。
私は勢いよくベッドから立ち上がると、シリウスに近づいて彼の顔を見上げる。
「本当にありがとう、シリウス」
私は精いっぱいの笑顔を見せると、なんとも驚いた表情になり、そして彼は紅茶をテーブルにそっと置いた。
次の瞬間、私のおでこに彼の唇がつけられる。
「……え?」
私は起こった出来事を理解するのに22秒かかり、そしてそのあとで顔を真っ赤にして目をぱちくりさせる。
「あ、え? その、え?」
慌てふためく私に彼は意地悪そうな顔をしてそっと耳元で呟いた。
「隙だらけですよ、お嬢様」
私は恥ずかしさを隠すために彼の胸元をバンバン叩くと、ベッドにもぐりこんだ。
彼のくすっという笑い声だけが私に届く。
私はこの有能で頼りになる執事のことを、好きになってしまったらしい──
読んでくださり、感謝です!!!
ブクマや評価☆☆☆☆☆などをしていただけると嬉しい限りです。
感想などもあれば、ぜひお待ちしております。
先週「呪われ令嬢、王妃になる」も連載開始したので、
そちらもよかったら覗いてみてください。
それでは、読んでいただきまして誠にありがとうございました!!