死体遺棄の夜、カーラジオを
山の天気は変わりやすい────
────そんな事、よく言われる話だ。
しかし実際に降られるとさすがにいい気分じゃない。
(予報は晴れだったんだがな……)
ボンネットを叩く雨音が耳に響く。
倒した運転席に独り、腕を組みながらもたれる。
(独り……まぁ…独り、か)
後部座席に目をやる。
買ったばかり、真新しいブルーシート。
ぐるぐるに巻いて縛ったそれから、長い茶髪が覗いていた。
(お前が悪いんだぞ)
なんだってこんな山のなかに来なけりゃならないんだ。
おまけにこの雨。
さっさと穴を掘って埋めて帰るつもりが、車のなかで待ちぼうけをくらわされている。予定が狂う。誰かに見られでもしたら……
(……まぁ、土砂降りの山のなかに来る奴なんていないだろうが……真夜中だし)
今のところ誰にも出くわしていないのは運がいい。
ヘッドライトを消した暗闇のなか、打ち付ける雨の音が車内に響く。
シャベルやブルーシートを買う時に合羽も買えばよかった。そんな考えがふと浮かぶ。買い物をしている時に1ミリも思い付かなかったくせに。
────
───
──
「あのね、出来たみたいなの」
はぁ?ナニが?
────
───
──
「奥さんと別れるって言ったじゃない。ねぇ、聞いてる?健さん」
お前うぜぇよ
────
───
──
「や、止め……ぐっ苦じ……っっ……健さ…」
──
───
────
とっさに跳ね起きた。
(くそっ……うっかり寝ちまってた)
緊張の糸が切れたのか、雨音に眠気を誘われたらしい。
(誰も……来なかったよな?)
こんな山のなか、誰も通る訳がない。
自分にそう言い聞かせながら、じっとりと汗ばんだ額を袖で拭う。
頭を振って眠気を払いながら、いつもは使わないラジオをつけた。
これ以上寝る訳にはいかない。どうせ誰もいないんだ、雨音を消すつもりで音量を上げる。
『……※※※はい、そういうわ※※……■夜は納涼※※■※■特集……』
山のなかだからだろう、雑音がDJの声に混ざり途切れ途切れにしか聞こえない。
それでも聞こえないよりはマシだ……
『……※※ではリスナーの…※※…す。これは……■ちゃんに読んで……』
DJの声がアシスタントの女に代わる。
『私の彼には奥さん※※※……いわゆる不■……です。でも彼は※※……と別れ……』
(……どこにでもある話だな)
『……それで私は彼…試して■■■……た。お腹に赤ちゃんが※…※※と言ってみたんです』
「ちっ!……」
こういう女、ムカつくぜ。
『……それで彼と口論になり、私を殴りつけた彼は床に倒れた私の上に馬乗りになってその両手を私の首に回すと力強く締め付けてきて私は苦しいと叫ぼうとしたのに喉が締まって声が続かず息を吸うために彼の両手を振りほどこうと手首を掴んだけれど体重をかけた彼の腕は重くて私は足をバタバタ動かしてなんとか逃れようとしていたのだけどゴキリと音が聴こえてコレ私の首が折れた音だって気付いたら頭のなかにメチャクチャな映像が流れてコレが走馬灯かぁとか他人事の様に頭がぼぉっとモヤがかかって……』
(お、おいおいおい!?)
『……ねぇ、聞いてる?健さん』
───────終。