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【書籍化】くたばれスローライフ!  作者: 古柴
第6章 バースデーは永遠に
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第39話 凱旋しての悲喜交々

 ゆらゆらと降ってくる『一輪の花』に気づいた瞬間は血の気が引いた。

 あれこそ神さまにとって悪夢の象徴。

 であれば、あの『花』はこれまでの『悪夢』と比較にならないようなヤベえやつに違いない。


 この直感は概ね正しく、とっさの行動すら許されず俺は一瞬にして灰色の空間に隔離されてしまい、遅れてニャスポーン状態が解除されていることに気づいた。

 幸い、それ以外に体に異変はなく、この場も直接的に悪影響を及ぼしてくることはなかったが――


「猫スマホは使えない……と。こりゃみんなこんな感じか……?」


 分断され、孤立させられた。

 こういう場合、元凶を退治すれば解決するものだが、その元凶たる『花』は立体映像のようなもので、そこにあるのに触れることができない。


「なんかこれ、詰んでるくせーなー……」


 まだ多くを試したわけではないが、雰囲気的にそう易々と切り抜けられるような状況ではなさそうだ。

 下手すると、神さまがふて寝を止めるまでここに隔離されっぱなしなんじゃなかろうか?

 なんて俺は深刻に考えていたのだが――


「へ?」


 状況はあっさり好転した。

 急に灰色の空間が白い空間になり、離ればなれになっていた皆と合流したのである。


 もしかして誰かが状況を変えたのだろうかと、俺は辺りを見回し――。

 そして気づく。


 うわぁ、なんかシセリアが白猫を抱っこして撫でてるぅ……。

 あれって神さまだろ。

 ちょっとわけがわからないですね。


 つかその様子がまた見事に神殿の象徴になってる像そのもので、シセリアはよりにもよって神殿の上澄み連中の前でそれをご披露しちまっているのである。

 どえらいことになるのは確定だ。


 皆が見守るなかシセリアはしばし神さまを撫でていたが、やがて神さまが満足したのか白い空間は光に包まれ、気づけば俺たちは大神殿の聖堂へ帰還していた。


「ニャニャーン! お帰りニャー!」


 まず声をかけてきたのはやけにテンションが高いニャニャだ。

 つかここで待っていたのか。

 ニャゴもいるし、なんかミャウはお留守番するおチビたちの相手をしていてくれたっぽい。

 お礼にマタタビの木とか贈ったほうがいいだろうか?


「やっかいな『悪夢』退治、ご苦労だったニャ! よくやってくれたニャ!」


 ニャニャからのお褒めの言葉。

 普段の神殿勢なら涙を流して喜びそうなものだが、まだ夢から醒めきっていないように茫然としていて反応を示さない。

 褒められているのにガン無視とか、もう明らかに無礼なのだが、神殿勢の状態を理解しているのか、ニャニャは気にする様子もなく今度はシセリアに話しかける。


「とくにシセリア、お前ニャ! すごいニャ! おかげでニャー様はすこぶるご機嫌になったニャ! めでたいニャ! こんなこと我輩たちでもできないニャ!」


 べた褒めである。

 またそう思っているのはニャニャばかりではないようで、さらにニャゴとミャウもシセリアに声をかける。


「お前、なかなかやるニャン!」


「名前は覚えておきますにゃ~ん。皆にもなにかあればよくしてあげてと伝えておきますにゃん」


「はあ、ありがとうございます……?」


 なんでシセリアは戸惑ってんですかね?

 もしかして状況がわかってない?

 まさか抱っこしていた白猫が神さまだって気づいてなかった、なんてことはないと思うが……。


 それにあんなテンションが低いのもなんでだ?

 神さまを撫でてるときはわりと楽しげだったのに……。

 陽気に持て囃してくるニャニャたちに気後れしてるのか、それとも周囲で『さすがシセリア!』なんてやんや言いつつ飛び回ってる邪妖精たちが目障りなのか。


「ううぅ、お花さん、貴方がいないのでまた鎧との繋がりが……」


 うん、わかった。

 テンションが低い理由とか、シセリアが『花』にどう接したのかとか色々。


 それってどうなのよ、と思う一方、シセリア以外に誰がそんな対応をできたのかとも思う。

 連れていかなかったらマジで詰んでいたのだろう。

 でもって嫌われているスプリガンはというと、聖堂の隅っこで置物のように鎮座してぼそぼそ呟いている。


『おお我が主よ……比類なき主よ……』


 あかん、危ないおクスリをキメてなんか尊い存在と交信を始めた人みたいなことになってる。

 怖いのでほっとこう。


 まあこんな感じでシセリアの周りは賑やかになってるが、神殿勢は未だに静かなままだ。

 でもそれも嵐の前の静けさなのだろう。

 今回のやらかしは、もうシセリアそのものが信仰の対象になりえるほどにでかいのだ。


「これに比べたら、俺のやることなんて豆粒みたいなもんだな……」


「おいそこ、功績と悪行を一緒くたにするでないわ。豆粒でも寝転がったところにあれば不愉快じゃろ? そういうことじゃ」


「……」


 なんとなくの呟きに、心無い爺さんから突っ込みを受けた。

 ひどくない?


 若干落ち込んでいると、さらにそこにほっぺをぷくぷーと膨らませたお嬢ちゃんたちが『どうしてニャスポンじゃなくなってるのー!』と突撃してきた。

 ラウくんもまた「むー……」とお冠で、喜んでいるのはペロくらいのものである。


「いやいや、仕方なかったんだって。なにもニャスポンをやめようとしたわけじゃないんだ。勝手に解除されたんだよ」


 ちゃんと説明しないと収まりがつかないようだったので話してやったところ、今度は『神様に会いたかったー!』と拗ねられることに。

 そりゃ会える機会があれば会いたいだろうけど、でもさすがに連れていくわけにはいかなかったし、実際連れていかなくて正解だったから……。


 なんとかなだめようとするも、どうも俺ではなだめきれないようだったのであとをシャカに任せる。

 シャカはなんだか複雑そうだったが、拗ねるおチビたちを一人一人むぎゅっと抱きしめて強引に機嫌を直させていった。


「やれやれ、ともかくこれで問題はすべて片付いたわけだ」


 神殿のあれこれから、神さまのふて寝まで。

 まあ結果としてこれから始まる問題もあるのだが、今だけはひと息つこう。



    △◆▽



 その後、シセリアを褒めちぎってニャニャたちは帰還していき、これからどうするかとなったところでようやく反応を示すようになったレオ丸が神殿勢で会議をおこなうと言いだした。

 反省会みたいなものだろう。

 だがはたして反省会になるのか……。

 きっと思い起こし話し合うなか、興奮してきてしっちゃかめっちゃかになるのではないだろうか?


 なんとなく予想できたが、だからとわざわざそんな場でなだめ役をやるつもりはないので、俺は皆を連れていそいそと大神殿を抜け出した。

 そして居眠る千匹の猫亭へと戻る途中、シルとエレザが神域でどんなことがあったかをおチビたちに聞かせ、俺はシセリアに自分が今どんな状況にあるのかを説明してやった。

 これにより――


「ひえっ」


「いや、ひえっじゃなくてね? なんであの状況で神さまって気づかないの? むしろすごいよ。無敵だよ」


 シセリアがなんもわかっていないままあの状況を覆し、神さまのご機嫌取りまでやってのけたことが判明した。

 神殿のあれこれで、そんなこと人にはできねえって宣言した俺の立つ瀬がねえよ……。


「なーなーシセリア様よー、お偉いさんたちにさー、神殿の神殿みたいに『鳥家族』も勢力圏に開店させろって命令してくれよー」


 あとエルフがうるさい。

 つかこのエルフですら神殿がシセリアをどう扱うようになるか理解してるってのに、どうして当人がさっぱりわかってねえんだ。


「私とくになにもしてないのに……」


 いやしたよ?

 今回はもう言い逃れようもなく、お前一人でやっちゃったよ?


「こうなったら……そうです! 面倒なことになる前に帰りましょう! 今すぐ帰りましょう! もう用件はすんだんです! 帰っても怒られません!」


「お前、明日は聖都を観光しようつってたじゃん……」


「状況が変わったんですぅー!」


 変えたのはお前だが……。


「まあ落ち着け尊き人よ。逃げればすむような話じゃないんだ。帰ったところで普通に追っかけてくるぞ」


 どう嫌がってもシセリアがこの世界でもっとも尊い人物になってしまったことは覆しようがなく、ここは逃げるとむしろやっかいなことになると説明してやる。


「だからこの場合はちゃんと残って、自分が関係する話がおかしなことにならないか目を光らせておいたほうがいいんだよ」


「そうでしょうか……」


「だってあれだぞ、これで帰って、後日ひょっこり聖都の邸宅ができあがったのでお迎えにあがりました、とか普通にありえるぞ」


「えー、やだぁー!」


「だからここは残ったほうがいいんだって」


「ええー、それもやだぁー!」


 ジタバタと。

 シセリアはすっかり駄々っ子になってしまった。


「なーなー。頼むよー。そしたらずっとカラアゲ食べ放題でいいからさー。なーなー」


 あとエルフ、うるさい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖人、それが外から呼ばれたのではなく中で産まれたというの行幸か 外から持ち込まれたお菓子なかったら、ここまでなし得なかったかもしれませんが
[良い点] 更新お疲れ様です。 またニャスポーン形態は解除されたのか…まぁシセリアが巫女としてのお勤め(?)を果たしましたし、三度目の正直という言葉も有りますし、ニャスポーンV3になる日はもう来ない…
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