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【書籍化】くたばれスローライフ!  作者: 古柴
第1章 森を出よう、都へ行こう
20/250

第20話 閑話 ディアーナ

 わたしはディアーナ!

 宿屋『森ねこ亭』の看板娘!

 十歳です!


 まだ小さいけど、ちゃんと宿のお手伝いもしています!

 がんばってます!

 でも、うちの宿はいつも暇です!

 お客さんがきません!

 きません!

 なんで!?

 毎日お掃除してるから清潔だし、料理も美味しいのに!


 あんまりお客さんがこないから、お父さんは冒険者のお仕事をしてお金を稼いできます。

 これでしばらく宿も安泰だ、とか言います。

 わたし、それはなんか違うような気がします!

 でも、仕方ないのもなんとなくわかってます!


 宿が暇なとき、お父さんとお母さんは、いつ宿屋を続けられなくなっても大丈夫なようにって、わたしが冒険者として働けるように訓練をさせます。

 でも、宿がなくなったときの準備をするのは……なんか嫌です。

 なのでわたしは、冒険者として働けるようになったらいっぱいお仕事してお金を稼いで、この宿に泊まろうと思ってがんばっています。


 ……え?

 なんか違うって?

 そういうことを言ってはダメです!

 わたしがんばって訓練しているんですから!


 ……ん?

 宿はいつも暇だから、つまりずっと訓練してるんじゃないかって?

 そういうことも言っちゃダメです!

 さすがにそこまで暇なわけではなくて……あ、嘘です。いつも暇です。すみません。で、でもですね、いつ客さんが来てもいいように、準備をしておくっていうお仕事はあるんですよ?



    △◆▽



 春になってもうちの宿は暇でした。

 去年も暇だったような気がします。

 もしかしたら来年も暇なんじゃ……。


 困りました、このままでは、うちの宿にとってお客さんが『おとぎ話』になってしまいそうです。

 むかしむかし、宿屋には『お客さん』なる人が泊まりにきてお金を払ってくれたそうな、とかそんなことになってしまいます。


 これはやっぱり、わたしが『お客さん』になるしかありません。

 でもそのためには、まず冒険者になってお金を稼がないといけません。

 でもでも冒険者になれるのは十二歳から。

 あと二歳足りません。


 歳をごまかして登録できないかな……?

 う~ん、一番近い冒険者ギルドの支部長さんは、ときどき食事に来てくれるからわたしのこと知ってるし……。

 これは、ごまかしてもすぐにバレそうです。

 やるならべつの支部に行って登録しないといけないのですが……わたしが宿からいなくなれば、当然お父さんとお母さんにはバレます。

 絶対どういうことか聞かれます。

 歳をごまかして冒険者になるのは無理かなぁ……。


 いったいどうしたらいいんだろう。

 悩んでいた、そんなある日――。


 来た!

 お客さん来た!

 ひさしぶりのお客さん!

 ケインさん!

 しばらくうちに泊まってくれるって!

 すごい、しばらく、すごい!

 しばらくって何日くらいなのかな!?


 わたしはつい大はしゃぎしちゃったけど、お父さんやお母さんだって喜んでました!

 お母さんなんか、今夜は食事を豪勢にしようって!

 そしたらラウくんも喜びました!

 すごい、みんな喜んでます、やっぱり『お客さん』はすごい!


 でもケインさんは『お客さん』でも、もっとすごいお客さんでした!

 突然、どこかからお肉とかお野菜とか、調味料とかを出したのです!


 魔導師さま!?


 びっくりして尋ねると、ケインさんは果物をくれました!

 おいしい!



    △◆▽



 ケインさんは『お客さん』ですごい魔導師さまでした。

 だから支部長さんがわざわざ案内してきたんだと思います。


 挨拶が終わったあと、ケインさんは宿にお風呂があるか聞いてきました。

 うぅ~、お風呂はないよぉ~。

 じゃあ泊まるのやめるとか言いだしたらどうしよう……。


 そんなことを思っていたら、ケインさんはお風呂を作るとか言いだしました。

 そして本当に、庭にお風呂を作ってしまったんです。

 小さいお風呂、でもちゃんとお風呂。

 すごい、うちにお風呂だなんて……。

 おまけにわたしたちも好きに使っていいって言ってくれました!

 こ、これは入らないわけには……!


 最初にケインさんがゆっくり入ったあと、さっそくわたしもお風呂に入らせてもらうことにしました。

 ラウくんも一緒です。

 大人だと一人しか入れないくらいだけど、わたしとラウくんなら大丈夫!


 まずわたしはラウくんの服を脱がせて、それから自分の服を脱ぎ始めようとしました。

 そしたらラウくんが逃げだしました。

 なんで!?

 びっくりしつつも追いかけます。

 なかなか捕まらない!

 いつも大人しいのに、どうしてそんなにすばしっこいの!?

 ラウくんは必死に逃げ回ったけど、それでもわたしはお姉ちゃん。

 最後にはちゃんと捕まえました。


 それから、どうしてお風呂に入るのが嫌なのか尋ねてみました。


 ……え?

 怖い?

 お風呂が?

 いったいどういう……。

 ん?

 なんだか煮られるみたいで怖いって?


 どうもケインさんの作ったお風呂の形が、鍋を連想させてしまったみたいです。

 思わず笑ってしまいました。



    △◆▽



 まず一泊したケインさんは朝からお風呂に入ろうとしていました。

 朝からお風呂なんてすごい。びっくりです。優雅です。

 次に入ってもいいかお願いしたら、快くいいって言ってくれました。

 すごいです、これでわたしも優雅の仲間入りです。


 そのあと、ケインさんは宿で使う水を補充してくれました。

 お風呂のお湯と同じように、魔法でざばばーと、あっという間にやってくれました。


 この宿で使う水は、水瓶とか樽を荷車にのせて、離れたところにある給水泉まで汲みにいかないといけません。

 大変なお仕事です。

 楽をしたいなら水売りの人から買えばいいのですが、買うためのそのお金に苦労しているので、けっきょくは自分たちで汲みにいくしかないのです。


 それをケインさんが全部かたづけてくれました。

 すごい……お客さん、すごすぎる……。


 あ、でもお父さんはケインさんから宿代を貰うわけにはいかないと言っていたので、お客さんとはちょっと違うのかもしれません。

 たしかに、ケインさんには食材をもらったりお風呂を作ってもらったりしています。それにお湯を用意してもらって、宿で使う水を補充してもらって……。

 お客さんじゃないのなら、ケインさんはなんなのでしょう?

 う~ん……。

 お客――さま?



    △◆▽



 朝食を食べたあと、ケインさんは冒険者ギルドへ出掛けていきました。

 すごく面倒くさそうでした!


 そんなケインさんと、帰ってきたら町を案内する約束をしました。

 すこしでも恩返しをしないと……。

 あれ? ラウくんも行くの?

 途中で疲れちゃうかも……うん、行きたいのね。


 やる気になっているラウくんはめずらしいです。

 それからわたしは張りきってお父さんとお母さんのお手伝いをしてケインさんが帰ってくるのを待ちました。


 そしてお昼前に帰ってきたケインさんは……なんか子犬と一緒!

 可愛い!

 これはうちの子にしないと……!

 お父さんにお願いに行くと、すんなり飼うことを許してくれました!

 やったー!


 急いで戻ると、ラウくんがぎゅーっと子犬を抱きしめていました。

 すっかり気に入っちゃったみたいです。


 でも、独り占めはずるいです!

 お姉ちゃんも抱っこしたいのに……!


 子犬を抱えて逃げるラウくん。

 追いかけながら、でも、わたしは笑顔。

 様子を見に来たお父さんとお母さんも笑顔です。


 静かだったうちが急ににぎやかになりました。

 もしかしたら、これからもっとにぎやかになるのかもしれません。


 ケインさん、ずぅーっと居てくれたらいいのになぁー……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公以外の話は実に平和だな!
[一言] ケイン「まずい、〝家族〟にされてしまう……!」
[良い点] お客さまがかみさまになっちゃうヤバイヤバイ。 [気になる点] おきゃくさんとはうごごごご······
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