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【書籍化】くたばれスローライフ!  作者: 古柴
第5章 この世を宿屋にするために
199/250

第49話 化け猫VS化け宿屋

 ()風堂々仁王立ち。

 一難去ったらまた一難とは世の真理なのか、変態が去ったと思ったらまた新たなる変態が出現――妖精変態フェアリーメイクオーバーリクレイドが爆誕した。


 妖精界め、人外魔境にもほどがある、いい加減にしろ!

 落ち着いた入園客とかまたざわついてんじゃねえか!


 正直、もう〈鑑定(欠陥)〉をぶちかまして終いにしてやりたいところだったが、あいつはメロスと違って殺しちゃダメだし、耐えやがったらいらん情報のフィードバックを受けてしまうので躊躇する。

 もう変態の情報はほしくない。


「あれ、エレザと一緒……?」


「違います。いくらノラ様の仰ることでもこれは看過できません。それと撮影するのはよしてください。あれは記録に残してよいものではありません。ささ、ここは危険です。離れて見守ることにいたしましょう」


 エレザはややお冠でノラをたしなめ、さらに皆へこの場から離れるよう呼びかける。

 決闘に巻き込まれないようにという配慮なのだろうが、どうも変態から遠ざかろうとしているように思えてしまう。


「これを卑怯とは言うまいな?」


 問うたのはリクレイド。

 妖精と合体してのパワーアップ(?)についてだが、こっちも飼い猫と合体してパワーアップ(主に可愛さ)していることは把握(シセリアめ!)しているらしく、文句はつけにくい。

 おチビたちもいるし、ニャスポーン化についての話が出てくると面倒なのだ。


 つかこいつの場合は卑怯っていうか、もっとこう……なんだ、どう表現したらいいんだこれは、湧き上がるもやもやは名状しがたく、だからこそ困惑は不安となって俺の精神を蝕む。

 きっと昔の人は、こういう心境の中で妖怪という概念を生みだすことになったのだろう。


「では、始めるとしようか。この俺のおもてなし、堪能するがいい。――たっぷりとな!」


「キメ顔でなに言ってんニャこの変態は」


 くそっ、シセリアを決闘代理としてぶつけてやりたいところだが、残念なことに現在は迷子だ。

 なんのための守護騎士なんだよあいつ。


 現在俺はリクレイドの変態化に強い精神的衝撃を受け、動揺してしまって意識がまだ決闘に臨むという状態ではない。

 逆にリクレイドはやる気満々で、これはもう先手を取られたようなもの。


 ひとまず落ち着け、と俺は自分に言い聞かせるが――。

 リクレイドはそれを許さない。


「コオォォォッ!」


 中腰の踏ん張り状態になって、リクレイドは力を溜める。

 ぶわっと体から噴出するのは魔力? 闘気? それとも妖精だからオーラ(ちから)

 なんでもいいけど、その姿で大股開きになって踏ん張られると目に毒っていうか、精神に劇毒なんだよ、やめてくれ。


「くっ、まったく集中できねーニャ……!」


 わりと真面目にあせりを覚える。

 あいつは皆に放置されてまだそこに転がっているアイルやクーニャとは違い、片手間で倒せるような相手ではない。

 なんとか戦いに集中を――と思った瞬間。

 カッとリクレイドが目を見開き、一瞬で踏ん張り体勢からピシッと背筋を伸ばしての屹立。

 そして短いスカートをつまみあげてのおぞましきカーテシーを披露すると、裂帛の気合いを込めて叫んだ。


「お(かえ)りなさいませ、ご主人様ッ!」


「――ッ!?」


 なにが!?

 えっ……なにが!?


 一瞬、これが決闘であることすら忘却する。

 だが、俺の脳がパニックを起こしたことを誰が責められよう。

 さらにだ。


「皆さんッ! ご主人様のお還りですッ!」


 ごばっとリクレイドの体から放たれる変態力。

 周囲に放出されたかと思ったらいくつかの渦となり、直ちに像を結びそれらはほんわか発光する半透明のリクレイドと化した。

 つまり変態の分体が七体出現したということで、もしかしてキャラづけなのか、そいつらはそれぞれ箒とかハタキとかトレーとかティーポットを手にしている。

 そして――


『お還りなさいませッ!』『お還りなさいませッ!』『お還りなさいませッ!』『お還りなさいませッ!』『お還りなさいませッ!』『お還りなさいませッ!』『お還りなさいませッ!』


 変態の分体が七体がかり(セプタプル)で襲ってきた!

 各々、手にした道具を振りかぶり、猛然と迫り来る変態の群れ。

 ええい、一人でも気色悪いというのに!


「うニャ! ニャふ! んニャぉう!」


 俺は回避に専念。

 必死なのはダメージを食らうとかそんな理由ではなく、単純にこんなものから攻撃を受けるのが本当に癪だからである。


 こうして俺が手一杯となっているなか、変態の本体は両の拳をぐっと顎に押し当てての構え。

 ボクシングのピーカブー(いないいないばぁ)スタイルか?

 と思いきや――


「きゅるるんッ!」


 きゅるるん、じゃねえよボケが。

 なんだそのはにかみ笑顔。

 そういうのはメイド喫茶にいる従業員が謎の可愛らしさをアピールするためにやることであって、決して地獄が具現化したお前がやるべきことではない。

 つかなんでそんなサブカル知ってんだ。


「きゅるるん、きゅるるん、きゅるるんるん――カッ!」


 攻撃を躱しつつ心の中で突っ込んでいたところ、リクレイドはその拳にギュルルンッと変態力を集束させて光を宿し、体勢を屈めるとダッシュで瞬間的に距離を詰めてきた。

 やっぱりボクシングじゃねえか!


「ご主人様ッ! 今日も一日ッ! お疲れさまでしたッ! まずはお食事をどうぞッ!」


 言葉と共に轟と放たれる拳撃。

 こいつは食らうと普通にマズそうで、分体からの攻撃を受けることも厭わず優先して避ける。避ける。避け――


「ご主人様ッ! あーんしてくださいッ!」


 なにを食わせるつもりだよてめえは!

 それ握り拳ぶん回して言う台詞じゃねえぞ!


 ええい、こっちは八対一で大忙しだってのに、リクレイドの野郎はその姿から発言から、なにもかもがいちいち俺の集中を阻害する。

 だがこいつに――こんな奴に翻弄される俺ではない!

 と思ったらリクレイドの短いスカートがひらっ。


「ぐニャぁっ、目が、目がぁ……ッ!」


 目にしてしまった、目にしてはならぬものを!

 とんでもない目潰し攻撃、物質的なダメージはないが精神がゴリッと逝く。

 反射的に――どうしようもなく反射的に目を逸らす。

 だって、だって野郎、女性用の下着で、たくましいもっこりで。

 ああ、なんとおぞましき邪淫であることか。

 さすが地獄の顕現、衆合地獄は奴の股間にあった。

 咎人は死後すべて奴の股間に落ちるのだ。


『ご主人様ッ! お飲み物はいかがですかッ!』『ご主人様ッ! お砂糖は何杯入れますかッ!』『ご主人様ッ! ミルクは入れますかッ!』『ご主人様ッ! 愛情はどれだけ入れますかッ!』『ご主人様ッ! まぜまぜいたしますねッ!』『ご主人様ッ! ふーふー冷ましてさしあげますねッ!』『ご主人様ッ! おかわりをどうぞッ!』


 決定的な隙を見せた俺を、分体たちが寄って集ってボコボコに。

 さらに本体ともなれば。


「ご主人様ッ! おまじないをかけてさしあげますねッ!」


 構え、溜め、そして――放つ!


「おいしくなぁ~れッ! フンガァッ!」


 それは振り上げられる拳。

 天への反逆。


「んニャおう!?」


 リクレイド渾身のアッパーは俺の腹を打ち、高々と空へと打ち上げるばかりか、その余波で周りにいた分体をまとめて消滅させ、転がっていたアイルとクーニャを木の葉のように吹っ飛ばした。

 これはさすがにダメージがある。

 が、これでリクレイドの奴から距離を――


「ニャ!? いねえニャ!?」


 身を捻って地上を見るが、そこにリクレイドの姿がない!


「どこに――」


「ご主人様ッ! 私はここでございますッ!」


 背後!?

 こいつ、跳躍して――追撃か!


「ご主人様ッ! お食事はいかがでしたかッ!? このあとはお風呂になさいますかッ!? それとも――()()()ッ!」


「――ッ!?」


 回避行動を起こそうとした意識と、ツッコミをしようとした意識がぶつかり合って一瞬の行動不能。

 そんな俺をリクレイドががっしりと抱きしめ体勢を変える。

 このままでは二人一緒に頭からの落下――。

 飯綱落としか!?

 あるいはペガサスなんとか!


「猫を舐めるニャァァァッ!」


 バカめ、これは猫にかける技ではない!

 侮ってくれるな、猫の空中機動力を!


 俺は気色悪さを無視して高速でもぞもぞ。

 手の中、あるいはスプリングに揉まれた猫じゃらしのように拘束からにょろんと逃れるとリクレイドを蹴っ飛ばして距離をとり、そのまま地面に着地する。


「ニャ、ニャふー、ニャうー……」


 くそっ、ややダメージを受けた。

 特に精神には甚大なダメージを受けた。

 だというのに――


「つまり……どういうことだってばニャ?」


 ええい、ダメだ、まだ俺は混乱している。

 落ち着け俺。

 つまりリクレイドはシルキーであるネーネと合体したことで、メイドっぽいおもてなしで攻撃してくるという……って理解しようとしてもわけわからんわこんなん!


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― 新着の感想 ―
[良い点] これはキツイ……w とんなに高尚な夢とか思想とか理想があってもその戦い方で全て台無しだよ
[一言] この変態、これまでで最凶の強敵だろ‥
[良い点] 私は一体何を読まされてるんだ、という困惑と やっぱりこのイカれ具合が作者さんの味だよな、という安心感で情緒がぐちゃぐちゃになる。 [一言] 大変な変態。 セクロスくんが見たらまた悪夢に囚わ…
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