第46話 騎士に宿る新たな力(強制)
ウンコの化身は盛大に爆散してその短い人生に幕を下ろした。
悪名轟くスライム・スレイヤー(元)によるスライムスレイ。今日の入園客は歴史的な瞬間を目の当たりにすることにもなったわけで、たぶん話題性はあると思うのでお土産話には充分だろう。
これであとは諸悪の根源たる邪妖精たちをどうするか。
いくらなんでも用意した二枚のカードが相殺し合うなんて展開は予想できなかったらしく――
「あっちゃー、どうするよ?」
「これはさすがに予想外だよねー」
「そうだよ! こんなの予想できるか! いい加減にしろ!」
優勢から一転、旗色が悪くなった状況に焦りを見せ始めていた。
『ふっふっふ、策士策に溺れるとはこういうことを言うのでしょうね! きっと以前の主人であれば陰惨かつ面白みのない決着であったのでしょうがシセリアは……ではなく、私はひと味違いますよ!』
「そろそろ私の声真似やめてくれません……?」
邪妖精とは逆に、上機嫌になったのはスプリガン。
シセリアの呟きは無視だ。
『さあ忌まわしき過去の亡霊たち、滅ぶ時が来ましたよ!』
宿願を果たすべくスプリガンは再び行動を起す。
ごばーっと黒い靄を放出させると操り、あたふたする邪妖精たちを捕らえた。
「ぬあー! 舐めるなよ、このポンコツめ!」
「ンキィー、このくらいぃー!」
「こなくそー!」
黒い靄による攻撃(?)を受けた邪妖精たちは口々にスプリガンを罵りながら苦しむ。
が、効いてはいるものの決定的ではないようで、ギリギリのところで抵抗、なんとか耐え忍んでいた。
『ええい、しぶとく生き延びてきただけあって往生際が悪いですね!』
「ふん! ボクらは強かったから生き残ったんだ!」
「お前こそ、今のオレたちとどっこいなんてずいぶん弱くなってるみたいじゃないか!」
「へへーん、ワタシたちをどうにかする力なんて、ホントはないんじゃないのー?」
苦しみつつも、邪妖精たちはスプリガンを挑発。
どうやらスプリガンと邪妖精たちは拮抗した綱引きのようなことになっているらしく、膠着状態になってしまった。
『貴方たちはここで滅ぼします! なんとしても、たとえこの身が滅びようとも……!』
「えっ、ホントですか!? やったー! これで世の中が少しは良くなりますね! 頑張れ! 頑張れぇー!」
面倒な鎧と悪い妖精、いっぺんに消えるならこんなめでたいことはないとシセリアは大喜びである。
しかしスプリガンの決死の覚悟も、のんきなシセリア応援も虚しく均衡は崩れず膠着したまま。
こうなると邪妖精たちを逃さぬよう捕らえるために力を使い続けているスプリガンは次第に不利になっていく。
「ヘイヘイ、ポンコツ! これで限界かー?」
「やーいやーい、口だけでやんの!」
『ぐぬぬ……! 本当にしぶとい……! ですがのこのこと姿を現したこの機会を逃すわけには……! こうなれば――やむを得ません! 滅せずともせめてこの身に封印を! 鎧を通して私に封じてやりますよ!』
「もう一頑張りぃ――って、おや……? なにやら話の雲行きが……?」
無邪気に応援をしていたシセリアだったが、スプリガンの方針転換を聞いて嫌な予感を覚えたのか戸惑い、そして焦りだす。
「あ、あの! ちょっと!? その『私』ってまさか私のことじゃないですよね!?」
『これは私の精神性を反映した封印となります! 邪悪な行いを律することができるものの、貴方たちに多少の自由は与えることになるでしょう! しかし、野放しの状態よりはずっとマシです!』
ふむ、つまりは調伏のようなものか?
調伏とは自身を制し、悪を教化せしめ成道――悟りへと至る障害を取り除くことを意味するが、この場合はまた別の意味合い、祈祷とかで悪や魔を下すほう。
邪妖精をシセリアの使い魔にするような感じか。
『さあ、悪しき妖精たちよ! 私の軍門に降りなさい!』
「いぃーやぁーっ! 悪い妖精さんたち、頑張ってぇ~!」
「ちっくしょー、ここでシセリアだしてくるとかズルいだろう!」
「くっ、なんだか惹かれる自分がいる……!」
「おーい、力をゆるめるなよー!」
入り乱れる思惑。
さらにここでスプリガンは邪妖精たちを揺さぶる一手。
『さあ愚かな妖精たちよ! 見なさい、そして知りなさい! この私――シセリア・パティスリーの偉大さを!』
邪妖精たちを捕らえていた黒い靄が一部離れ、空に薄く平べったく広がると、そこに映像が現れる。
それは躍動感いっぱいで映されるシセリアの日々の姿。
料理やお菓子を頬張っていたり、エレザにしごかれていたり、歌と踊りのお姉さんをやっていたり、そしてなんか騒動の中で泣いたり叫んだりと四苦八苦して、それでも最後には讃えられて困惑する、そんなシセリア等身大の記録であった。
こうしてあらためて見ると、シセリアってそこそこ波瀾万丈な人生を送ってるんだな……。
「さすがだ、愉快なことに好かれてる!」
「なんてこった! わかっちゃいたけど逸材だ!」
「ちょっとぉー!? ちょっとぉぉぉ!? なに勝手に人の生活ぶりを公開しちゃってるんです!? 訴えますよ!?」
シセリア活劇に強い関心を示す邪妖精たち。
スプリガンの思惑通りだろう。
「なあなあ、ひっさしぶりに派手にやれたし、もういいんじゃね? 失敗したけど」
「今回は油断してるとこ突けたけど、もう警戒されるよなー」
「次の機会はあるのかないのか……」
「シセリアって美味しいお菓子をもらってるっぽいしさー、楽しみはあると思うぜ」
邪妖精たちの意見が急速に調伏OKに傾き始め、これはマズいと焦ったのだろう、シセリアは大声で訴える。
「あ、あの映ってる私は偽物ですよ! 私はもっとちゃんとしっかりした騎士ですから! それにお菓子なんて貰ってないです! 日々、食べる物にも困ってるひもじい生活です!」
「ニャ……?」
焦っての発言なのだろうが、それはさすがに心外である。
酒を除けば、色々と恩のあるシルよりもお菓子やら料理やらを与えているというのに。
あとイキりエルフに与えている鳥肉も話は別とする。
「じゃあこれからは自分でなんとかしてニャ」
「うわぁ嘘! 嘘です! 美味しい料理とお菓子を毎日いっぱいめぐんでもらってます! 毎日幸せです! ありがとうございます!」
「おー、そんなにか!」
「これもうあきらめてもいいんじゃないー?」
「お菓子たべてみたい!」
「あ、しまった!」
余計なことを言ったシセリアがさらに余計なことを言って、これが拮抗を崩す決定打となった。
つい先ほどまでの抵抗などなかったかのように、邪妖精たちは『わーい!』と黒い靄に引っぱられるまま――いや、むしろ自分たちのほうからシセリアinスプリガンへと向かっていく。
「ああぁ! 駄目駄目、嫌です、来ないでくださいぃぃぃ!」
口では拒絶しつつもさあ来いとばかりに腕を広げるシセリア。
そしてすべてが集い、放たれる黒き閃光。
瞬間、音色のような美しき破砕音が響き渡り、そして人々は見た。
禍々しき全身鎧であったはずが、今は妖しい雰囲気はあれど美しい鎧――黒のドレスアーマーを纏うシセリアの姿を。
おお、と上がる感嘆の声。
そして――
「あーん! なんてこと! どうしてこんなことに! 助けて、ニャミーちゃん!」
シセリアは大いに嘆いた。
こうして――。
古き時代、世を引っかき回した邪なる妖精たちは偉大なる騎士シセリアの軍門に降り、これによりシセリアは新たなる変身(?)――妖精騎士フォームを獲得しましたとさ。
めでたしめでたし。
病院いってレントゲンとってもらったりと調べてもらいましたが腰痛の原因は謎。
まあヤバい症状ではないようで次第に収まってきてはいますし、イスにも座れるようになったので……。
このまま収まるといいなぁ。
ご心配をおかけしました。




