第24話 わんわん4WD
どうやら簡易的な魔界門は実現可能らしく、ならばと俺はさらに性能を向上させた『どこでも的なドア』は作れないだろうかと猫たちに尋ねてみた。
結果、猫たちはにゃーごにゃーごと騒ぎだし、俺にはそれが『できるかボケー!』『このアホー!』『無茶苦茶言ってんじゃねえぞコラー!』と罵詈雑言をぶつけてきているように聞こえた。
猫と付き合いが長くなると、その鳴き声と行動がはからずともデータとして蓄積されていき、なんとなくだがなにを伝えようとしているのかわかるようになる。
とはいえ、さすがに複雑な内容となると無理で、とうていクーニャには及ばないが、たとえばちょっとお腹が空いているときの、やけに可愛らしい『みゃーん』という鳴き声は『お腹すいたにゃん』と翻訳され、なんらかの事情により半日ほど餌が与えられなかった状況における『うにゃーんっ!』というけたたましい鳴き声は『てめぇ早く餌よこせやコラー!』と言っているように聞こえる、という程度だ。
「ふむ、クーニャ、猫たちはなんだって?」
「え、えっと……できるかボケ、このアホ、無茶苦茶言うなこの変人、森へ帰れ、でもおやつはよこせ、など悪口を……」
「ふっ、やはりな……」
「なんで猫に罵られて喜んどるんじゃお主……?」
べつに罵られて喜んでいるわけでないが……爺さんにはわからんか。
ひとまず機嫌を損ねてしまった猫たちにはち○~るをふるまい、気分を落ち着けてもらう。
フシャーッといきり立った猫も、差し出してみると怒りはさておきぺろぺろせずにはいられなくなるち○~るの魔力のすさまじさよ。
「すまんな、無茶だとは思ったが、猫だし、もしかしたらと思ったんだ。まあ無理ということはわかったので、実現可能な門をお願いしたい。二つで一対の門を、九つだ」
『……!?』
ぺろぺろしていた猫たちが『にゃにぃっ!?』と顔を上げてこっちを見る。
九対の門というのは予想外だったようだ。
「ケイン、そんなに門がいるのか?」
「俺たちの面倒を解消するには一対でいいんだけど、用意可能ならあと八つ、聖地と各国を結ぶ門を用意してもらった方がいいかなと」
「なるほどのう、聖地と各国をか。そりゃ用意できればいいんじゃろうが……」
猫たちの反応は『えー、めんどくさー』といった感じだ。
だが『どこでも的なドア』と違い、やってやれないことはないという反応でもある。
「なんとか、用意してもらえないか?」
お願いすると、シャカがにゃごにゃご唸り始め、するとニャンゴリアーズは嫌々ながらといった感じで反応する。
「その数となると、自分たちだけでは大変、よそから応援を呼ぶことになると話し合っていますね。あと相応の報酬が必要だと」
「どんな報酬だ?」
「美味しいものですね。あと『猫誘い』の枝や葉がほしいと」
「美味しいものは大丈夫だが……『猫誘い』って?」
「前にケイン様が与えていたものですが?」
「ん? ああ、あれか」
たぶんマタタビだ。
つかそれしか思い当たらない。
つまり猫たちは美味しい餌とマタタビで仕事を受けてくれるわけで……受ける利に対する報酬の安さ、その落差がすさまじい。
猫たちとしてはそれでいいのかもしれないが、さすがに不平等なのでこれからおやつをグレードアップしてやることにしよう。
△◆▽
にゃごにゃご会議を終えたあと、ニャンゴリアーズは応援を集めるため転移門でどこかへ旅立っていき、シャカは内的世界へと帰っていった。
ひとまず猫たちに簡易魔界門の依頼はできたものの、すべてを任せきりというわけにはいかず、俺の方は簡易魔界門にするための『門』を用意する手筈。
この『門』はなにも都市の大門みたいな立派なものである必要はなく、むしろ小さい方が苦労は少ないので、簡易魔界門とするには適しているようである。
そこで俺はドルコに九対とするための扉十八枚の製作を依頼。
現在、このあたりはドワーフ大工だらけなのですぐにでも用意できるそうだが、いったいなにに使うのか知ったドルコはえらいこっちゃとちょっとビビっていた。
こうしてやれることをやり終わったところで、遊び放題だったおチビたちが遣り遂げた顔で戻ってくる。
セドリックに会いにいっていたメリアは、スマホで連絡を取り合って合流していたようでみんな一緒の帰還だ。
ひとまずおやつを与えたのだが――
「ケインさん、猫ちゃんたちはどこ?」
すぐにメリアが、いつものくつろぎスペースにニャンゴリアーズが居ないことに気づいて尋ねてくる。
そこで俺はおチビたちが居ない間ににゃごにゃご会議があったことを説明し、シルがその様子を撮した写真を見せてやる。
そしたらメリアが拗ねた。
「もー、どうして連絡してくれなかったの!」
ある程度は予想していたが、やっぱりメリアが騒ぐか。
写真を撮りたかったのとはべつに、自分の目で見たかったらしい。
「教えてくれたら、フリードに乗って駆けつけたのにー!」
無茶なことを言っているが……いや、フリードなら可能なのか?
ともかくメリアは大変悔しがっていたので、次にそんな機会があったらちゃんと連絡することを約束し、すぐに駆けつけられる方法を提案して必要な道具も用意してやることになった。
それはフリードに取りつけるハーネスとリード、そしてスケートボードである。
犬ぞりとモーターボートで引っぱってもらうウェイクボードを足して割ったようなことをやらせてみようと考えたのだ。
「ふわー! フリード、速いわ、すごいわ!」
「ワォーン!」
まずは試しと、宿屋前の通りでチャレンジさせてみたところ、これが思いのほかうまくいった。
さすがはフリード、レースで優勝経験もある4WDだ。
うひょひょーと軽快に駆けるフリードに引っぱられ、スケートボードに乗ったメリアがズシャシャーっとけっこうな速度で爆走。
メリアは楽しそうだが、それ以上にフリードが楽しそう。
大喜びでご主人を引っ張り回している。
で、そんな楽しそうな様子を目にすれば、試してみたくなっちゃうのがほかのおチビたちである。
「せんせー! 私もやりたい! やりたい!」
「ケインさん、わたしもやってみたいです!」
「……ん!」
さっそく声を上げるノラとディア、そしてラウくん。
メリアと交代でやるのかと思われたが、足元にはキリッとした表情で尻尾を振るテペとペルがおり、ペロはラウくんをがっちり確保していた。
まあペロは問題ないのだろうが……テペとペルはどうなんだ?
いや、ペロの弟妹なんだし、これくらいなら大丈夫か。
どうも収拾がつかないようなので、ひとまず道具を用意して試すだけ試してみることにする。
結果――
「うぉんおん!」
「あおーん!」
「あははは! すごいすごい!」
「ペルちゃん! もうちょっとゆっくりー!」
テペとペルはその小さな体に似合わず、まったく問題なくパワフルにノラとディアを引っぱる。
いくらちっこくとも、そこはさすが魔界造モーターを内蔵したミニな四駆と言うべきか、フリードに負けず劣らずのパワーと速度でノラとディアを引っ張っている。
そして――
「ラウー、いくよー!」
「……ん!」
ペロの腰から伸びる縄を掴むのは、スケートボードに乗ったへっぴり腰のラウくん。
「はい待ったー! そこ待ったー!」
もうこの後どんな惨劇が起きるのかわかった俺は、まず早足から始めるようにと口を酸っぱくしてペロに言い聞かせた。
シセリアならいざしらず、ラウくんに西部劇的市中引き回しの刑はいくらなんでも酷な話なのである。




