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パトリシア王女の退屈な日々

王女パトリシアは、いつも退屈していた。


その国唯一の王女として、毎日それなりに忙しい。

パトリシアには兄が二人いて、共に優秀な見目麗しい王子で、パトリシアをデロデロに甘やかしている。

自由はないけれど、今の生活には満足していた。

だけど、その生活はパトリシアにとって、とても退屈だった。


多少、わがままであることは自分でも理解している。


でもそのわがままで側使えが辞めても、また新しい側仕えがくる。みんなが決まって同じことを言うから、誰が誰でも何も変わらない。

パトリシアが何をしても、みんな同じことを言って同じことをする。

みんな同じことをするなら、誰でも同じではないか。

そんな風に思っていた。




そんなパトリシアの前に、突然やってきたのが、パトリシアの父の弟の子供である、ルークであった。



ルークはとんでもなく可愛い子供だった。

金髪で青い瞳が印象的な、天使のような子だった。

初めてルークを見たパトリシアは感激して、ルークに駆け寄った。散々可愛がった後でパトリシアは笑いかけた。

「これから私がお姉さんになってあげる。一緒に遊びましょう」


その時のルーク少年はとても迷惑そうな顔に、礼儀ばかりの笑顔を貼り付けた。

「どうもありがとうございます」

その顔を見れば心の中で面倒に思っていることが、丸わかりだった。

パトリシアは思った。


なんて冷めた子供なんだろう。


それがルークとパトリシアの出会いだった。




第一印象通り、ルークは冷めた子供だった。なんでも完璧にできることが、逆に良くなかったのかもしれない。

彼が必死になることも、思い切り喜んだり、悲しむこともなかった。

むしろ年上の自分達の顔色を見て、いつも一番いい返事を返す。そつがなさすぎてこわい。


なんだか、人形みたい。

パトリシアはそう思った。


パトリシアとルークは従兄弟だから、それからもよく顔を合わせた。週に何回かは兄とルークとお茶会をしたが、パトリシアはもっぱら兄と話すか、たまにルークが兄と話すのを聞いているだけだった。


そもそもルークも兄もあまり話さないから、お茶会はほとんどの時間パトリシアが話しているだけだったのだが。




だけど、突然変化が起きた。


それはルークが魔法学校に入学した時だった。


子供の頃にルークに人の倍以上の魔力があると知って、ルークは魔法学校を卒業したら兄である皇太子の専属魔術師になることが決まっていた。

学校は行くけれど、行かなくてもすでに十分に魔術師としてやっていける力はあったのだ。


それは入学してすぐのことだった。

「学校はどうだ?」

皇太子がまるで親のようなことを言った。


ルークはニヤリと笑って、答えた。

「まあまあ、思っていたより楽しいかな」

その笑顔を見て、兄とパトリシアは衝撃を受けた。



今までのルークは子供らしく笑うことなんてなかった。

入学前のルークならハンコで押したような笑顔を貼り付けて「楽しく過ごしております」と答えるだろう。


それが、どうした。

今の笑顔は無邪気な少年の笑顔そのものだった。

よく見れば、その目はキラキラと輝いていて、なんだか生気のようなものが感じられた。


ルークってこんなだっけ?

もっと人形みたいじゃなかった?

そう思ったのはパトリシアだけでなくて、兄も同様だったはずだ。その証拠に3人で顔を見合わせた。

皆、同じことを考えていた。


ルークに何があったのか、と。


「た、楽しいって、どこが?」

パトリシアは思わずルークに尋ねた。


ルークはうーんと考え込んだ。答えを迷うようなルークに2番目の兄が口を挟んだ。

「良い友人でもできたか?」

それにルークは反応した。

「……面白い人がいるんですよ」

「どんな風に面白いんだ?」

「たとえば……僕に本気で勝とうと戦いを挑んできたり」

それを聞いてまた、3人は顔を見合わせた。


また3人とも同じことを考えていた。

体は子供、中身は大人の優秀なルークに本気で勝とうとするなんて、正気か?と。


皇太子が信じられないという顔をした。

「……お前に?」

「そうですね」

「無謀なやつだな」

「でも相手は真剣ですよ」

ルークの実力をよく知っている皇太子は呆れて、それにルークは笑顔で答える。


「それから?」

「よく文句を言ってくるので、言い返します」

「あなたが?」

ルークの返事といえば、大人ぶった定型文ばかりだったのに、言い返す?

大体この子が3つ以上の単語を話すことなんてあるの?

パトリシアは頭の中で混乱する。


「当然僕が勝ちますけどね。そうすると悔しそうな顔をして…それがまた面白いんです」

話している内容は可愛らしさのかけらもないのに、その笑顔はとても可愛らしかった。


年相応に見えるルークの笑顔を、パトリシアはその時初めて見た。


その日のお茶会はルークの友人の話で盛り上がった。

こんなに楽しかったお茶会は、初めてだった。




それからはお茶会の大半の時間が、ルークの友人の話で過ぎていった。

いつもつまらない顔をしていたルークが、初めて楽しそうにしたから、つい兄もパトリシアもその友人の話題を振ってしまったのはある。

実際にルークから聞く友人の話が本当に面白かった、と言うのもある。


その話になるとルークの目が輝いて、表情がイキイキする。

その顔を見るだけでルークがどれだけその友人を大事にしているかわかった。


その子がルークを変えたことは、間違いようがない。


そしていつの間にか、パトリシアも兄二人もそのまだ見ぬ『ルークの親友』に心を奪われていた。




だけど、二人のケンカ話しか聞いていないから、兄二人もパトリシアもその相手が男だと思い込んでいた。

まさか自分の従兄弟が女性相手に毎日ケンカをしているとは思わなかったのだ。


その友人が女性だとわかったのは、もうそろそろ一年生が終わるという時だった。



1年間の学生生活を振り返って皇太子が満足そうに笑った。

「ルークにもいい友人ができて良かったな」

皇太子は常々、一人だけ優秀すぎるルークが学校で孤立するのではないか、と親のような心配をしていたから、友人ができて素直に安心していた。


2番目の兄がルークを見た。

「そうだ。今度、王宮にその友人を連れてくるといい」

その提案に皇太子が飛び乗った。

「一度その友人に会ってみたいな」

そこには従兄弟の親友に会いたいという興味と、未来のために一人でも多くの優秀な魔術師のタマゴを確保したい、という皇太子の狙いがあった。


パトリシアは冷めた目でそれをみた。

男4人集まったら、私の出る幕はない。きっとつまらない会になる。

そう考えてため息をついた。



だけど、ルークは眉を寄せて考え込んだ。

それで3人は気がついた。


ルークははっきりと、その友人を連れてくることを嫌がっている。

……なぜ。


そこで2番目の兄が口を挟んだ。

「王宮で会うのが嫌なら……みんなで乗馬でもするか。それとも剣術がいいか?その子はどっちが得意だ?」

男性ならそういう遊びが多い。だけど、それにルークははっきりと苦い顔をした。


「……いや、乗馬も剣術もできません」

兄二人は露骨に驚いた顔をした。乗馬も剣術も魔法学校でも最低限教えるものだったから。

「そうなのか?本当に?」

「はい。女性なので」


淡々と言われた言葉に、3人は数秒間言葉を失った。

「……まさか、その子は女性なのか?」

沈黙を破ったのは皇太子だった。

あんな喧嘩ばかりして、相手が……女性?

そんな戸惑いをよそにルークはこともなげに頷いた。

「はい」

皇太子がこめかみに指を当てて苦い顔をする。




だけどそこでパトリシアの中でピンときた。


何かはわからないが、パトリシアの直感が反応したのだ。


こんなにルークを変えた友人。

しかも女子学生。

まだよくわからないけれど……これは、とんでもなく面白いのでは?




思わずニンマリとした笑顔になった。

「ねえ、女の子なら尚更連れてきてよ。私の話し相手になってほしいの」

立場や自分の性格が影響して、同性の友人がいない事をパトリシアはよく理解していた。

話し相手になる友人が欲しいと思っていたのは事実だった。


だけどルークは思い切り嫌な顔をした。

「王女は意地悪なので、断ります」

「意地悪ってなによ」

パトリシアは即座に言い返したけれど、ルークはため息をついた。

「一度連れてきなさいよ」

「……考えておきます」


ルークの絶対に連れてきたくないという気持ちが溢れた返事に、パトリシアはムッとした。

だけどその日は何回頼んでもルークは頷いてくれなかった。



だめと言われるとやってしまうのが人間で、会うなと言われると猛烈に会いたくなる。

俄然パトリシアのやる気に火がついた。

それから何かにつけて彼女を連れてきて欲しいというパトリシアと頑として断るルークの戦いは続いた。



その子の名前がエマ・バートンだと知るまでに3ヶ月かかり、その頃にはパトリシアは見たことないその子のことばかり考えて、まるで彼女に恋をしているような気になっていた。


ついにエマの名前を知った日、パトリシアは感激した。

「彼女が会いたくても会えない恋人みたいな気分だわ」

思わずうっとりと呟くと、ルークはものすごく、嫌な顔をした。

「なによ」

「……なんでもないです」




だけどエマに興味を持ったのはパトリシアだけではなかった。

皇太子もエマに興味を持っていたのだ。


確か6年生の頃だったと思う。

皇太子が王宮での王族だけの昼のお茶会にエマを誘ったのだ。


兄は自分の言葉が命令になることを理解しているから、気軽に人を誘わない。ルークがいつもエマの話をするから、皇太子もエマに会いたかったのだろう。


それを聞いたルークはとても、とても苦い顔をした。

でもすぐに社交用とわかる笑顔を浮かべた。16歳のルークは、もう十分に社交術を身につけていたから、簡単に表情から感情を悟らせない。

「エマはただの学生ですから王宮の会には呼べません」

「そうかな?気軽な会だよ。ルークがお世話になっているなら、私も一度会いたいな」

朗らかに笑う皇太子に、ルークは笑顔を返す。

だけど、無駄に付き合いの長いパトリシアには、ルークのその笑顔が、本当はかなり嫌がっている時の顔だとわかった。



パトリシアはまたしてもピンときた。



皇太子はとても見た目がいい。

見た目だけならルークも負けてはいないが、なんと言っても皇太子は年上だけあって落ち着きがあった。ルークと比べたら、やっぱり大人の男の魅力がある。


エマくらいの年齢の女子なら、落ち着いた男性の姿はとても素敵に見えるのではないだろうか。


少し年上の、素敵な王子様。

自分よりも魅力的な皇太子にエマを会わせたくない。

……つまり、やきもち?




パトリシアはルークと皇太子のやりとりを見つめた。


「一度聞いてみてよ」

「聞くまでもないです」

「そうかダメか…残念だな」

ルークの顔が少し安心したように見えた。

パトリシアはそのやりとりで理解した。



ルークはエマが好き……どちらかと言うと、大好きなのだ。

自分より年上の、見た目の良い皇太子に会わせたくないと思うほどに。




だけど、それからルークの恋に進展があった様には見えなかった。

パトリシアは変わらずルークと兄とお茶会を続けた。

話題の中心はいつだってエマだった。

それは2番目の兄が留学して、お茶会のメンバーが3人になってからも続いた。


パトリシアは何回もエマに会いたいといい、ルークは学生だからと断った。

皇太子は何かを悟ったのか、エマを誘うことは二度となかった。



だけど、ついに、パトリシアの頭にいいアイデアが浮かんだ。



それはいつものように3人でお茶会をしている時だった。

卒業式を明日に控えたルークは最近そわそわしていて、明らかに普通ではなかった。


「エマはどこに勤めるんだ?」

皇太子がルークに尋ねると、ルークは視線を俯かせた。

「魔術団に勤めるようです」

「そうか。寂しくなるな」


このお茶会が続いた理由はエマだった。

エマがいなくなったら、きっと会話がなくなって、お茶会もつまらなくなるとパトリシアは憂鬱になった。


どうしたら、エマは私たちのそばにいてくれるかしら。


考えながら、目の前の焼き菓子を手に取った。

その時、頭の中に良いアイデアが浮かんだ。


そうよ。そばにいてくれれば良いんだわ。


パトリシアは立ち上がるとルークのそばに歩いて行った。

ちょうど、皇太子が人に呼ばれて席を外していた。



「ねえ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」

「内容によります」

「あなたに取ってはプラスよ。絶対に」


絶対、に力を込めてパトリシアは言った。

ルークは眉を寄せてこっちを見る。

パトリシアは笑った。


「あのね……私の専属魔術師がずっと不在なの」

「いないのではなく、辞めさせた、の間違いですよ」

「失礼ね。勝手に辞めたのよ」

パトリシアは言い返しながらルークを見つめる。


「私、そろそろ専属魔術師が欲しいわ」

「そうですか。……!」

気のない返事をした後で、ルークはがばりと顔を上げた。

それを見てパトリシアはにこりと笑う。


「私、専属魔術師が欲しいの。そばで働いてくれる優秀な魔術師。できれば年齢も近い、女性の魔術師がいいわ」


ルークはそれだけで内容を理解したのだろう。

冷静に見える顔の裏で、頭を全速で動かしているのがわかった。


「そうなったら、毎日みんなでこうしてお茶が飲めるのだけれど…」


たとえ見た目の良い兄が近くにいても、会えなくなることに比べたら、とても魅力的な申し出だと思う。



次に見たルークの顔は、迷いがなかった。




それを見たパトリシアは、これから楽しくなりそうだと、思わずニンマリと笑った。




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