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彼女の気持ち

好きか嫌いか聞かれたら、絶対に嫌いだと答える。


彼について聞かれたら、エマは必ずそう言う。むしろそれ以外の選択肢がない。

今も昔も自信を持って、即座にそう答えている。



この国では魔力を持つ人間が存在する。魔力を持つ人間は全体の3割ほどで、非常に貴重とされていた。魔力を持つものは子供の頃から国の首都に集められ、魔法学校に通い競い合うようにして魔力を磨く。


その魔法学校でエマは彼−−ルーク・ヘイルズと出会った。


エマと彼との付き合いは長い。

10歳で魔術学校に入ってから、18歳で魔術学校を卒業して、もうすぐ20歳になる今に至るまでの付き合いだからもうすぐ10年になる。

その間、エマと彼はほとんどの時間を一緒に過ごしている。

嫌いと言っているのに学校のクラスは同じになり、エマが何か新しいことをしようとすると、目の前にはいつも彼がいた。まるで先回りするかのように。

その度にエマはルークに文句を言って、そしておきまりのくだらない言い争いがはじまるのだ。


ルークと初めて会った時のことを、エマは絶対に忘れない自信がある。



エマは生まれこそ下級貴族だけれど、持って生まれた魔力は人の倍以上強かった。そのためまわりから期待され、褒められて……そのせいで、自分はこの学校で一番だろうと信じて疑っていなかった。子供ながらにちょっと調子にのっている嫌なやつになりかけていたと思う。

 


だから入学した翌日に、エマはとても驚くことになる。


学校に入学すると、入学試験の結果が発表される。

学校の講堂に張り出されるそれを自信満々で見に行ったエマは、そこで雷に撃たれたような衝撃を受けた。


自分が二位で、一位は別の人だった。

自分の上に燦然と輝く名前は、ルーク・ヘイルズ。


その名前を見て、エマはしばらく自失していた。

だけど、すぐ近くで聞こえた声に我に帰った。


「さすがヘイルズ家の息子さんよね」

「やっぱり一番だったわ」

見たこともないそのルークを誉めそやす女子生徒たちを見ると、彼女たちの目が一人の人間を見ていることに気が付く。エマは彼女たちの視線を追って、一人の男子生徒に気がついた。


金髪碧眼の本から抜け出たような見目麗しい生徒が、そのルークであった。


エマが彼を見つめているのに気が付くこともなく、ルークは興味なさそうにその成績表を見ていた。

「ルーク、さすがだな」

仲の良さそうな男子生徒に声をかけられたルークは肩をすくめた。聞き飽きたという顔をしていた。

「そうかな。別に大したことないよ」


それを見てエマはムッとした。

大したことないってなんだ。私だってこの試験はそれなりに難しくて悩んだのだ。まあ、もちろん緊張していたのもある。この私だってそうなのだから、それはみんな同じはずだ。

この人だってきっとこんなことを言っているけど、絶対に試験中は苦労したに違いない。

イライラしながら彼を睨みつけていると、視線を感じたのか彼がふと私のいる方へ顔を向けた。


その澄んだ空みたいな綺麗な青い瞳を見た時、エマは胸がドクンと大きく弾んだのがわかった。


「君、誰?」


眉をしかめてこっちを見るルークに、エマは反応が遅れた。

「同級生?」

少し首を傾げてこっちを見る彼は、エマとちょうど同じくらいの身長だった。


エマは慌てて口を開いた。そのせいで少し声が掠れてしまった。

「わ、私…エマ・バートン」

「エマ・バートン?」

だけど目の前の成績一番は、その名前が自分の名前のすぐ下に書いてあったものだと瞬時に気がついたらしい。ああ、と全てを理解したような顔をした。

それを見て思いきり頭に血が上ったエマは、ルークに向かって口を開いた。


「あのね。今回はたまたまあなたが勝ったけれど、次は絶対に私が勝つから」

「………え?」

「1回1番をとったからって、いい気になるんじゃないわよ。見てなさいよ」

エマは彼の鼻先に向けて自分の人差し指を伸ばした。


「次は絶対に私が勝つからね!」


その時のルークはさっきまでのすましたおぼっちゃまという仮面が綺麗に剥がれて、呆気に取られた顔をしていて……

それを見てエマは少し気持ちがスッとしたのを覚えている。


だけど、エマの勝利宣言が現実になることはなかった。



入学試験はまぐれで負けることもあるだろうと自分を慰めて、その代わり人に隠れてたくさん勉強した。

だけど、ダメだった。

次も二位だった。

何度も頑張ったけれど、その後もエマは一位になることはなかった。


結局エマは長い学生生活で万年二位という不名誉な称号を手にした。


そしてついに彼女は卒業するまで一位になることはできなかった。




彼女を万年二位にさせたのは、やはり入学試験で一番だったルーク・ヘイルズだった。


ルークは公爵家の長男で生まれもよければ、見た目も良く、魔術だけでなくてスポーツも一番になり、その立ち居振る舞いは誰にでも親切で、いわゆる完璧な学生だった。

嫌味なくらい素晴らしい人間で、彼は教師からも同級生からも後輩からも好かれていた。


ただひとり。エマをのぞいては。


エマが彼に対して冷たい態度をとってしまうのは、成績でもなんでも彼に負けてしまうからではない。

あれほど人当たりのいいルークは、エマに対しては無礼で意地悪なことばかり言う、成績がいいことを鼻にかけた嫌なやつだった。


「エマ、君は今度の試験もまた僕に負けたね」

エマは悔しい顔に咄嗟に笑顔を貼り付けてルークを振り向く。

「あら、ルーク。幸運にもあなたはのまぐれが今も続いているみたいね」

「そう?いつになったらエマの本気が見られるのかな?待っているんだけど」

「…う、うるさいわね。次は見られるはずよ」

「そろそろ待ちくたびれて眠ってしまいそうだ」

「まだ本気を出すには早いだけよ」

「そう?いい加減本気にならないと君は学生の間ずっと僕に負け続けたことになるよ。この僕に」

「あなたこそそんなこと言ってるといつか痛い目にあうんだからね。みてなさいよ」

そんな二人のやり取りは周りから生温かい視線でみられているのだけれど、それに気がついていないのは二人だけだ。




そんなやりとりを何回も飽きずに繰り返し、結局エマは一度もルークに勝てないまま、魔法学校を卒業することになる。


そして魔法学校を卒業してもその腐れ縁は続くのだが、エマはまだその未来を知ることはなかった。



 


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