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初投稿ですよろしくお願いいたします
※2021年7日7日 上下逆になっているのを修正しました
「ロン・オーガスタス!私の愛しい人、メルエ・キャロルに対する数々の悪行、メルエが許しても王太子である私が許さない!ここにお前を断罪する!」
「ルイ様、私はいいの、オーガスタス様を責めないで!」
王侯貴族が通うウクラティス学園にて、生徒達の憩いの場となっている広場に、そんな声が響いた。
何がおこったのかと、生徒達の注目集まり、あっという間に人垣が生まれた。
その声の主が、バルトニア王国王太子、ルイス・ラトヴィッジ・レグルス・バルトニアだったので余計にだ。
「何の事か分りかねます」
そのルイス王太子に指差され、断罪すると宣言された俺は、苦笑を隠しながらそう答えた。
ルイス王太子は、白金の髪に淡い萌黄色の瞳を持つ美男子。メルエ嬢は桃色の髪に、緋色のクリクリとした瞳を持った美少女。
二人が寄り添って立つ様は大変絵になる光景なのたが、今日はそれが霞んで見えるのは、俺の気のせいだろうか?
ルイス王太子はメルエ嬢を腕に抱いたまま、俺の罪をつらつらと述べ始めた。
曰く、王太子である自分と、メルエ嬢との交流を妨害した。身分の上下の垣根を取り除く、という学園の指針を無視して、男爵令嬢のメルエに、伯爵令息のロンが無体を働いた。等々…。
「殆ど身に覚えがありません。殿下に近付くなと言ったのは、いくら無礼講でも、節度を越えていたからです」
しかも公にされていないが、ルイスには隣国カルルニア王国第一王女、ソフィー・ドロテア・リュネ・カルルニア殿下と言う、婚約者がいるのである。
何やってんだ、この馬鹿王子。
「本来なら、将来の私の妃に対する数々の悪行、国外追放に値する罪だが、私の学友を名乗る事を今後しない事、そしてメルエに二度と近付かない事で手打ちにしてやる!」
そうだね、うちは外交官を多く輩出してる家系だから、国外追放しても意味ないからね。
父は大臣も尻に敷く外政省次官、叔父は地獄の案内状と呼ばれる手帳を持つ外政官。ヒクわ。伯母はカルルニア貴族に嫁ぎ、両国の情報の繋ぎ役。
ついでに言うなら当家は、二代前の当主にカルルニア王女が降嫁し、王位継承権こそないものの、カルルア王族の血を引いているのだが、どう言うつもりでゴザイマショウ?
情報で国内外に、身分以上の影響力を持つ、我々に、どう言う心積もりだと。
俺が好きでもないのに、あんたの学友として側にいたのも、そんな血筋だったから、二人のパイプ役に丁度いいってことだったからだ。
視界の隅で、従兄のカラルが黒い笑みを浮かべている。
王太子よ、今すぐ発言を撤回するのだ。あいつは婚家を乗っ取った伯母を実母に、一族中でも評判の性悪な叔父を養父に持つ、性悪外政官の超サラブレッドだ。逃げろ、逃げるんだ。
俺の心配をよそに、ルイス王太子は満足気にメルエ嬢を抱き寄せた。メルエ嬢も安心した笑顔を恋人に向けている。お前さっき俺をかばってなかった?何この茶番?
帰っていいかなと遠い目をしていると、カツカツと響く靴音が、人垣を割って側にやって来た。
「話は聞かせていただきましたわ。王太子とあろう者が、何と愚かな行いをしているのでしょう。恥を知りなさい」
艶やかな金髪に美しい碧眼。しみ一つない白磁の柔肌。まだ少女らしさを残しつつ、豊満な胸の存在感と、優美な曲線を描く肢体。
とんでもない美女が登場した。
「えっと…。ドロシー・ブラウン嬢ですよね?カルルニアからの留学生の?」
「はい、オーガスタス伯爵令息ロン様。直接ご挨拶するのは初めてですわね。伯爵様方には、留学に際して大変お世話になりました。ロン様にも陰ながらご助力いただいた様で、謹んでお礼申し上げます」
「俺は大した事はしてないので。えっと、それよりも…」
何故部外者であるドロシーが?と、尋ねようとした所で、ルイス王太子が声を上げた。
「君は一体何者だ⁈今は部外者はご遠慮願おうか」
「部外者ではありませんわ。留学でお世話になった方の息子が辱められ、引いては祖国をも馬鹿にされたんですもの。黙っては居られません」
学園中の生徒が押しかけていのるかと、錯覚してしまう様なこの場で、ドロシー嬢は王太子に堂々と向き合う。
彼女の美貌に息を吞む者。無鉄砲な留学生を馬鹿にする者。視線は様々だが、彼女はそれを物ともせず、豊満な胸を張った。
「ロン様の行動は、常識の無いそこの男爵令嬢を窘めるものとして当然の行為でした」
「当然だと?メルエを詰っておいてか⁈」
「王太子を愛称で呼ぶ。身分関係ない、を額面通りに受け取って、礼節を無視して暴走する。あれを根気強く注意するロン様を、ハンカチ無しに見て居られませんでしたわ」
よよよと、ドロシーはワザとらしく涙を拭うふりをした。
ルイス王太子は、自分に述べられた歯に衣着せぬ言葉の数々に、眼を剥いて言葉を無くしている。
ロンは突如始まった事態に困惑していたが、いつの間にかやって来たカラルに肩を叩かれて我に帰った。
「カラル、彼女を止めないと。俺が下手をうったせいでドロシー嬢に何かあったら、国際問題に…!」
「まあ好きにやらせて差し上げろ。あの方も、散々矜持を汚されて、腹に据えかねてるんだ。何かあったら俺や伯父さん達が揉み消して、更に粉砕して、その粉を元凶に飲ませて、キめキめさせてやるから安心しろ!」
「全然安心できない。全然安心できない。国際問題の前に、国法に引っ掛かる」
駄目だコイツ。
根性が捩じり曲がってる従兄は放っておこう。こいつよりドロシー嬢の方だ。
「私は…、ルイ様とお友達になりたくて…、男爵令嬢の私では相応しくありませんか?」
メルエ嬢が庇護欲をそそる声音で、ルイスの腕の中で身を捩った。
それをルイスが、よしよしと頭を撫でて宥める。自重しろ馬鹿王子。
「君は素晴らしい女性だ。そんな事を言ってはいけないよ。ドロシー嬢と言ったかな?彼女を侮辱するのは止めて貰おう」
「どの口が仰っているのかしら?そもそも侮辱何てしておりませんし、ご自分の不貞を棚に上げるのは卑怯だと思いませんの?」
「不貞?何の事だ」
「カルルニア王女殿下との婚約の件ですわ」