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お題シリーズ

変わりゆく関係 年下

作者: 透坂雨音
掲載日:2021/03/10



「もえなねーちゃん。まってよぅ」


 とたたたっ、と軽い足音が私の背中を追いかけてくる。

 振り返ると、小さな男の子が私の背中を掴んでいた。


「おいてかないでよっ」


 男の子は涙目になって、こちらを見上げている。

 その姿を見た私は、微笑みをこぼしてその男の子に向かい合った。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんは、置いていったりしないから」

「ほんとに?」


 不安そうな顔をする男の子。

 つい先ほどまで迷子になっていたのだから当然だろう。

 私が見つけてあげなかったら、もう数分は泣いていたかもしれない。


「本当に! だからほら、一緒に行こう」


 私は男の子に手を差し伸べる。

 男の子は涙をぬぐって、この手をつかんだ。


 小さくて、あったかくて、頼りない手。

 私がお姉さんとしてこの子を守ってあげなくちゃ。

 そう思わせる手だ。


 私は男の子に笑いかけながら、先導するように一歩前を歩き出した。





 私には、近所に仲の良い男の子がいた。

 その子とは物心ついてすぐに出会ったから、今に至るまで十年以上も近くにいた事になる。

 世間一般が述べる長い付き合い、という関係だ。


 子供の頃はたくさん遊んだし、たくさんお世話してあげた。

 私の方が年上だったから、面倒を見る役はいつも私だった。


 けれど、小学校高学年になって距離が開き始めたと思ったら、あっという間。

 中学生になった頃には、その男の子は手が届かないような存在になっていった。


 最近じゃ、あの子が何やってるのか知らないし、何を考えているのかも分からなくなってしまった。


 だから、学校の校門でぼうっと立っている時に、あの子が話かけてくれたのにすごく驚いた。


「もえな、何してんの。こんなところで」

「あっ、ひさし……ぶりっ」

「別に顔ぐらいたまに見るだろ、何キョドってんだよ」

「そっ、そうだよね。あはは……」


 ご近所さんだからあの子のいう通り、顔ぐらいは見ている。

 家が近い事と、通っている学校が同じである事が関係して、いつも同じような時間に家を出ているからだ。


 でも、私が「おはよう」って挨拶しても、「うん」くらいしか言わないし。


 話し方、だいぶ変わったな。

 あの頃と比べると。


「それで、何してんの? って聞いて待ってるんだけど」

「あ、うん。えっとね。実は……これ」


 私は。学校のカバンから一枚の紙きれを取り出す。

 下駄箱に入っていたそれは、下校時に見つけたものだ。


 中身を読んでみたら、校門のところで待っていてほしいと書いてあったので、こうしている。

 相談事とかかな。


 すると、あの子は眉間にしわをよせて、紙きれをひったくった。

 そして勝手に中身を読んでしまう。


「ちょっと、失礼だよ!」

「ちょっとくらい良いだろ。……ふーん。で?」

「え?」

「つきあうの?」

「何の事?」


 探るような視線と共に、唐突に問いかけられた質問。

 その意味が分からなくてあの子に問い返すと、「はぁ」とため息をつかれた。


「鈍すぎ。これってそういう事だろ?」

「え? え? どういう事? この手紙、何の用事か分かるの?」

「分からない方がおかしいって」


 けれど、あの子は私にそれを教えてくれるつもりがないようだ。


 こちらをじっと見つめて、手紙を返してくる。


「本当は、もっといろいろ準備してからやるつもりだったのに、予想外。でも予想外過ぎるってほどの事じゃないか。お前ってなんか隙多そうだし。女ならだれでもいいって考えてる奴にとっては、いいカモなのかもね。押したら引いてくれそうに見えるじゃん」


 見えるじゃん、と言われても何について話をしているのか分からないので、首をかしげるしかない。

 すると、あの子はカバンの中から紐のようなものを取り出して、私の首に括り付け始めた。


「え? ちょっと何するの。やめてってば。くすぐったいよ」

「動かないでくれる。今大事なとこだから」

「さっきからずっと意味不明だよ!?」

「できた」


 首回りの作業から解放された私が、あの子の表情を見ると少しだけ満足げに見えた。


「それ、しるし」

「え?」


 首をかしげる私。

 その首元を、あの子が指さした。


「俺のもんだって」

「私は私の物だよ」


 私はずっと状況に置いてきぼり。


 さっきからあの子が、何を言ってるのか分からない。


 でも、不思議とだんだん胸の奥が熱くなってくる。


 本当は気づいているんじゃないのって。

 私の心が私に問いかけてる。


 あの子は、近くにしゃがみこんで、手元に転がっていた石を次々と遠くに放りなげはじめた。


 視線はずっと地面。


「近くさ、待ってるから。さっさと用事すませて俺ん家こいよ」

「待ってるって。どうして?」

「さっきから疑問形ばっか。少しは、自分の頭で考えろよな」

「あう、……ごめん」

「……別に、責めてるわけじゃないし」


 そこで、やっとこっちを見たあの子が、私のスカートのすそをちょんと掴んだ。


「もえなねーちゃんは、俺のねーちゃんなんだから。それだけ分かってればいいんだよ」

「……う、うん」


 なんだか、すごいどきどき。

 顔があつくなって、のぼせそうになってきた。


 あの子から、昔みたいに呼ばれたから?


 どうしてかいたたまれなくなった私は、くるりと向きをかえる。


 スカートを引っ張っていた手がはずれて、体が少しだけ軽くなった気分。


 ほっとしたのもつかの間。


 すぐに背後の様子が気になった。


 振り返るべきか悩む私は、遠くから近づいてくる男子生徒……たぶん呼び出し主さんの方へ、ゆっくりと歩き出した。


 きっと今日、何かの関係が変わる。

 確信めいたものを抱きながら、



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