序章 VRMMOを楽しむ2
「あっはははははぁ、はぁ」
草原を1人の赤髪の青年が笑いながら走る。
「やっべー、フルダイブ舐めてたわ!
ザコ敵とすらまともに戦えねぇとか・・・俺、弱すぎだろ。」
青年がいるのはフルダイブ型VRMMO【ODO】の世界。
たかがゲームだと侮ることなかれ、
スキル発動時や装備によってステータスに補正はかかるが、
基本ステータスは現実を水準としたものである。
もちろん初期装備の補正値は最低ランクであった。
加えて、【ODO】はボタン操作では無く、プレイヤー自身の創造力により、
ゲーム内のアバターが動作を行うというシステムを
世界で初めて導入した最新のゲームである。
例えプロだろうが、
操作を確認しておかなければ、初期ステージで敗北するに違いなかった。
「ちっ、囲まれたか。」
十匹のスライムが青年を囲む。
ズリ、ズリ、ズリ・・・バッ
「おっと!」 ヒョイ
青年は今、スライムと戦っていた。
「スライムならいけると思ったんだが・・・
軽減値がどれぐらいかは分からないが、
初期ステージでエンカウントするスライムに
初期装備で与ダメージ無しとか運営バカじゃねぇ?」
青年は同じ高校に通う友人3人と、
今日の18:00から【ODO】にもぐろうと約束をしていたのだが、
早る気持ちを抑え切れず、下校チャイムと同時に学校を飛び出し、
17:00にログインをし、クエストに挑戦していた。
「あー、あー、スタートダッシュ決めて、
装備でも調達しておこうと思ったのによぉ。」
ズリ、ズリズリ
スライムが青年ににじり寄る。
「はーー、もうすぐ約束の時間じゃねえか。
いいぜ! 来いよ! スライム共!
俺をリス地に飛ばしやがれぇ!!!」
~始まりの町~
「負けた・・・」
青年は下を向いて呟く。
「ほら、言った通りでしょ?」
「あはは、まあ、いつも通りですね。」
聞き覚えのある声が聞こえ、青年が前を向くと、
3人組グループの中の青髪の青年が笑いながら話しかけてくる、
「ダイチ、遅かったな。」
「うるせぇよ、カイム。」
普段通りの掛け合いに4人が苦笑する。
「また、1人で先に遊んでたのか?」
「ああ、ちょいとスタートダッシュを決めておこうと思ってな。」
ダイチがマッチョのポーズをとりながら答える。
「また、ルールブック読まなかったんでしょ!
そんなのだから負けるのよ。」
茶髪の気が強そうなスレンダーな女の子『ミレイ』が言う、
「それは、そうなんだが・・・」
「「「?」」」
いつもならここで反発し、言い争いになるまでがテンプレなのだが、
珍しく意気消沈とした様子をみせるダイチに3人は首を傾げる。
「大丈夫ですか?」
ほんわかとした雰囲気の小柄の黒髪の女の子『フユカ』が話しかける。
「ああ、大丈夫だ。
それよりも聞いてくれよ!」
「何だ?」
「どんなモンスターに負けたと思う?」
3人は少し考える、
「この様子だといつも通りの
特殊条件下で出現する裏ボスでは無さそうですね。」
フユカの言うように
ダイチは〔運の良さ〕と〔脳筋なプレイスタイル〕で有名なプレイヤーであった。
初めてログインしたゲームでフィールドに出ると
必ずと言って良い程の確立で特殊なモンスターとエンカウントし、
手順を無視した誰も思いつかないような方法で
その特殊なイベントを進行させてしまうのだ。
「そうね・・・
でも、それが違うとなると何も思いつかないわね。
カイムはどう?」
「う~ん、
正規のストーリのボスを見つけて挑んだとかかな?」
ダイチはそんな3人の様子を見て、満足したのか。
「どれもちげーよ。
俺が負けたのはただのスライムだ。」
「「「え?」」」
3人が驚きの声を上げる。
「いやー、びっくりしたぜ。
初期ステージのスライムがバカみてえな物理軽減を持っててな?
初期装備じゃ全く手がつかなかったわ。」
「そうだったのか、助かったよダイチ。
聞いたかフユカ、ミレイ。」
「ええ、それならまずはこのゲームについて知るところから始めなくちゃね。」
「はい、そうですね。」
「じゃあ皆、今日は情報を仕入れることに専念しようか!」
「「オー!」」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。
悪いんだが俺クエスト受けちまっててな?
期限が今日中だから急いでクリアしねえと。」
焦った様子のダイチを見て3人は笑う。
カイムは確信していた、今回のゲームもこの4人でなら楽しめるだろうと・・・