魔王「あの素晴らしき戦いをもう一度!」
モンスターのレベルを揃えて難易度調整。
各地にダンジョンを仕掛けてレベル上げ。
感動的なイベントを仕掛けて旅に充実を。
ここまで! ここまでしてるのに!
「ああああああああ! また勇者が死んだ!」
死んでしまうとは情けない! 何故だ! 何故なのだ勇者よ!
「ま、魔王様……? 宿敵である勇者が死んだのですぞ? これは祝杯を挙げるべきなのでは……?」
私の顔を見ると臣下は情けない声を上げて去っていった。いくら私の顔が怖いからってこの扱いはひどくないか? そういえば前回、勇者の前に姿を現した時も私の顔を見て心臓発作で死んでいたな……
そうだ。私は魔王である。
私が勇者の死をこんなにも嘆いているのは一つの理由からだ。
数年後、私と勇者は生死を賭けた極上の戦いをした。その戦いの高ぶること高ぶること。紙一重で私は勝ったが、あの戦いを忘れられなかったのだ。
そこで考えたのが私の魔法である。私の魔法は過去に戻る事。勇者が何年前から旅を始めたのかわからなかったので、私は三年前に戻り、丁度旅を始めたばかりの勇者を見守っている、のは良いのだが……
こいつが私と雌雄を決した勇者だとはとても思えんのだ。ある時は雑魚モンスターで死に、ある時は環境ギミックで死に、ある時は……そんなこんなで私が過去に戻りまくって何十回目か……正直諦めかけた事もあった。
だが、全く何も手出しをしないでまっている回では、なんと勇者は私の想定より遥かに早く確かに私の元へたどり着いたのだ。しかし勇者はレベルも技術もない。もはや戦いにもなっていなかった。
しかし勇者は遥かに早く魔王城にたどり着いた! 強くなる才能はある! 未来から来た私がそれを一番よくしっているのだ!
そこからの私は早かった。勇者が旅立つ地から近い場所に弱いモンスターを配置し、逆に遠い場所に強いモンスターを配置しなおした。各地にダンジョンを仕掛けてボスを配置。宝箱からはさまざな素材や伝説の宝具なんかも入れておいた。数回目には勇者が冒険に出たくないと言い出したり、道中の村にいる美人と結婚なんかして旅をやめたのでそこら辺のメンタルケアにも本腰を入れて取り組んだ。
なのに……! なのに……!
「勇者よ……どうして死んでしまうのだ……」
考えられる手は全て尽くしたつもりだった。
勇者が私の元にたどり着いても、あの夢のような戦いは出来ない。全て私の圧勝で終わってしまう……
一体どうすれば……
「あの……魔王様、もしや魔法で何度もループされております……?」
こやつは私の臣下だ。さっき私の顔を見て逃げ帰ったかと思ったら、のこのこ戻ってきたらしい。しかし、今のこの勇者強くならない問題、もはや私の考えでは解決できない。となれば他に意見を仰ぐのも大切な事か。
「よく聞け、私の臣下よ。実はな……」
「ははぁ。なるほど、此度の勇者が三年後に魔王様レベルに……
とても信じられませんな。あの勇者が……」
「真実だぞ! 私は三年後に見て、戦ったのだ! 確かに三年後の勇者そのものであった!」
「偽物……も、無理がありますな……
ん? 魔王様、三年後の勇者と今の勇者の見た目は……同じ、なのですか?」
「全く同じというわけではない。三年後の勇者の方が目に殺意があったし筋力も技術もあったぞ。見た目は……うん。似ていたが?」
「魔王様、失礼ながら……三年後というのは人間の暦で三年後という事ですかな?」
「何故魔王である私が人間の暦なぞ使う? もちろん魔王歴での三年だが?」
「……魔王様、気を確かにお持ちください。実は、」
真相はこうである。
人間歴一年と魔王歴一年は同じ長さではない。
つまり、人間歴十年が魔王歴一年なのである。
これを聞いた魔王はふて寝した。
それはそうだろう。人間歴二年ほどではあるが、魔王は自身の魔法によってこの期間を何度も何度も繰り返していたのだから。一体魔王にとって何年が過ぎているのかは、もはやわれわれの知るところにはないが……
その後、現勇者は伝説の宝具を手に魔王城へと訪れたが防具だけはぎとって追い返された。
そしてまた人間歴数年後……正確には魔王歴三年後、その勇者の子供である勇者が現れ、魔王を眠りから目覚めさせ、寝ぼけた魔王と戦い、完全に覚醒した魔王が全ての状況を理解し……勇者を盛大にもてなしてしまうのは、また別の話である。
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