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振り向いて同居人

作者: 夏坂希林

 家の人は、常時テレビが点いていなければ落ち着かない性質だった。ネットサーフィンの後ろでも、昼寝の後ろでも、常ににぎやかにしていないと気が済まないようだった。

 ある時、テレビを点けたまま買い物に出かけたので、これはさすがにと思って消してみると、帰ってくる也怒られた。ドアを開けたとたんに、既にテレビが点いていなければ不安なのだと言う。なるほど、要するに寂しがり屋さんというわけだ。そう思えば、可愛いような気もしたが、それではどうして、同居人ではだめなのだろうか。無人の部屋のテレビと、同居人のいる静かな部屋。断然、後者の方が温かみを感じられるような気がする。同居人が、読んでいた本から顔をあげて「おかえり」と言うよりも、赤の他人がしゃべり倒している音声の方がいいというのか。とてつもなく寂しい。同居人として、これほど不甲斐ないことは無い。何が足りないのだろうか。口数かな。確かに周囲からは寡黙な人物と認識されているようだし、もうすこし明るくというか、いろいろと話してみることにしよう。

「お帰り。今日はずいぶん暑かったでしょう」

「まあね」

「ちゃんと水分は取っている? 喉が渇いてからでは遅いというし、こまめに飲むんだよ」

「うん」

そうだ、うちの人はそうなのだ。口数が少ないのだ。会話を求めているわけではないのだろうか。すると寂しがり屋さんだという、そもそもの定義が崩れてくる。一体、テレビジョンに何をもとめているのだろう。もはや中毒か。眠る時間も点いていてほしいだなんて、これは確かに、中毒だ。理由なんて無いのだ、とにかく、テレビの雑踏を求める。本能がだ。これは負けた。

 それから僕は部屋に引きこもった。するとしばらくして、テレビの音が止んだ。そして押し音が近づいてくる。

「ねえ、どうしたの?」

「……テレビへの敗北感を味わっているんだ」

「はい?」

そうだよな、このままでは僕は困ったちゃんだ。潔く部屋を出て、これまでの苦悩の奇跡を離した。

 するとあっけらかんと笑って、「それはね」と言う事には、

「私、テレビの電波を食べてるの。一番おいしいのは日テレかな」

おもむろにシャツをめくると、腹の部分に切り込みが見えた。かちり、と肌色の装甲を開くと、そこには答えが堂々とあった。そういうことは初めに言っといてよ。


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