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if... 自殺少年と世界線 case2

作者: SchwarzeKatze

 不思議な男が差し出したスイッチ。

 俺の指はふるえながら、そのスイッチに手を伸ばす。

 もしかしたら、助かるかも知れない。

 もしかしたら、同じ道をたどるかも知れない。

 もしかしたら……。

 俺は、目を瞑って、そのスイッチを勢いよく押した。


 ◆◆◆◆◆◆


 俺は同級生を自殺に追いやってしまった。

 二〇五〇年。

 日本が抱えたイジメ問題は、結局解決はしない。

 イジメの媒体が変化しただけで、本質的には以前より心理的にひどくなったのだと思う。

 その結果がこれだ。

 皆でイジメをやっていたはずなのに、俺が首謀者という事になり、後ろ指させれる様になった。

 皆のウェアブル端末からは、彼へのイジメをした記録は、口裏を合わせるかのように、消えていたのだった。

 きっと、プログラムに詳しいあいつが記録を改ざんしたのだろう。

 俺はこのイジメの生け贄にされたのだ。

 俺は彼がこういう立場に居たのかと、思い知らされる。

 俺は本当は彼と仲良くしたかっただけだった。ちょっとからかっていただけだと思っていた。

 でも、現実は違った。

 彼は、俺がとった行動で、クラスからはじき者にされて、孤独で苦しんでいたんだと思う。

 今の俺が感じているように。

 俺が彼をこんな身に追いやってしまったと、今考えるとどうしても、ひどいことをしたと感じてしまう。そして、今の自分を失笑してしまう。

 彼はもうこの世には居ない。

 彼は自殺してしまったのだから。

 彼は俺のつまらない自己顕示欲でそうなったのだから。

 彼はその犠牲になったのだから。

 彼の犠牲に対しての償いとして。

 俺の命だけではきっと足りないだろう。

 俺が命を償うのは、彼の命では無いだろう。

 俺の命で償うのは、きっと俺のエゴ。

 彼への償いとか言いながら、俺はただこの『首謀者』との立場から、逃げたいだけなんだと思う。

 学校でも職員会議が何度も開かれて、学校はしばらく閉鎖状態。連日の報道でも、俺の学校のこと。いや、俺の事をニュースでやっている。

 少年A。今の俺の呼び名の一つになっている。

 ネットでは実名報道しろと、署名活動まで起きている。

 俺の待っている将来。

 もしかすると、未成年初の死刑とも言われている。

 そうでなくても、社会的な死を取ることになるだろう。

 だから。

 最後の我が儘なのかも知れない。

 俺は彼と同じ道。自殺する道を選んだ。

 彼と同じく、学校の屋上から。同じ位置から。飛び降りることにした。

 フェンスに手を掛けた時...…聞き慣れない声が耳に届いた。

「君は自殺するのかい?」

「……」

「言わなくても分かるよ。今からここから飛び降りるんだろ? 分かってるよ。だから君に選択肢を与えに来たんだ」

「選択肢?」

「そうさ。このスイッチだよ。このスイッチを押すと、人生をやり直すことが出来るのさ。どうだい、人生をやり直したいと思うかい?」

 人生をやり直せるスイッチ。俺の興味はそっちに持って行かれた。

 自殺。正直怖い。

 でも、彼は成し遂げた。

 いや、俺が追いやったのが正しいだろう。

 俺はフェンスの手を下ろし、その不気味な男に話しかける。

 風貌は科学の先生みたいに白衣を着ているが、学校の職員ではなさそうだ。全面的に出入り禁止になっているのに、この学校のセキュリティーが甘いのに俺は皮肉な笑みを浮かべた。

 まぁ、もっとも、俺がこの屋上に行ること自体が、セキュリティーの甘さを語っているのだけれど。

「それを押すと、人生をやり直せるのか?」

「年上の人に言う態度では無いかな? まぁ、良いけどね。このスイッチは押すと、生まれた頃まで遡る事が出来るよ。今までの記憶と引き替えにね」

「今までの記憶を引き替えに?」

「そうだよ。このスイッチは、単純に時間を戻すスイッチさ。だから、今までの経験は全て抹消される。そして。君が今までの事を忘れて。今と同じ結果になる可能性だってあるよ。もちろん別の道を辿る事も考えられるけどね。どうだい? 押してみるかい?」

「同じ道? それはどういう意味なんだ?」

「うーん、その口調だから君は誤解されて、イジメっ子のレッテルを貼られてしまったんだね。分かるよ。誤解されるのって、辛いよね。そうだな。僕は君に三つの選択肢を渡すことが出来るよ。一つはそこから飛び降りて死ぬこと。一つはとりあえずもがいて、死刑を待つこと。最後の一つは、このスイッチを押して、人生をリセットしてやり直すこと。どうだい? 最後の選択は君に任せるよ?」

 俺は死ぬのは怖い。

 いくら追いつめられてるにしても、彼ほど死に固執は出来ない。

 死ぬのが怖い。

 死ぬのが怖い。

 死ぬのが怖い。

 俺の感情は、どんどん死の恐怖に侵されていく。

 俺の出した結論。

 それは……。


 ◆◆◆◆◆◆


「二百回目です。彼は同じ人生を歩みました」

「そう……か」

「被害者側のデータは全て充填済みでこの結果です。クラスメイトの協力……司法取引で手に入れた記憶も、充填済みですが同じ結果になりますね。天候条件なども全て一致させています。最終手段のスイッチ以外にも何か障壁が必要なのでは無いでしょうか?」

「いいや。この実験は全ての条件が一致した状態で、彼が別の行動を起こす事こそ意味があるんだ。だから条件は変えない。そうしないと、並行世界があることを実証できないと考えている」

「そうですね……でも、今のところ一致率百パーセントです。寸分狂わない行動をしてますね。一応、プログラム上は彼は彼自身の意識で自由に動ける権限を有してますが、変わりないですね」

「まぁ、彼がちょっとでも違うアクションをしたときでも、シミュレーション可能にはしてあるのだが」

「先生。まだ続けますか?」

「ああ、勿論だ。並行世界が見つかるまで、やるさ」

「分かりました。準備進めます」

「頼んだよ」

 彼……五年前に自殺した少年の首謀者として、死刑にされた少年。彼の脳を壊死する前に採取し、バイオコンピューターに接続した。

 当事者達の記憶もダウンロードして、彼には現実世界同様の体験をしている。もし、少しでも違う行動をすれば、全ての人から採取した記憶で、再演算できる仕組みになっている。

 勿論被害者の脳も、例外なく接続されている。

 正確には被害者少年は、学校の屋上から飛び降りた後、即死はしなかったのだ。心肺停止を見計らって、脳を採取している。

 なぜ、こんな実験をしているのか。

 表面上では、近年増えた少年少女の自殺をくい止める方法を模索することになっている。

 しかし。

 実際に私がやっているのは、パラレルワールドの証明。

 パラレルワールド。並行世界が存在するのであれば、彼は同じ条件が整っていたとしても、別の選択をするはずなのだから。

 だが。彼は、被害者の少年を二百回殺し続けた。

 いや、死に追いつめた。

 私は並行世界を証明したいが為に、彼を殺人者にもう二百回も仕立て上げてしまった。

 もし。死後の世界があるのだとしたら。彼はどんな刑罰を受けるのだろうか。

 そして。そんな彼を仕立て上げた私は、どうなるのだろうか。

 私には分からない。

 それでも、私は研究をやめない。並行世界があることを信じているのだから。証明したいのだから。

「なぁ。君は彼をそんなに殺したかったのかい?」

 私はガラス越しに、彼の脳に話しかけた。

 まるでプログラムされたかのように。同じ行動をとる彼に。

 ……いや、私も同じだな。

 そして、二百一回目の実験結果を待つ。

 きっと、また同じ結果だろう……私は悪魔に魂を売ってるのかもしれない。


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