王都への道
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中原は歴代王朝が広大な国土を円滑に移動できるよう運河を整備、拡張しており船舶による移動が容易であった。将军たちの住む北都から帝都南都までも運河はつながっており彼らも例に漏れず船で南都を目指していた。
「将军よ。病み上がりにも関わらず帝都までの長旅をさせるのはすまなかった。お前の任官があるからどうしてもすぐに行かなくてはならなかった。体調はどうだ?まだ記憶は戻らんのか?」
父の志国にとって将军は最初に生まれた子でありその可愛がりはもう凄まじいものであった。そのため将军が病に伏した時には国全ての医者を呼びつけたとも言われるほどだ。
「とうさ、、あっ、父上。体調の方はもういつもの通りだと思います。ただ記憶の方は戻っておりません。何かこう…モヤがかかっている様な感じで何かはあった気がするんですけどそれが全く分からなくて…」
「そうか。ゆっくりと思い出していけば良い。それはそうと都では皇帝の謁見と任官がある。その際に『三跪九叩頭の礼』をしなければならない。さっき買った半人にやらせるからそれを見て覚えよ。」
「わかりました。父上。」
三跪九叩頭は皇帝が家臣にやらせるものである。半人は跪き、三回土下座した後に立ち上がった、その動作を三回行う。この動作は非常に屈辱的なものに見え、将军は思わず唾を呑んだ。本当にこんなものをやるのだろうか。
「できるか?将军。この所作をしっかりと覚えておけよ。王の御前で失礼があってはならない。後の所作は于航に教えてもらうがよい。」
志国はそう言い船の二階に上がって行った。
「それでは将军様。宮廷内に入ったら……」
任官の儀は手順が多く複雑であった。将军は于航に何度も質問し頭に叩き込んだ。無事に済ませなければならない。その思いは強く、説明は深夜にまで及んだ。
船に乗るのも2日目となった。
「将军様。まもなく赤河に入ります。楽しみですね。明日には南都です。実は私は赤河に行くのは初めてなんですよ。何度も通っている将军様は何か思い出せるかもしれませんね。」
赤河はとても赤く、海の如く広かった。この河が上流から運ぶ赤土のおかげで中原は土がよく肥えている。渡しの船、荷物を運ぶ大きな船、運河から来た貨客船が絶え間なく通り、それは圧巻の光景だった。
「これが…川なのか。まるで海の様だな…」
海?何だそれは。思い出せない。
「私も初めて来ますがこれ程までとは…本当に海の様ですね。それに噂には聞いていましたが水まで赤いなんて。」
海、海、海、何だ、思い出せない。後何か足りない。何かこう合わない。思い出せ。思い出せ!
「どうされましたか?将军様。俯きなさって。お体がどこか障りましたか?」
「う、于航。海って何だ?」
「大きくてしょっぱい水の塊ですね。」
違う!
「ありがとう。まだほとんど記憶が残ってなくてね。」
違う!僕が知りたいのはそんな事じゃない!一瞬浮かんだあの景色はどこの景色だ?あの香りは?あの色は?わからない。わからない。わからない。何なんだあの景色は。あの海は何だ。わからない。わからない。わからない。
「将军様!しっかりしてください!大丈夫ですか⁈半人!医者を呼んできて!」
意識がはっきりしない。何か深みにはまっていく。まえがみえない。なにもかんじない………
「あなたは……誰?」
3日目となった。いよいよ南都に着く。昨日の体調の悪さはすっかり無くなっていた。
「何だこれ…。これが門…まるで城のような大きさだ!」
王都への入り口、正陽門。高くそびえ立つ城壁の上に五層の楼が建てられている。まさに王都の威厳を象徴する建物であった。
「はっはっはっ、驚いたか将军。しかし中はもっとすごいぞ。」
都の中は活気に溢れていた。広大な道路は端が見えない。その道路には人がひしめき合っている。見渡す限り人、人、人!市場に世界中から遠くは南蛮から近くは北金まで世界各地から集められた珍品財宝が並べられ、遠くにはいくつもの七重の塔がそびえ立ち、塔楼がそびえ立っていた。
「凄い!これが南都なのですね。」
「ああ。これが世界の中心。南都だ。凄い活気だろ。だがこの先にはもっと凄いものがあるぞ。」
進んだ道の先。巨大な城門が建っていた。塔楼は高く大きく一目で見渡す事が出来なかった。
「これが宮門。承天門だ。」
その大きさに将军は言葉が出せなかった。彼は思わず息を呑んだ。
次回も頑張っていきます。