紅魔館の門番さん~紅の龍神~
あれは幻想郷で紅霧異変と呼ばれるお嬢様の起こした異変を解決して、少ししてからだったろうか?
私がいつものように門の前で過ごしていると白黒の泥棒がこれまた、いつものようにやって来る。
「今日も良い天気だな、門番」
「貴女が泥棒に入らなければ、もっと良い一日になると思うんですけどね、魔理沙さん?」
私がそう言うと白黒の泥棒こと魔理沙さんがニヤリと笑う。
私はまたかと思いつつ、スペルカードを手にする。
「待ちなさい」
そんな私達にお嬢様が門を開けて現れ、私と魔理沙さんを交互に見る。その表情はどこかつまらなそうであった。
「毎度毎度、手を抜きすぎよ、美鈴?」
「申し訳ありません、お嬢様」
「紅霧異変の時も本気を出さなかったでしょう?・・・たまには貴女の本気が見てみたいわ?」
「なんだなんだ?負け惜しみか?
そもそも、こいつって、今まで手を抜いていたのか?」
「当たり前でしょう?本気を出さずに如何に現状に見合う働きが出来るか・・・それが出来ずになんの為の門番だと思っているの?」
ああ。またお嬢様の悪い癖が出てしまった。
確かに本気を出して良いなら、変わって来るのだが・・・。
「紅美鈴」
「はっ!」
私は片膝をついて座り、ゆっくりと頭を垂れる。
「紅魔館が当主レミリア・スカーレットが許可するわ。貴女の本当の実力を霧雨魔理沙に見せてやりなさい」
その命を受け、私は深く頭を下げるとゆっくりと深呼吸しながら立ち上がる。
そうして、今まで抑え続けてきた気を解放した。
私の能力は気を操る程度の能力。
自分の能力で自身の能力を抑える事が出来る、幻想郷における紅魔館の顔として努めていた訳だが、少し今回の件で変わるかも知れない。
私は大気すら震わせながら、目の前の標的にゆっくりと近付いた。
ーーー
ーー
ー
「紅魔館が当主レミリア・スカーレットが許可するわ。貴女の本当の実力を霧雨魔理沙に見せてやりなさい」
自称・カリスマお嬢様であるレミリアの奴が告げた瞬間、門番の様子が変わった。
赤い艶のある髪がフワリと浮かび、あいつを中心に空気が振動してやがる。
私はツーっと流れる汗を拭い、改めて門番を睨む。
するとあいつはゆっくりと歩いて来る。
ヤバいんだぜ。
こいつからとんでもないモノを感じる。
私はそんな事を思いながら逃げる事も退く事も出来ない状態でミニ八卦炉を門番に向ける。
その瞬間、門番の気配が増したと同時に強烈な圧迫感を感じ、猛烈な突風に思わず怯んでしまう。
気を操るってこんな事も出来たのか・・・。
私はゆっくりと近付いて来る門番ーー紅美鈴を見る事しか出来なかった。そうして、眼前までやって来た門番は私の顔に指を近付けーー
ツンとつついてくる。
「大丈夫ですか、魔理沙さん?商売道具が落ちてますよ?」
「え?あ?」
そう言われて、私はミニ八卦炉を落としている事に気付く。
紅美鈴の気配も普段のように戻っていた。
「お嬢様から離れて頂けませんか、賢者様。この通り、力は再度、抑えましたので」
そう言われて、私はレミリアの方を見ると紫の奴が佇んでいる事に気付いた。
「あら?私はただ面白いのが見れそうだったから来ただけよ?」
「・・・そういう事にして置きます」
門番はそう告げると主人であるレミリアに近付く。
「申し訳ありません、お嬢様。ご期待にはお答え出来そうにありません」
「まあ、仕方ないわ。淑女たる者、常に優雅であるべきだもの」
レミリアはそう言って微笑むと此方を改めて見る。
まるで挑発しているようだが、悔しい事に今回は何も言えない。
「紅白の巫女なら美鈴が本気を出しても怯まなかったわよ?」
「え?」
「貴女はここで立ち止まるの、霧雨魔理沙?」
そう言われて、私は自分の黒い帽子を目深く被る。
くそったれめ!そう言う事かよ!
「わかったぜ!いつか、本気のお前に勝ってやるんだぜ!」
「いい返事をありがとう」
レミリアはそう言って微笑むとウェーブのかかったショートボブを靡かせながら、門の奥へと戻る。
私も新たな目標を見付け、紅魔館をあとにするのだった。
ーーー
ーー
ー
「こんな感じで構いませんか、賢者様?」
私は隣で微笑む道士服を着た妖怪の賢者ーー八雲紫に振り返る。
「ええ。あれ位、発破を掛けた方が後々、幻想郷の為になるでしょうからね?」
「本当に良いんですか?妖怪が本気を出せば、人間ごときに遅れは取らないと教えたようなモノですけど?」
「それも私の手の内よ。なんら問題はないわ」
そう告げると八雲紫は私の横を通り過ぎて行く。
そうなのだ。今回の件はお嬢様と八雲紫の仕組んだ事なのである。
まあ、私は妖怪としての片鱗を見せただけで特に何もしていないし、妖怪が人間を必要なこのシステムとか、どうでも良い事である。
紅魔館のーー新たな家族を守る事さえ出来れば・・・。
「また会いましょう、優しい門番さんーーいえ、紅の龍神様と呼ぶべきかしら?」
「あはは。昔の名ですよ、八雲紫。その時はお互いに役目を終える事なく、再会出来る事を祈っています」
私がそう言うと八雲紫の気配が遠ざかる。
恐らく、幻想郷の境界の外に出たのだろう。
「ん~。それにしても、今日もいい天気だな」
私はフワアッと欠伸をするといつものように門の横に立って一眠りする。
幻想郷は今日も平和だ。
そんな事を思いながら、いつものように私は微睡みの世界へと落ちるのであった。