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もう一人の自分に出会えたのなら

本日二話目です。

 全ての光がクロエのもとに集まり暗転すると詠唱とともに色とりどりの光の線が闇を走り立体的な魔法陣を描いていく。


「凄い…...」


 幾重にも重なるように精緻な紋様は闇の中をひかりで埋め尽くす。


「孵りしの雛の産声と共に瀬に響き、還りしトキの灰と共に往かん」


 詠唱と共に光が溢れ、闇に零れる。


 光が収まり、さっきの場所とはまた違う場所に出てきたと思う。少しだけ空気が重い。


 そしてなにより闇の中に輪郭のみ白くなっている自分自身の影が存在した。


 中肉中背の特徴の無いシルエット、どちらかといえば細いというよりはがっしりとしている。


 顔は本人のそれより闇で覆われていてすっきりしている。いや、本人が言うんだから間違いないはずだ本人の顔は目が大きく童顔。いや未成年だから当たり前かもしれないが、幼さが前面に出ている。そんな顔だから僕はあまり好きになれなかった。


 影は口元が白で縁取られ異常なくらい口角が上がっている。やがて笑いが含まれるような声で喋り始めた。


「久しぶりだなようやく会えたぜ、兄弟」


 馴れ馴れしい。嫌な距離感の喋り方だ。しかもそれが自分の声で聞こえてくるが特に動こうともしない影は棒立ちのまま腕を組んでいる。


 詠唱や攻撃の姿勢が見えないがいつでも対応できるように身構える。


「そんなに殺気立つなよ、怖えーじゃねーか。こっちは話がしたいだけさ。なーに、短い付き合いになるんだしよ仲良くしよーぜ」


 クロエにもらった呪符を掲げる。炎の魔法呪符だ。さっさとこんな気色の悪いやつは倒してしまおう。


「いいんだいいんだ、それを撃てばオレなんかは一発でオシマイさ。さ、さっさとやってくれ。出来ればの話だけどよ」


「どういうことだ」


「あー、挨拶はどうしたよ兄弟。母ちゃんに習っただろうよ」


 軽い挑発だ、そう思っていても呪符を握る手に力が込められ呪符がクシャっと音を立てる。


「ほら、おめーはまだ撃ててない。俺が重要な話をするかも知れない。何か知っているかもしれない。そう思ってしまった時点でおめーは俺を簡単には殺せない。だろ?」


 しまった、話をする前に一度牽制を入れるべきだった。このまま攻撃をしても僕のステータスじゃ簡単に躱されてしまうだろう。


 かといって攻撃せずに確実に当てられる瞬間を作るにはやはり隙を作るしかない。そのためにはやはり会話するしかない。


 まずいなすでに罠に嵌まってしまっている。


「さてさて、母ちゃんの話の続きだが俺はお前の影でずっと傍にいたよ。そりゃあ、おめーが母ちゃんの事を無視したり、存在を感じ取ることができなかったり。まぁな、ちゃんとした理由があったとしても見るに耐えれなかったぜ」


 呪符とは別に掌を影に向かって掲げ、詠唱を開始する。


「光魔法か、流石選定者様だな。俺にはそんな事できねーからよ。さぁ、何も知らず俺を消し飛ばしれくれよ」


 最後の句を詠唱すれば光魔法を発動出来る所で止める。


「おぃおぃ、はじまりの塔で”詠唱保持”まで出来るのかよ、チートだな」


 俺の影は軽薄な挑発を続けている。


「まぁ、詠唱保持までしても俺を消さずに我慢できている所で合格ラインだな。教えてやろう、オレたちの目的ってやつをよ」


「妖精ガイドさんよ、少し”黙ってて”もらえるかな」


 シャドウが”黙って”と言った所でクロエは時間が止まったかのように固まってしまった。


「安心しろ。大丈夫だ、妖精は死ぬことなんてないからな」


「クロエをもとに戻せ! なんでそんな事ができるんだ!」


 焦った僕は光魔法を保持したままの掌を握りしめ光魔法を解除した。


「いい判断だ。そのまま俺を消していればその妖精はもとに戻らなかったよ」


「くっ」


「おいおい、それはスタイルのいい女剣士がいうセリフだろ。おめーが言うセリフじゃねーよ」

 僕の影は薄っぺらい軽口を叩いている。


「まぁ、これでゆっくり話ができるな。ってそんな訳にもいかないんだわ。それじゃ自己紹介だ、俺はお前の影つまりシャドウだ。俺らシャドウは妖精に生成される魔物、つまり俺の生みの親はそいつだ」


 クロエを指さして俺の影はニタニタと笑う。


「クロエが? お前を生み出したのか?」


「そうだよ、なかなかうまい詠唱だったな。おかげで俺はここまで自我を形成出来たよ。そして、育ての親はお前だ、サクラ ハルカ」


 ニタニタ笑っていた笑顔は消え、無表情な顔を張り付けていた。


「間違えた、オマエダ サクラ ハルカ」


「やめろ、わざわざ言い間違えるなよ」


 思わず笑ってしまったが、影も僕が笑ったのが意外だったのか少し戸惑いながら微笑み返してきた。


「合格だ。これからの話を聞いてすぐに光魔法を放て。俺が消える直前に妖精への魔法を解く。時間もないから質問も無しで頼む。俺はこれでも忙しい身でな、俺のことを信じるも信じないのも自己判断だな」


 まったく信じられない内容だが、聞く理由は十分ある。僕が知らない情報をこいつは知っている。そして、どういうわけか倒される事を望んでいる。そこまで言うなら罠かも知れないと思っていても聞く分なら問題ないだろう。どうせこいつも僕と同じで低ステータスだ。お互い一撃で決めれる程の攻撃力は持ち合わせていない。


「いいか、よく聞け、この世界はバランスを取るために存在している。他の世界の知識や技術、生物、物質、あらゆるものが外の世界から取り込まれたものだ。それはもともとこの世界には無かったものだ、それがこれだけ溢れている。といってもこの塔から出ていないお前に言っても伝わらないだろうがな」


「それでだ、この世界はどうやってあらゆるものを手に入れてきたのか。そうさ、攫ってきたのさ。そしてお前もその攫われた被害者なんだよ」


 ドキッとした。交通事故が原因で眠ると意識が違う世界に飛んでいく、そんな風なものだと勝手に思い込んでしまっていた。


「この世界は物質的にはこれ以上拡張出来ないと考えているみたいだ。そして今は生物の”意識”の部分を取り込んで世界を拡張している。俺はこの世界の目的は知らない。知りたくもないがな、オレ達の母ちゃんもだいぶこの世界に取り込まれているんだろう。母ちゃんはかなり長くこの世界にいるみたいだからな」


「おい、母さんの場所を知っているのか?」


「いや、知らねぇ、すまねぇな。とにかくだ、ただ母ちゃんを助けてもこの世界の一部に取り込まれている母ちゃんと一緒には元の世界に還れないかもしれないって事だ。それでも、どうにかしてこの世界から母ちゃんを戻してくれねぇか」


「どうしてお前さがそんなことを」


「俺は精神体のモンスターでこの世界へ攫ってきたヤツの精神をこの世界に流す役目なのさ。だからこの世界の構造を少しだけ知っている。普段はここまで自由になるわけでじゃないが、きっと選定者効果ってやつだろ。お前の気持ちやらお前の父ちゃんの影響を強く受けたのかもな」


「そうなのか、なぁお前を倒さないとダメなのか?」


「馬鹿じゃねぇの、無理に決まってんだろ。無理だからこそこうやってお前に託してるんじゃねぇかよ。少しは頭使えよ」


 言葉からはなんとなく恥ずかしそうな雰囲気を出しながらシャドゥは言った。


「俺が死んでお前の精神を少し貰ってこの世界に届けるのが俺の役目だ。これはどうしようもねぇ。もう影縛りが解けそうだ。それじゃまた俺はこの世界に還るから、どこかで会えたらいいなクソ野郎」


「照れ隠しもほどほどにしろよ、聞かされるこっちの身にもなれよ」


 互いに軽口を叩き会う。


「おぃ、クソ妖精お前の主人はゴミみてーなやつだな」


 凍り付いていたクロエがはっとした顔で元に戻った。


「今、アナタ何かしたの?」


「おいおい、クソ妖精は夢でも見てたのか? 早く迷子に俺を倒させろよ。いい加減この生活にも飽きたんだよ。」


 シャドウは意図的にクロエにだけ分かるようにこの世界の仕組みを喋ろうとする雰囲気を匂わせた。


「ハルカ、あのムカつくやつぶっ飛ばして!!」


「いいのか?」


「いいわやっておしまいなさい!!」


 どこの貴族の喋り方なんだ。慌てていてキャラ崩壊してきているクロエに見えないように苦笑いをしながら保持しなおした光魔法をシャドウに放つ。


「あばよ、相棒」


 光魔法はこのシャドウのような精神体のモンスターに効果のある魔法だった。


 シャドウは跡形もなく吹き飛び、魔法陣だらけの部屋の中が白い光で明るくなった。


 シャドウが消えた後も光は消えずにいた。


 さよならもう一人の自分。必ず母さんは助け出すからもう一度僕の背中から見ていてくれ。


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