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選ばれし村人

 選定者? なんのことだろう。ここに来たことも半分夢の中の事だと思っているし、クロエが驚いているのもよくわからない。


「なにそれ、選定者? 僕はハルカだよ?」


「知ってるわよ、あんたの名前はダレナノ・ハルカでしょ? 名前の話じゃないのよ」


「ダレナノって誰だよ」


 てかいつまでこれ引っ張るんだよ。そんなやりとりを無視して興奮した様子でクロエが騒ぎ立てる。


「時々いるみたいなの、迷子ロストに呼び寄せられて元の世界からこっちの世界の境界を飛び越えてしまう迷子ロストがね。それが選定者、別名神様に選ばれた子供のことよ」


「あなたそういえばステータス見てなかったわね」


「まあ普段は元の世界に戻る子たちにはステータスを見せないから仕方がないんだけどね」


「アーティファクトに触ったまま"ステータス"って言ってみて」


「分かったよ、こうなか? "ステータス"」


 ハルカ:人族(迷子)

 HP 20

 MP 22

 SP 13

 STR 4

 INT 4

 VIT 5

 DEX 3

 AGI 3

 LUK 7


 ・

 ・

 称号:迷子

 称号:選定者

 スキル:ーーー



「ナニコレ? まるでゲームじゃん! すごい、すごいよ!」


 ゲームの主人公になったようで、何か嬉しい。


「凄くないよ、下のほうに称号ってあるでしょ?迷子と他にもう一つない?」


「迷子と、選定者?」


「ってやっぱりか」


 やれやれといった表情でクロエが溜息をついている。


「君は世界に選ばれたんだよ」


 なんか凄いこと言ってる。恥ずかしくないのかな。


 僕の心の声が聞こえるわけじゃないクロエはそのまま説明を続ける。


「君の大切な誰かがこっちの世界から君の世界に戻れなくなっているんだ、その運命を変える為に君はこっちの世界に迷い込んだんだよ。選定者、つまり君は運命に抗うことができる存在なんだ」


 いったん言葉をそこで区切ったクロエは難しそうな顔で続きを語り始めた。


「けど運命に逆らう事も元の世界に戻る事も、それはやっぱり君自身が選ばなきゃならない。ただの迷子なら私は帰り道を教えてあげればいいんだけど、選定者は危険な道を進みながら忘れ物を持って帰らなきゃいけないからね」


 ミイラ取りがミイラになるかもしれないって事なのかな。


「こっちの世界で忘れたものを探しながら、向こうの世界でなくしたものを思い出さなきゃならない。それは大変なことだけど、君がやらなきゃいけないことなんだ。思い出せないかもしれないけど、君の周りで帰ってこない人とかは居ない?」


「僕......くらいかな」


「ハルカ以外でだよ。ちゃんと思い出さないとダメ。もしかしたら記憶がかなり薄れてるかもしれない。君は兄弟はいたりするの?」


「僕は妹がいるよ、でもちゃんと一緒に暮らしている」


「それじゃあ、違うね。お父さんやお母さんは一緒に暮らしているの?」


「父さんと妹と三人でくらしているよ。母さんは......」


 あれ、何か思い出しそうで思い出せない。


「僕、母さんのこと知らない?」


 覚えてない? 父さんは母さんの事をいつも口にしていたのに......なんで気づかなかったんだろう。


「そっか、迷子になったのは君のお母さんなんだね。今はもう放浪者になってしまったけどね」


「母さんはこの世界にいるの?」


「おそらくは子供の頃に君のように迷子になってこちらの世界に来たことがあるんだと思う。こちらの世界で死んでしまったのか、放浪者としてこの世界で生きているのかは私にも分からないの」


「ただし、君が選定者として選ばれたなら別。君のお母さんは、君がレヴェラミラに来た日、一昨日の時点では生きていた。そして元の世界に帰りたいと願っていた。その強い思いが君をこの世界に呼び寄せたんだ」


「母さんが僕を呼んだの?」


 僕は母さんの顔も覚えていない。どんな声だったのか、どんな人だったのか、クロエに指摘された今でも居ないのが普通なんじゃないかと思ってしまう。


 この世界での出来事が現実世界に与える影響はそれどれほど強力なものなのか。


「君たちは一人では生れてこないんでしょ? 父親がいて母親がいる、それが誤った認識で上書きされている」


 もう一度クロエに指摘されて得体のしれない違和感に輪郭がもたらされた。


 小さな時の記憶、家族で海水浴に出かけた。父さんと手をつないでいる僕、反対の手も誰かと手をつないでいるのにその誰かが分からない。


 そのきっかけから過去の記憶に”分からない誰か”がずっと一緒にいる。


 違和感は恐怖となり僕を包み込んだ。


 人の記憶から消えてしまう。当たり前だった日常が一変してしまう現象だ。


 僕も同じようになってしまうかもしれない。


 得体のしれない何かに脅かされている。恐怖と罪悪感で涙が零れ落ちた。


「母さん、ごめんなさい」


 謝罪の言葉が自然と出てきた。忘れてしまっていたこと、気づけなかったこと、違和感にどこかで気づけたはずだと、後悔と罪悪間に心の中が掻きむしられているみたいだ。


「大丈夫、キミならきっと見つけることができるよ。君が選定者なら私もこの世界を案内しなきゃいけないしね」


 クロエが優しく頭を撫でてきた。


 とても小さな手で、触れているかもあまり分からないくらいだったけど、とても頼もしく思えた。


「泣いている場合じゃないね。早くしないと母さんの事をもっと忘れちゃうもんね」


 顔を濡らしていた涙と鼻水を拭い正面を睨みつける。


「その意気だよ! 前向きな男の子はカッコイイぞ!」


 クロエに励まされているが、やはり母親の事が気にかかる。


「君は選定者、選ばれしものって意味なんだけど、基本的には何でも出来るよ」


「村人からのふり幅が凄いな」


「そのー適性なんだけど、適性は村人で間違いないみたい」


「どういう事?」


「適正職業は村人なんだけど......言い方を少し変えると優れた村人って事かな。適性は初期ステータスとステータスの伸び方によって決まるんだ。」


 苦笑いしたままのクロエがいつもと違って丁寧な説明をしてくれる。


「君のステータスは全体が低めで、バランスよく伸び率も低いってことかな。」


「そっか、小説みたくチートで無双ってわけにはいかないんだな。」


「チートも無双も良くわかんないけど、うん、無茶な冒険は難しいってことかな」


「小市民は小市民らしい冒険をするよ」


「それじゃ、まだ元の世界に帰るまでに時間があるから、ざっくり説明するね」


「お、おう」


 本当にざっくりとした説明だった。


 アーティファクトの使い方。


 ステータス・・・自分の状態を確認出来る。

 セーブ・・・元の世界に戻るための呪文。戦闘中またはそれに準ずる状態の時は使用不可。

 オーブ・・・取得した宝珠の能力解放


 選定者固有の限定(ぼくだけの)スキル。


 インベントリ・・・空間収納に保存している所持アイテムの呼び出し


 魔法の使い方、一般的なアイテムの使用方法、アーティファクトの使い方、スキルの説明


 まとめるとそんな内容だった。


 クロエの雑な説明を聞きながらますますゲームのような世界だなと思えてきた。


 ゲームの世界に迷い込んだお姫様(母親)を助けにいく冒険者(息子)うん、微妙な設定だ。まだ、両親の敵を討つために旅立つ冒険者の方が様になると思いつつ、実際にそんなことになっていないことに安堵する。


 必ず助け出して、元の世界に戻るんだ。


 そしてクロエは始まりの塔に所属しているガイドから、僕専属のガイドとして派遣されることが決定した。


 妖精ガイドの中にも組合みたいなものがあり、選定者に派遣されることは出世コースらしい。社会人経験のない僕は、良かったねと言う事しかできなかった。


 ひとしきり説明と、クロエの出世について話し込んでそろそろ時間だからと元の世界に戻る準備をし始めた。


「メダルも骨もちゃんと仕舞わないとダメだからね」


「分かってるよ。インベントリ!」


 空間収納スキルを発動させた。何もない空中に黒い裂け目が現れた。その中に適当にメダルを放り込み。ゴブリンの骨はクロエにもらった布で包みしまい込んだ。


 空間収納の中は謎空間で、しまうときはどんなに適当でも謎空間に手を入れて取り出したいものをイメージすることで取り出すことが出来る。大きな物体も単体物として認識出来れば収納出来た。


 逆に水のような液体は容器に入っていないと扱えない事が分かった。


 今現在、手元にあるもので試せることは試してみたが、まだまだ謎スキルだ。


 明日は始まりの塔最終日、シャドウというモンスターを倒して母親を探しに行くんだ。



 今日は色々な事がありすぎて、頭が追いついていかない。


 クロエと挨拶を交わして元の世界に戻る為にアーティファクトを起動させた。


「セーブ」



 意識がすーっと滲んで徐々に意識が薄れていく。


 目を開けるとまた白い天井が僕を出迎えた。

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