穏やかな朝、爽やかな朝に
「ん~、あ!」
お日様の匂いがする心地いい目覚めだ。竜鱗亭のベッドの上だとすぐ分かった。
手足を伸ばし、ふかふかベッドの感触を楽しむ。おー、今日はベッドが広いぞ!
隣には誰もいないし、起こされてもいない。今日は朝も余裕があるしこの素敵なベッドを堪能しよう、二度寝でもす……
「んっ、ん」
ん? 声?
「んっ、 あれ? ココどこ? セレスぅ? あーさー?」
何故が僕の背中の方から寝ぼけてる声が聞こえてくる。ここは昨日と同じ轍は踏まないと僕はシーツを手に取り、飛び起きた。
「えっ? なぁに?」
後ろからアホの子の声が聞こえる。よし、完璧だ。何も問題を起こさずに乗り切ったぞ。マリナローゼさんか、セレスティルさんがクロエを僕の部屋に放り込んだのだろう。
クロエが朦朧としながらベッドに潜り込んだのは流石クロエといったところだな。
「マリナローゼさん! 申し訳ないですが、そう何度も同じ手には掛かりませんよ?!」
シーツを綺麗に折り畳み終わり、振り向くとそこには予想通りクロエが居た。しかしその予想は斜め上に飛び越えられていた。
妖精は一糸纏わぬ姿を惜しげもなく晒していた。肌の内側から滲むような光でシルエットがより強調された恰好だ。
柔らかそうな線で描かれる身体は細すぎず滑らか。均衡のとれた形の胸が目を擦る腕で形を変えて揺れている、そしてそれを支えるくびれも美しさを極限まで追及したようなシルエットでその線は足の先まで伸びている。
それは普段着ている薔薇のドレスを纏った時よりも華やかさを感じる程だった。
本人はトロンとした目を擦りながらぼーっとしている。まだ寝ているんじゃないかと思うほどだ。
僕はそっと畳んだシーツを広げてベッド上に座るクロエに掛ける。そしてクロエはシーツを掛けられるともう一度、寝息を立てて眠りについた。
シーツがかかり、より一層煽情的な身体のラインが浮き上がったクロエ。僕はなるべく見ないように自分の着替えを済ませ、この煩悩に塗れた頭の中を綺麗にする為に部屋を後にした。
鍵を掛けていると竜鱗亭の従業員の方に挨拶をされた。マリナローゼさんに一声掛けて欲しいそうだ。やっぱりクロエを部屋に入れたのはマリナローゼさんか。
そんなことを思いながらフロントに行くとマリナローゼさんは変わらず出来る上司として従業員の方に指示を振っていた。何やら食堂の方の材料が不足しているから市場から仕入れの手配をしている様だった。
「おはよう、ハルカ君。今日もゆっくり眠れたかしら?」
僕を見つけたマリナローゼさんは眼鏡を外すと次々に指示を振っていた凛々しい表情から一変して穏やかな柔らかい表情に変わった。
「はい、お陰様でぐっすり眠れました」
「そうなの? クロエとは仲良くなれた?」
ん? 仲直りではなく仲良く? これはマリナローゼさんが犯人だな。
「朝起きたら隣に居たので、驚きましたが大丈夫です。何も起きていませんよ」
「あら、残念。お姉さん勘違いしていたのかしら……」
なまじ、現実世界で黒江さんと付き合うなんておかしな事が起きるからクロエを見る目が少し変わってしまうのだ。気を付けないと。
「そうそう、食堂でロゼちゃんが待っているのよ。行ってあげてね」
「分かりました! ありがとうございます!」
こんなに朝早くからローゼリスは何の用事なのだろう。誰も居ない食堂にぽつんと美少女が佇んでいた。
「おはよう! ハルカ」
「おはよう、ローゼリス。 朝早くからどうしたの?」
「昨日は途中で寝ちゃったから、それであの後の事をお母様に聞いたらハルカが私を家まで運んでくれたって……」
なるほど、セレスティルさんはローゼリスを仕掛けてきたんだな。まったく、マリナローゼさんと言い、セレスティルと言い、僕を玩具か何かだと思っているのだろうか。
「大丈夫だよ、アーサーさんがローゼリスを家まで運んでたよ。安心して! 僕は鎧とか、荷物を持っていただけだよ」
「そうなの? 良かった。お母様もお父様も意地が悪いわね」
きっとローゼリスの事が大切だからだよ。とは言えなかったが、あの二人がローゼリスに向ける優しい笑顔はローゼリスにもちゃんと伝わっているだろう。
「それでどうしたの? それだけで来たんじゃ無いんでしょう?」
ローゼリスの服装は軽装とは言え、冒険をするような装備だただ話をしに来るような恰好ではない。
「朝の訓練をいつもしているの。良かったら一緒にしようかなと思って」
「おっ、良いね! どんな事をしているの?」
「この時間だと一時間くらい走って、30分くらいは型の練習をするかなぁ」
「それって毎日しているの?」
「当然よ、身体が動かなくなっちゃうでしょ?」
流石クリストフ家、と言った所なのだろうか。それともローゼリスが真面目なだけだろうか。判断を付けかねていると、さっさと行くわよとでも言いたげなローゼリスの視線を感じたので彼女の隣を軽く走り始める。
「私はいつも壁の外を走ってるんだけど、それでも良いかな?」
結構なスピードで走りながらも息切れ一つ零さずに普通に会話するローゼリス、装備も軽いはずはないのに凄い。
「そうだね、いつもと同じで大丈夫だよ」
逆に僕は早くも呼吸が乱れている。
「そう言えば、ハルカって迷子だから基礎魔法って使えるんだよね?」
基礎魔法、確かクロエがそんなことをはじまりの塔で言っていたような気がする。
「血管って、直接魔力器官と繋がっているから、そこに活性化の基礎魔法を使えば体力とかは一時的にだけど向上するって、クロエちゃんから聞いてない?」
またやってくれたなポンコツガイドめ、説明が雑にも程がある。謝罪する気持ちがほんの少しだけ揺らいだ僕はやはりまだ子供だなと思うのだった。
丁度外壁まで走ったところでローゼリスに基礎魔法を教えてもらう。
「それじゃ、起動の魔法陣はこんな感じなんだけどマナで作れる?」
掌にマナを集めてそれで魔法陣を描く。単純な丸を3つ重ねたような魔法陣だった。ローゼリスの説明によると重ね方やそれぞれの大きさを変えると効果が変化しするらしい。個人差がある魔法なので、何度もその人にあった魔法陣を試して使うのが一般的とのことだ。
魔法陣を作った掌を左胸、心臓のあたりに当ててマナを放つイメージ。これも個人差があるようで、僕は効果が感じられるまでに3回挑戦することになった。
「うわっ、ナニコレ? 自分の身体じゃないみたい!」
「最初は皆そうなるよね、慣れるまではあんまり激しく動かさないようにしてね」
「分かった!」
そう言いながら軽くジャンプすると50cmくらい視線が上がった。おかしいだろ、人間の体はこんな風には作られていない。
軽くなった身体を調整しながら外壁の周りを走っていく。徐々に身体にマナが馴染んでいくような気がする。
「やっぱり選定者って凄い力を持っているのね」
普通はこんな風に能力が急に跳ね上がったりはしないという。そう思うと僕の適性職業は村人で丁度良かったのかもしれない。
気付くと塔の近くの森まで走っていた。そういえば、ココでレモバの葉をクロエと二人で集めたなぁ、とつい先日の事なのに、かなり時間が立っているように感じてしまった。僕は、近くにあったレモバの葉を一枚摘み取りインベントリに収納した。
そのあと、ローゼリスに組み手の型を教えてもらって来た道を同じように二人で走った。
時間が合えば同じように朝の訓練を一緒にすると約束をした。
街に戻るころには朝早くからイニティの街は活気づき、人々がそれぞれの営みを始めていた。
竜鱗亭は今日も活気で満ち溢れている。食材のトラブルがあったなんて微塵も感じさせない料理の数々は、この店の従業員さんたちの努力の結晶であり、素晴らしい御馳走だ。
僕とローゼリスは二人掛けの小さなテーブルに座り、竜鱗亭の朝食に舌鼓を打っていた。
「おっはよぉ! 今日も仲がいいねっ! 二人とも!」
「おはよう、クロエちゃん! クロエちゃんもすごく元気だね!」
「そうだよっ! 竜鱗亭のスイートにタダで泊ってたからね!」
「えっ? またハルカの部屋に居たの?」
「えへへっ、タダであんないい部屋に泊れるなんてなんて贅沢! しかも朝食付きだしね!」
美少女と可愛い系妖精が仲良く会話する朝の竜鱗亭での一幕、素敵だなと思いながらも頭の中に今朝から見た妖精の素敵な裸体と昨日見た美少女の下着姿が頭を掠めてしまう。僕は健全な男子でダメなやつです、ごめんなさい。
「クロエ、昨日は酷いこと言ってごめんね。昨日セレスティルさんにも言われたけど、アレは今考えなおしても最低だったと思う。許せないかもしれないけど謝らせて」
「ハルカ、いいの! 私がポンコツなのは変わらないし、それに昨日アレだけ言われてなんか吹っ切れたし。その代わりに、これからも一緒に居てね! よろしくね!」
時々のぞくドレスの谷間に視線がつられそうになるのをグッとこらえて僕は差し出された小さな手をとり仲直りをしたのだった。
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