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魔法と選ばれし者

 階段を登りきった先、はじまりの塔の二階も薄暗く目が慣れていなければ奥から現れたそいつに気づかなかっただろう。


そいつは既にボロボロな状態だった。泥と垢がついた皮膚に手入れされていない髪の毛と爪、服装は腰の周りをかろうじて布切れが隠している。


 そして手には刃こぼれしてまったく切れないであろう長めのナイフが握られていた。


クロエが言っていたように姿はまさにゴブリンだった。元の世界でゴブリンを見た人は此処に来た事があるのだろうか。


「オレ、オマエ、コロス」


 明確な殺意とともにゴブリンは低い身長をさらに低くしその身体に似合わない大きさのナイフを構えた。


 対してこちらは右手にこん棒を握りしめ、左手の火の魔法呪符をゴブリンに向けてかざす。


 ゆっくりと距離をつめるゴブリンに対して掲げた左手の呪符にマナを流し込む、呪符に描かれた陣が空中に展開される。あとは僕の意思一つで火球を飛ばすことができる。


「この魔法でハルカはゴブリンを殺すんだ」


 クロエの言葉が脳裏をかすめる。


 撃とうとおもえばいつでも打てた。ゴブリンは避けるそぶりも警戒するそぶりもなくただまっすぐに歩いてクル。


 しかし撃てなかった。


 生き物を殺すなんて、それにいくらモンスターといえど人と同じような姿をしているゴブリンに魔法を撃ち込むなんてできなかった。


 左手の周りに展開されていた陣は消え呪符の中に戻っていった。


 そしてゴブリンのナイフの間合いに入った。


 大きく振りかぶったナイフはどこをめがけて振り下ろそうとしているのかがはっきり見えた。


 その軌跡の真ん中にこん棒を滑り込ませ、そのまま武器をはじき返すように押し切った。


「でやぁ!」


 ぼろぼろのナイフはこん棒に少しだけ食い込み、ゴブリンの手から離れた。


 ナイフが耳障りな金属音をまき散らしながら床を転がる。


 大きく態勢をくずしているゴブリンめがけてこん棒を振り切った。


 ゴブリンのがら空きの胴体にこん棒がめり込む。鈍い手ごたえと何かが砕ける感覚が手に伝わる。


「グゲっ」


 カエルの鳴き声のようなつぶれた悲鳴が上がりゴブリンは後ろに吹き飛んだ。


 しかしまだゴブリンを殺せてはいない。


「お、オマエ、コロ ス」


 よろよろと起き上がり、落としたナイフを拾いに戻る。

 言葉とは裏腹にナイフを拾うためにこちらに背を向けて覚束ない足取りで進んでいく。


「いまだよ、魔法を放つんだっ!!」


 いくらモンスターでもここまで戦力差があると罪悪感がわいてくる。


「もうやめようよ」


 こん棒を握る手にゴブリンを殴りつけた時の生々しい感触がよみがえる。


 弾力のある手ごたえから固い骨にあたり、骨が折れ、さらに体にめり込む。


 生き物を打ちのめす感覚。


「オ マエ ナグッタ オレ コロス」


 変に意思疎通できてしまう分、どうすればいいのかわからない。


「この先に進むにはこいつを殺さなければ進めないんだ」


 クロエが叫ぶ。


「でも、こんなのは間違ってるよ」


「ミンダ シンダ オレモ ソコイク」


 間違っているよ。こんなこと


「オレオ コロセ ユウシャ コロセ」


 ゴブリンの様子が変だ、負傷して戦意が失われたのかもしれないが、


 コロスがコロセになってる。


「君がとどめを刺さない限り、彼は苦しみ続けるんだ」


「早く、魔法を!!」


 クロエの言葉で気づいた、もうゴブリンは死にたがっている。


 僕が終わらせてあげるんだ。


「ミデナ・ベリト・炎よ放て」


 左手の呪符から陣が描かれ掌から炎の塊が放たれた。


 至近距離で放たれた炎はゴブリンの腕に着弾すると、全身に広がり、ゴブリンの肌を焼いていく、マナが直接変換された炎はなかなか消えずにゴブリンを包んだまま勢いよく燃え盛る。


 炎の中でゴブリンが何かをつぶやいた気がした。



 そのまま肉が焼ける匂いがあたりに立ち込め、ゴブリンの意識が途絶えると床に吸い込まれるように炎とゴブリンは消えていった。


「よくやったね、これで先に進めるよ、これで残りはあと一匹! 明日にはもとの世界に戻れるよ!」


 クロエは意図的にそして、無理をしてテンションを高くしているように感じた。


「これでよかったのかな。これでよかったんだよね?」


 クロエは返事を返してこない。


「これで、よかったんだよね?」


「君がここに来た時点で、昨日のスライムも今日のゴブリンも死ぬことが決まっていたんだ。ただ、その決まった事を君がその運命にしたがって行動しただけだよ」


「でも僕は倒さない、殺さない事も選べたんだ」


「それは、彼らの代わりに自分が死ぬってことだよ?」


 気づいていたんだ。どちらかが死ななければならない事を、そしてそれを理解した上で自分の運命を受け入れていたんだ。


 それなのに僕はいたずらに時間を伸ばして、彼を苦しめた。


「君の優しさは忘れないよ」


 ゴブリンが倒れた後にはゴブリンの骨が残っていた。

 尖った先端に緩やかなカーブを描く肋骨にあたる骨なのか、おそらく僕が折った骨だろう。


 その骨を拾い上げ僕はクロエに渡す。


「この骨をどこかに埋めて弔いたいんだけど、どこかいい場所はないかな」


「んー、そうだね、場所は探しておくよ、でもこれはあたしは受け取れないかな、君の戦利品だからね」


「そうなの? でもこのまま持っていたら向こうの世界に持って行っちゃうでしょ?」


「え?」


 クロエが固まった。


「…え?」


 僕も固まった。



「えぇぇええ~!」


 なんだそれ、そんなに驚くことなの?


「もしかしてもしかして、昨日のメダル向こうの世界にあったの?」


「そ、そうだけど。え、なんかまずかったの?」


「じゃあ、そのアーティファクトは?」


「アーティファクトは…...あれ? そういえば見当たらなかったよ」


 クロエがあわあわしている。どうしたんだろう。


「君、もしかして選定者なの?」


選定者? 何のことだろうと僕が顔を傾げるとクロエも同じように首を傾げて見つめ合った。

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