英雄のパーティー
この状況を呆気に取られていたクマ所長とサラさん。ようやく通常通りに戻ってきたのかクマ所長が口を開いた。
「ハルカ君、君は凄い人たちと知り合いなんだね! あの二人は二つ名持ちの冒険者じゃないか!」
二つ名? そんな恥ずかしいシステムが採用されているなんて!
「”両刃の剣”エドガー ”鬼咬”キヅナ ”異端審問”ミナート ”断頭台”マリナ ”雪嵐”セレスティル 戦後第一世代と呼ばれた時代の最強パーティのうちの二人が揃ってダンジョンに訪れるなんて凄いことだぞ!」
クマ所長は興奮気味に僕らには伝わりにくい説明をしてくれた。
「えっ? エドガーさんてってあの剣の有名な”両刃の剣”だったんですか?」
サラさんまでエドガーさんの二つ名を知っているらしい。よく小説などの物語には異名や二つ名が登場するが大概のものが名前より長く仰々しいものが多い。レヴェラミラでも例に漏れない世界だったようだ。
ちょっと待って? セレスティルって名前以外聞いたが覚えがある気がするんですが、ミナートさんはエドガーさんの師匠だしきっとあのミナートさんだろう。”断頭台”マリナって……マリナローゼさんの事では無いことを祈ろう。”断頭台”って二つ名が付くような活躍って……出番だ! 僕のスルースキル! 華麗に仕事をするんだ。
「やっぱりエドガーさんてただものじゃなかったんですね。いや、なんかオカシイと思ってたんですが」
「何よ、ハルカはエドガー様の事を知らなかったの? エドガー様はラインバルド家の元当主だった人よ!」
「まさか?! ラインバルド家の方でもあらせられたのですか?! しかも当主とは!」
クマ所長は顎が外れるかというくらいに口を開けて驚いている。
「なぜラインバルド家の方が冒険者ギルドにいらっしゃるのですか?! いや、私たちでは計り知れぬ何か深い理由があるのでしょう。この事は他言しませんので、ご安心ください」
「大丈夫よ、エドガー様ご本人はラインバルド家を出たと思っているし、もう関係ないとも言っていたわ」
ローゼリスは少し誇らしげに憧れの人の事を説明している。
話に全然ついていけていない僕はうんうんと頷く事しかできていない。とりあえず今はこの場を誤魔化して、後でローゼリスにエドガーさんの事やラインバルド家の事を聞いてみよう。
「それで、僕は母に呼ばれてこの世界に辿り着いた迷子の選定者という事でエドガーさんに親身になってもらっているんです」
「英雄のパーティに選定者か! クワリファダンジョンに未だかつてこんな事があっただろうか?! 冒険者ギルドで依頼を掛けても新人が腕試しに来る程度で報酬金額を上げなければ見向きもされ無かったダンジョンが! これでもう同期に社内ニートやら、給料泥棒なんて言わせないぞ!」
地の底から響くような雄たけびを上げるクマ所長。苦労されているんですね。その雄たけびを隣で聞いているサラさんはどんな気持ちなんだろう。
あれサラさん? あんなにアグレッシブな所長さんをガン無視して、なんかキラキラした目でこっちを見てる? え、どういう事? よし、よくわからないからスルーしよう。
「話は戻りますが、接近戦の訓練ですが……」
「それはもちろん私が相手をさせていただきます! エドガーさんから基本を教えられた内容を繰り返し訓練する形になりますが、手取り足取り教えて行きますので! 覚悟しておいてくださいね!」
「……よろしくお願いします」
終始力強いサラさんに圧倒されてしまう。
「それと、効率よくフロアを攻略していくためにも1日2階層までの攻略にして行きましょう。少人数での攻略で無理を押してまで進む必要はありません。確実に攻略していきましょう!」
さっきまでは狩りをするような目をしていたサラさんは今度は心配そうな表情で僕とローゼリスを見ている。やっぱりサラさんは面倒見の良いお姉さんといった感じだ。
「ありがとうございます! これからもよろしくお願いしますね!」
「任せなさい! ビシビシ指導していくからね!」
あれ? またさっきの目に戻ってる。舌なめずりまでして、獣人の狼の部分がでせしまったのだろうか。ちょっと怖い。クマ所長は相変わらず被り物の奥の方から「見返してやる」とか「すぐに7大坑道の管理者だ」とか言っている。ダンジョンギルドは少し変わった人が多いのかもしれない。
明日はまたエドガーさんの講習があるのでダンジョン攻略は一日お休みだ。サラさんはまた助手として呼ばれているらしいので挨拶を済ませそれぞれが帰途についた。
クワリファダンジョンからイニティに帰るのも馬車だった。夕陽が落ちてからも空は明るく、元の世界の夏のように昼間が長く感じる。元の世界と同じようにレヴェラミラも季節があるのだろうか? 向こうと同じく夏なのだろうか? そんな疑問が沸いてきたが今は尋ねる人がいない。何故かという問いの答えは僕の肩の上にあった。
心地よい髪の質感を僕の頬が感じながら、どうにかローゼリスを起こさないようにと身体の位置を微調整しながら僕はなるべく動かないように頑張った。
「エドガー様……」
消え入るような小さな声でエドガーさんの名前を呼ぶローゼリス。少しだけ、ほんの少しだけ自分の名前では無い事に胸が痛む。裁縫用の細い針でチクリと軽く刺さるような痛みに僕自身が驚きながらも、ローゼリスの寝顔を眺めながらイニティへの道をゆっくりゆっくり進むのだった。
イニティの街に付くなりローゼリスは僕に謝ってきた。
「ごめんなさい! 寝ちゃってたね」
「大丈夫、今日はダンジョンに入ったり色々大変だったから」
「そうね、でもこれくらいで疲れてたら30層まで持たないわ、体力もちゃんと付けなきゃね」
やっぱりローゼリスは真面目だ。この真面目さを僕の知っている妖精にも分けてあげたい。
その妖精がいるであろう冒険者ギルドまで戻ってきた。
「おかえりなさいませハルカ殿。先ほどは突然去ってしまい申し訳ありませんでした。ランクの高い素材の依頼を掛けましたので少し時間が掛かると思いますが必ず良い素材を手に入れますのでお待ちいただければと思います。例えどんな手段を使ってでも集めてご覧に入れますので」
最後のフレーズが少し気になったのだが、エドガーさん職権乱用してませんよね? 他の冒険者からカツアゲまがいの事なんかしないですよね。紳士ですもんね。
「それで昼間のお話なのですが、テュルカ神聖教国でのレツスの流通を開始させました。
やはり、オーバーブーストでの住民への被害もあがってきました。しかし、この状況に対して、テュルカの聖女様の活躍で予測よりトラブルが広まらずにすでに鎮静化されつつあるようです」
自分の判断で何の罪もない住民達がレツスを食べて狂暴化し問題になっている。レツスを購入しているのはレツスを購入する意志があり、自ら望んで摂取しているある意味悪人だ。しかしその狂暴化した悪人の中には見境なく暴れる人間もいるだろう。その時にはまったく無関係な住民に被害がでる。
そんな中被害を少なくするために活躍する聖女様は本当に素晴らしい人なんだろう。こんな人が自分の身内だとしたら誇らしい事だ。
しかしその活躍は僕がテュルカの枢機卿に接触するためにこんな事をしているかと思うと胸の内側は複雑な思いが絡み合っている。
「少し流通量を増やし、枢機卿がこちらに接触を図ってくる程度に被害を拡大させたいと考えていますが、それで宜しいでしょうか? もし心が痛むようならば、私の方で判断して進めさせていただきますが……」
やはりエドガーさんは心が読めるのだろう。もしくはそれほど僕の表情や態度にこの件に対する嫌悪感や罪悪感が出ていたのかもしれない。しかし、これはテュルカ神聖教国がこちらに対して行おうとした事でもあるんだ。この被害がイニティで出ていたとしたらテュルカの枢機卿を許せなかっただろう。
「エドガーさん……」
「大丈夫です。これはハルカ殿に関わる事ではありますが、ハルカ殿が心を痛める事ではありません。世界は私たち一人一人が与り知らぬところで回っているのです。一体誰が、どれほどの生き物が毎日天体の回転数を気にして生きているのです? 今日も日が昇り、日が落ちる。その間に自らが何を行うか、何を選択するのかが重要な事ですぞ」
「本当にエドガーさんはエスパーかなにかですか?」
「私は魔法の類のセンスはありませんよ」
レヴェラミラの言語理解でエドガーさんにどのように伝わったのか微妙なところだが、エドガーさんの絶妙な微笑にはぐらかされてしまた。
「僕の目的は母を探し出し、連れ帰る為にここに来ました。関係ない人を巻き込むのは嫌ですが、それを躊躇っていては母を探しだす事すら出来ないということは分かりました」
今自分で口にしていても納得ができない。僕の一言で、不幸になってしまう人が出てきてしまう。それでも僕は母さんを連れ帰りたい。悲しい思いをさせてしまった母を助けたい。
「お願いします。僕に力を貸してください」
「畏まりました。ハルカ殿。このような老体ではございますが、引き続きお力添えをさせていただきます」
エドガーさんは絶妙な微笑から凛とした表情になり、僕の肩に手を置いた。
「必ずや見つけ出して連れ帰りましょう」
「はい!」
僕は決意を固め、元の世界に戻った時に父さんに伝える事を考えた。僕の決断が間違った者だと怒られるかも知れない。僕の考えは甘いのかもしれない。それでも家族にだけは、ちゃんと正しく伝えなければいけない。僕はそう思ったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
面白いかもしれない、とか続きが気になるよ?と感じたら画面下部から評価して頂けるとありがたいです!
今後の展開にもご期待ください!よろしくお願いします!
もしお時間ありましたらどんなものでも構わ無いので感想とか頂けると有り難いです! レビューなんかされた日には飛び上がって喜びます!
よろしくお願い申し上げます。




