魂を込めた一振りの刀
「ふーん。そうなんだー。ふーん」
現在僕は追い込まれている。テーブルの隣にはなぜかサラさんが密着といっていいほどの距離で座っている。ほんとうにただ触れていないだけといった感じだ。
ダンジョンの中の雰囲気を掴む目的で今日はダンジョンに入ったが、そこでローゼリスと連携を取りながら進んだという報告が気に入らなかったサラさんはその部分を徹底的に追及してきた。
「大体のモンスターはローゼリスの剣で倒せて、僕は全然接近戦は出来なかったんで、今度は接近戦でも活躍出来るように訓練したいんですが、誰か訓練してくれる方がいたらなーなんて」
「私がやる! 私がやります!」
ギリギリ触れていなかっただけの至近距離で大きく動くサラさん、どこがとは言いませんが当たってますよ。とっても柔らかいです。
「所長! 構いませんね?!」
「あー、うん。好きにしてくれ」
「はい、好きにします!」
「ということでダンジョンから戻ってきたら報告と接近戦の訓練、特に体術を中心に行います! いいですか! 必ず戻ってきてくださいね! 必ずですよ!」
サラさんは最初に会った時の印象とはかなり変わってしまった。それでも、何かに一生懸命になる姿は見ていても気持ちがいい。うん、サラさんが密着していて気持ちがいいというわけではない。
「それとローゼリスさん! 接近戦もいいですが、やはりミドルレンジからの攻撃や先制攻撃をしかけられるようなスキルが必要だと思いますので、少し考えておいてください!」
「はい!」
サラさんの勢いに驚いたローゼリスは背筋を伸ばして返事をしている。なんだか共通点は無いけど何処か二人は似ている気がする。
低い身長でふわふわの耳としっぽをもつサラさんがぼくと同じくらいの身長のローゼリスを叱っているようにアドバイスをしている。なんだか微笑ましい光景だ。
「ところでハルカ君、君のマナは凄い勢いで膨れ上がっているんだが、なにか原因に心当たりはないかい?」
恰好はアレだが、真面目なクマ所長に言われて初めて気が付いたが確かに最初に魔法を使った時よりも体内のマナが増えているように感じる。
「元の世界でも魔力器官を鍛えるようにしているからでしょうか?」
思い当たるのはそれくらいだ。それ以外の理由なのだろうか。
「そうか、それにしても凄い勢いで成長するね君は。どの職業適性なんだい? やはり魔法使いかその上位互換なのかな?」
「いえ、村人です」
「まさか!? そんなはずは無い。こんな村人適性はあるはずがない。他の理由があるのだろう。本当に思いつくことは無いのかい」
「マナが増加する理由……」
「例えば皆に隠れて”レツス”を食べているとか……」
「あ! まさか?! インベントリ!」
僕は気付いてしまった。僕は急いでインベントリを開き、中身を確認する。思った通りだ、インベントリの中にあるはずの”レツス”が半分以上無くなっている。そしてキヅナさんから預かっている妖刀の品質がSSSになっている。
一度持ち主を決めた妖刀は接続状態になり、マナを吸収し続けるとキヅナさんから説明を受けていた。妖刀がレツスを吸収し、過剰に吸収した分が接続しているぼくに逆流して来たという事だろう。
慌てて妖刀を取り出して見るとあったはずの木目が無くなり真っ黒になっている。重量が凄まじかった木刀はほとんど重さがなくなり、手に持つだけでマナが身体に流れ込んでくる。
「何なんだい?! その禍々しい木刀は?」
「知り合いから渡された訓練用の妖刀・木刀です。まさかこんな風になっているとは思いませんでした!」
クマ所長が言う通り全体から赤い湯気のような煙が漏れ出しており黒い本体と相まってかなり毒々しい雰囲気を放っている。
「まさか、こんなにも早くマナを溢れさせるとは……」
「流石ハルカ殿ですな。」
ダンジョンギルドの入口から入ってきたのはキヅナさんとエドガーさんだ。
「素材を集めてはいたがまだ全然集まってねぇ、エドガーの旦那なんとかしてくれ」
「分かりました。こちらで必要な残りの材料は手配しましょう。ですが数日は待ってください。」
「構わねぇよ。俺はこれがすげぇ刀になるところを見れるんだ。そんな奇跡に時間も金も惜しんでられるかよ!」
「それではハルカ様、お伝えしたいことがございましたがこちらの方が急ぎますのでまた後で冒険者ギルドまでお越しいただけますかな?」
「はい、構いませんけどお話はいいんですか?」
「大丈夫ですよ。それではまた後ほど」
それだけ言うとエドガーさんはすぐにダンジョンギルドから出て行ってしまった。
「おめぇさん、これをどうやってここまで育てたんだい?」
「おそらく僕のスキルでレツスと一緒にしていたらこいつが食べてしまったみたいです」
「カッカッカ! 妖刀がレツスを食べた?! そんな馬鹿みてぇな事も起こせるのかよ!」
キヅナさんは腹を抱えて大声で笑い始めた。
「ハルカよ! おめぇさんは面白れぇ、特別な一本を必ず作ってやるからな。」
思い切り背中をバンバンと叩くキヅナさん。僕とキヅナさん以外はみんな固まってしまっている。
「それじゃあ前祝いだ。前にくれてやった刀を出せ」
腰に佩いていた刀をキヅナさんに渡すとキヅナさんは持ってきた鞘と交換し始めた。
「一体何を……」
質問した時にそれは起きた。
「キヅナか……何故我を起こしたのだ」
刀が喋った?!
「久しいねぇ。オウガ、元気だったかい?」
「我は眠い……元に戻せ」
けだるそうな声はどう聞いても刀から聞こえる。
「残念だがそうは行かねぇ」
「今日からおめぇさんはこの選定者さんと旅にでるんだ」
「知らん……鞘を元に戻せ」
キヅナさんはふっと笑いながら黒拵えの鞘に妖刀・木刀を差し込んだ。幅も厚みも長さも全て合わないはずの刀身は全て飲み込まれ、鞘と一体化した妖刀・木刀が出来上がった。
「まさか、そんなことがあるはずがない」
「あるんだねぇ、これが」
「我がアレにどれほどのマナを吸わせたとてもそうはならなかったぞ」
「まぁよかったじゃねぇかおめぇさんの夢が、悲願が叶うときが来たぞ」
刀と語るキヅナさんはとても嬉しそうに喋りかけている。
「驚かせちまったな。こいつは謳牙、俺のご先祖さんの魂が入っている刀だ」
これまで何度となくこの世界に来てから驚くことがあったが、これが一番だろう。なんせ刀が喋っているのだ。スピーカーもない、AIもない。一体どんな理屈で刀が喋るというのだ。
「そうなんですか、凄いですね」
驚きすぎてまともなリアクションが取れない。
「貴様が妖刀をあそこまで育てたのか? どうみてもガキだぞ」
「ハルカはガキじゃないよ!」
ただただ傍観していただけだったローゼリスがムキになって言いかえした。
「ハルカはちゃんと大人だよ!」
「何だ小娘、まだお主の方が強いではないか。キヅナどういう事か説明しろ」
そしてキヅナさんは大方の説明をして、これから僕のために妖刀・木刀を素材にして刀を打つと言ってくれた。
「なるほどな、ヒヒイロカネと魔晶石は揃っているのか?」
「ヒヒイロカネは足りてねぇし魔晶石は一つもない。これから集めるのさ」
「なんだ、お前は本当に出来損ないだな」
「もう一遍言ってみな、へし折ってやるよ」
一通りのやり取りが済んだのか、オウガもキヅナさんも黙ってしまった。
「あの、それで、僕はどうしたらいいでしょうか?」
「わりぃな、妖刀とお前さんの接続はこの小烏丸の鞘で切っちまったよこれ以上はマナを消費しちまうだけだからよぉ。それで、同じ特性をもったオウガを解放したんだ」
カッカッカと豪快に笑うキヅナさん
「訓練用の刀はそれで頼むよ、それと魔晶石はハルカに見つけてもらいたい。おそらくクワリファダンジョンの隠されたフロアにあるはずだ、それを持ってきてくれ」
「分かりました、魔晶石ですね。必ず見つけます」
「いい返事だ。我も手伝おう」
「はい、オウガさんよろしくお願いします」
「早速だがマナを少し貰えぬか? このまま我を手にしてくれれば良い」
キヅナさんからオウガを手渡される。
ドクン、そんな音が聞こえるくらいに魔力器官から一気にマナが消失した。
妖刀・木刀のように遠慮することもなく吸い上げられた。意識を失いかけるが、ギリギリで持ちこたえた。
「ほう、なかなか気概はあるようだな」
「はははっ、よろしくお願いします」
ここにクロエがいたなら、また刀を放しなさいって言ってくれたんだろうか。そういえばあいつまだ酒飲んでるのか、何だか腹が立ってきた。
「大丈夫? 顔色悪いよ?」
ローゼリスが駆け寄って来てくれた。
「ありがとう。大丈夫だよ」
「お前は行かなくてよかったのか?」
「私は私のポジションがあるんです!」
遠くでクマ所長とサラさんが何か話しているがよく聞こえなかった。
「よっと! 我の刀を返すがよい。」
急に現れた子供は着物を動きやすくしたような服装で刀を持ち。鞘から抜きはなった。
「これが我か、見っとも無い姿だな」
正面に掲げて眺めていた刀を鞘に抜き放つよりも速く鞘に納刀する。
「凄い、全然見えなかった」
ローゼリスが驚きながら子供を見ている。
「ふん、所詮その程度か。現世は程度が低いようだな」
「調子に乗るなよ、オウガ」
キヅナさんはその子供の事をオウガと呼び、頭を妖刀・木刀が収まった鞘で叩いた。
「キヅナよ、先祖をもっと敬え」
「オウガさんって、実体化もしちゃうんですね」
マナをごっそり抜かれた僕は息切れしながらも何とか喋りかけた。
「マナが必要だ、我をあまり頼るなよ? 眠いので戻る」
僕はオウガから刀を受け取ると子供の姿のオウガは霧となって消えていった。霧が僕の身体に触れるとオウガに渡したマナの半分くらいが戻ってきた。
「まあ気難しいヤツだが、戦闘能力は割と高かいんだうまく使ってくれや」
マナ不足が解消された僕は大切に刀を腰に納め、キヅナさんからオウガの取り扱いの説明を受けた。
「改めてよろしくお願いしますオウガさん」
「我は眠る。必要な時以外は声を掛けるなよ?」
ぶっきらぼうにそう言ってオウガは黙ってしまった。本当に刀の中で寝ているのだろうか、想像するとかなり可愛い感じだ。やけに古めかしい言葉遣いと見た目のギャップやけてしまう。
「それじゃあ俺も用事は済んだ、話の腰を折っちまってすまなかった。繰り返しになるがハルカの武器は訓練と攻略も兼用で謳牙をつかってくれ、こっちの妖刀・木刀は素材で使うが構わねぇな?」
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします。あと、出来ればマナを吸収する鬼木があれば譲って頂きたいのですが」
「おぉ! 活きがいいねぇ。見付かったら持っていくさ」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
キヅナさんは片手をあげてここに来た時と同じようにふらりと出ていった。
ダンジョンの内部の確認報告の前に、僕の装備の調整が入ってしまった。あまりに突然の出来事で、クマ所長とサラさんはきょとんとしたままエドガーさんとキヅナさんを見送るしかなかったようだ。
「あれってもしかして……」
クマ所長のその一言でこの後一気にダンジョンギルドの中は騒がしくなったのだった。
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