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馬車の車窓から眺める景色

 クワリファダンジョンまでは約2時間程、ゆっくり流れる車窓からは大きな積乱雲が見えている。前回クワリファダンジョンに行った時はルガンさんと二人で馬車の御者台から見る景色だったが、今日は荷台に備え付けられた座席からの眺めだ。


 同じ道のりでも視点が変われば見えるものも変わってくる。今日は隣に厳つい兄貴ではなく、少しだけ露出度の高い鎧を着た素敵な少女が座っている。


 馬車が揺れるたびに白く艶やかな髪がなびき、ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。隣に座っている彼女は何を考えているのだろう。出会って数日しか経っていないがこんなにも一緒に居ると勘違いしてしまいそうになる。


「馬車ってなんだかのんびりね」


 ふいにローゼリスが喋り始めた。


「普段は自分で馬に乗って出かけるから、ゆっくり進むのも悪くないわね」


 ちょっと顔近いんですが、ローゼリスさんどうしたんですか。


「何か違うと思ったら、クロエちゃんが居ないのね」


 びっくりした。僕の後ろにクロエが居ないのか確かめたのか。かなり顔が近くにきて焦った。


「アイツは今頃冒険者ギルドで酒盛りしてるよ。ホントにどうにかしてほしいよ」


「そうね、ハルカとクロエちゃんはセットだもんね」


 しっかりして欲しいって所には共感してくれてるんだろうけど、なんか僕まで馬鹿にされているみたいだ。


「クロエちゃんと二人でいるところしか見てなかったけど、ハルカって一人でいると案外普通よね」


 なんだろう、馬鹿にされている流れから更に馬鹿にされているのだろうか。少しの間反応が取れずにいたら慌てたローゼリスが言葉を付け足した。


「ちがうの! なんか選定者って過去の偉人の人たちしか知らないから、ハルカが普通の男の子で、なんかその……」


 付け足した言葉は尻すぼみになって黙ってしまった。


「そう、特別な感じじゃないから凄いなって」


 特別じゃないから凄いとはどういう事だろうか。でも言いたいことはなんとなく分かるような気がする。


「能力があるからって偉いわけじゃないからね。僕は普通の人間だよ」


「そう、そういう所が今まで私が会ったことのない人だから。私の周りには顔色を伺うような人と、傲慢に接してくるような人しかいなかったから」


 ローゼリアはどこに行ってもお嬢様と呼ばれるように位の高い身分なのだ。同等以上の貴族でおごり高ぶらない人というのは僕が思っている以上に少ないのだろうか。とにかくローゼリスは今まで対等な立場の友人というのが少なかったので僕のようなヤツが珍しく感じるのか。


「僕はただ、母さんに呼ばれてこの世界に来た。それだけの18歳の子供だよ」


「それは違うわ、この世界では15歳で成人だものこっちにいるときは立派な大人よ! 私もね!」


 自分も子供扱いされたのが嫌だったのかなぜかむきになるローゼリス。


「まだ子供だよ、まだ何も出来てないしね」


 頬を膨らませ怒っている表情をするローゼリス。白い肌が膨らんでいてお餅みたいだ。


「ほら、そんな顔をする大人は見たことがないよ」


 ほっぺたをぷにっと突っついた。しまったつい可愛くて手が出てしまった。元の世界だったら絶対やらないようなことをなぜかこっちの世界ではやってしまう。女性との距離が近いせいだ。気を付けないと。


「そうね、確かに子ども扱いされて怒っているうちは子供ね」


 自分のしていた事が恥ずかしかったのか照れ笑いして誤魔化すローゼリス。


「私は今まで特別扱いしかされてきてなかったように思うの。だからこんな風に誰かと喋るなんて自分でも思わなかった」


「僕も女の子のほっぺたをつっつくほど大胆な男だとは思わなかったよ」


「それって同じようなことのなの?」


 あははと二人で笑う。こんな風に女の子と笑って話せる日が来るなんて思わなかった。


「ありがとう」


「それ私のセリフでしょ?」


 馬車に揺られる中で僕たちは色々なことを喋った。


 僕の元の世界の学校の事、ローゼリスのレヴェラミラでの学園の話。世界は違うけど、大体同じような内容だった。面白い教師の話や勉強の話、友人の話、恋愛の話、最後はなんでこんな話してるんだっけと二人で笑いあった。


「そろそろクワリファダンジョンだね」


「前にここではやらかしてるからあんまりいい思い出は無いんだけど」


「何をしたの?」


「知らないあいだに盗賊ギルドの手伝いをしてたんだ」


「え? それ大丈夫?」


「まあ、色々あってエドガーさん達に助けられてこの仕事を引き受けたんだ」


「そうなの? 良かったわ。ハルカが無茶してくれて」


「なんでだよ、てかクロエみたいな事言うなよ」


「だってそれがなかったら一緒にダンジョンの解放を引き受けれなかったでしょ?」


 言われてみればそうだ、僕がルガンさんに唆されてなかったらこの仕事は受けていなかっただろう。


「そうだね、何がきっかけなになるか分からないね」


 そんな会話をしていると馬車がとまりダンジョンギルドの前に付いたようだ。


「お待ちしていました! ハルカ君、ローゼリスさん、改めましてよろしくお願いします!


 出迎えてくれたサラさんは丁寧にお辞儀をした後、僕に胸の谷間を見せつけるように腕を掴んて僕を引き寄せた。


 僕よりも身長が低く身体の線も細いのに凄い力だ。ピンと張った犬耳が首元に当たってくすぐったい。


「ちょっと、サラさん距離が近すぎですよ! ゼロ距離ですって」


「あわわ、すみません、つい思っていることをしてしまいました!」


 えっと、慌ててて考えてたことを口にしてるってのは聞いたことがあるけど。考えてたことを体が勝手にしてたってそんなことあるかいっ。心の中でしっかりとツッコミをいれつつ僕は気にしないでくださいと大人な対応をした。


「それでダンジョンですがこちらのギルドの裏手が入口になっています。ダンジョン内のモンスターがあふれ出てこないように定期的に狩りを行って居ますが、それでもここ5年は下層の解放が行われていないのでモンスターの増加速度は徐々に上がってきています」


 この世界のダンジョンとは異世界とつながるトンネルのようなものらしい。解放されていない階層からはモンスターが一方通行のようになってしまうので徐々にこちら側でモンスターが増えてくる。そして、倒してもマナが残留し、他のモンスターの成長や発生原因となってしまっている。


「できれば今年中には解放をしたいと思っているのでご協力をお願いいたします。それではこちらが各階層のモンスターの分布と攻略法をまとめた資料になります。今一度目を通していただいて着実に道を切り開いていってください」


 私も一緒にとばかりに力強く拳を握り、ぐぐぐとガッツポーズをとるサラさん。


「お前はここで留守番だろうが!」


 そんなサラさんの頭をポンと叩くクマのような影、もとい熊だ。



 奥の部屋から現れた熊は僕らに話しかけてくる。


「このギルドの管理監督責任者のクマだ。よろしくな」


 いやぁ、凄く熊ですね。名前から何から何まで熊ですね。


「よろしくお願いします」


 僕の隣で普通に挨拶するローゼリス。やっぱりこういう獣人の種族も居るのだろう。普通に接している。


「所長、変な被りものは止めてください。ハルカ君が困ってるじゃないですか!」


「おーすまんすまん」


 謝りながら精巧にできている熊の被り物を脱いだクマさんは普通に人間だった。被り物から出ている部分は眼鏡を掛けた30代前後の神経質そうなおじさんだった。


「私がここの管理監督責任者のクマだ。よろしく」


「所長、その挨拶二回目だからローゼリスさんまできょとんとしてますよ! ちゃんとしてください!」


「名前は本当にクマという名だ。そして責任者というのも間違いない。ただ、悪ふざけが好きなだけだ」


 本当に良くわからなくなってきた。クマの恰好をしていたクマさんの本当の名前もクマさんということだ。


「少人数でのダンジョン攻略については二人とも理解しているだろうか?」


 ふざけた恰好のまま説明し始めたクマさんにローゼリスが答える。


「はい。解放の条件についてダンジョン内のパーティー数の制限や人数の制限がある場合があると聞いています。そして今回は1パーティー2名名編成での攻略を行うということで依頼を受けています」


「そう、ほとんどの人数制限とパーティー数の制限をクリアできる条件だ。今回はSランクの冒険者ではなく、選定者のハルカ君の協力の元行う特別な攻略になる」


 クマの被り物を脇に抱えて説明するクマさん、やっぱり被り物が気になって集中できない。


「食料などの資材の持ち込み制限がないハルカ君のスキルがあるからこそ実施可能な攻略だ。通常はクワリファダンジョンなどでは行わない攻略法だからこちらとしても不安が残るがバックアップはしっかりと行うので攻略に専念してくれ! それでは何か質問はあるクマ?」


 突如として始まったクマさんの語尾にクマが付く現象に気を取られてしまってこの後の会話の内容が頭に入ってこなかったのは言うまでもない。



 そして僕ら二人はクワリファダンジョンの入口の前に並んでいた。


 どこにでもありそうな洞窟のような入口、溶岩のような岩肌が苔の合間から見え隠れしている。


「今日は打ち合わせ通りに一層の構造を確認しながら簡単に戦い方の確認をするわよ」


「分かった。僕もローゼリスに遅れを取らないように頑張るよ」


「無理だけはしないでね、私もそんなにダンジョンの攻略には参加経験が豊富じゃないから」


「命大事に、だね」


「ええそうね、それじゃ行きましょう」


 胸の鼓動が早くなるのを感じながら、僕達はダンジョンに足を踏み入れた。


読んでいただきありがとうございます。 


面白いかもしれない、とか続きが気になるよ?と感じたら画面下部から感想、評価して頂けるとありがたいです!


今後の展開にもご期待ください!よろしくお願いします!

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