素材の持ち味
部屋の鍵を竜鱗亭のフロントに預けて部屋の清掃を依頼した。特に何があるわけでも無いし、大事なものはインベントリに収納してある。
昨日買った綺麗めな服に着替えた僕は、すっかりこの街に馴染んでいる。
ギルドまでの短い距離も歩きなれた道だ。
イニティの街並みは地中海のような綺麗な街並みだ。家々の壁の色は統一されて屋根の色は鮮やかな色で縁取られている。メインの道路は馬車がすれ違える程の広さがあり、路地裏もゴミも落ちていない綺麗な場所だ。
この辺りに住む人はほとんどの人が商売を営んでおり割と裕福な人が多いのだろう。心に余裕があるように思える。
その中に無骨なまでの建物が突如として現れる。やっぱり外観て大事だよな。二階建ての大きな冒険者ギルドに入るといつも通り冒険者たちが騒々しくやり取りをしている。
どうしても目が行くのは入口から正面に映る買取カウンターの長蛇の列。エイミー頑張れと心の中でエールを送った。
賑やかな買取カウンターの横を抜けてバーカウンターへ。今日もいぶし銀なエドウィンさんは丁寧にグラスを磨いている。軽く会釈して昨日採寸を行った個室に入ろうとした。
ドアノブには鍵が掛かっているようで開かなかった。間違えたと思い、となりの個室へ向かうも誰もいない。そしてもう一度さっきの部屋のドアノブに手を掛けるとカチャリと鍵が開く音がした。そして僕は鍵の掛かっていた意味など考えもせずにドアを開けてしまった。
ドアは途中までしか開かずに何かにぶつかったようでガシャンと部屋の中で大きな音がした。慌てて中に入ると金属鎧や革の鎧、ブーツやヘルメットなどが散乱していた。そして崩れた装備品の下でごそごそ動く人影があった。
「ごめんなさい。勢いよく開けちゃったみたいで! 大丈夫ですか?」
装備品の隙間からすらりとした腕が伸びてきたので掴んで起き上がらせた。そして僕は息を飲んだ。
純白の髪の毛に真っ白な肌、極めつけに真っ白な下着姿のローゼリスが崩れた装備品の中から現れた。
「痛たた……え?」
「……ごめん」
急いで顔を反らし、目をぎゅっと瞑ってとりあえず手を差し伸べた。
頬をひっぱたかれるだろうか? 外に追い出されるだろうか? 恐らく両方だろう。殴られる為にも部屋に残った訳だがなかなか反応が返ってこない。
「ねぇ、いつまでそうしているの?」
予想外の返事が返ってきて戸惑ってしまう。ここで目を開けるのはまだ危険だ。とりあえず目は瞑ったままで返事をしよう。
「いや、勝手に入っちゃったから、殴られるかなと思って……」
「私が殴っちゃったら、あんた死んじゃうでしょ? もう着替えたから平気よ」
確かに剣士として修行を続けてきたローゼリスに殴られたらひとたまりもないだろう。加減はしないという事なのだろうか。
「ごめん、本当に悪かった」
差し出していた手を戻しながら、もう一度謝る。
「もういいわよ、見られて恥ずかしいような身体でも無かったはずだけど?」
照れ隠しだろうか、顔を真っ赤にしながらそんなことをいうローゼリス。真っ白な肌に起伏に富んだ抜群のスタイル。着痩せするタイプの彼女の下着姿がもう一度脳内で再生される。
「もう黙らないでよ! 恥ずかしく無い訳が無いでしょう!」
「そうだよね。でもなんで一人で着替えていたの?」
「先に済ませておけば早く終わると思って着替えていたのよ。」
真面目な子だなと僕が思っていると昨日の店員さんが入ってきた。
「ごめんなさい。少し遅くなってしまいましたね。おふたりともどうかされたのですか?」
「先に試着をしていたんです。その時にハルカが入ってきちゃって」
「そうですか、ハルカ様は運が良いみたいですね。ローゼリスお嬢様は世の中の男性からはとても人気があるんですよ?」
屈託のない笑顔で友人の自慢をするような態度を見せる店員さんも素敵な人だ。
「やめてください。そんなことないですよ!」
「謙遜されても事実は変わりませんよ。そういった人柄も人気なんですよ」
同年代の女性が恋愛について話しているのを間近に聞いているとそれだけでなぜかドキドキしてしまう。
「おや、ここにも恋に落ちてしまいそうな方が居ますよ? ローゼリス様はやはり罪な方ですね」
店員さんに心の中を見透かされてしまいそうになるのを防ぐためにも僕は装備品を手に取り質問し始めた。
「すみません。コレとコレ、サイズも同じもののようで見た目もまったく同じ何ですが、何が違うんですか?」
「それは中に入っている素材が違うんです。片方はカーボンでもう片方はミスリルです」
おぉ! 急にファンタジーだ。カーボンは元の世界通りならきっと軽くて強度が高いのだろう。ミスリルよく分からないが少し柔らかいのだろうか。
「すみませんあまり素材には詳しくなくて、良かったら説明していただけますか?」
「はい! もちろんです。ですが一度試着頂いた方が説明するよりも早いかも知れません。先にこちらを着ていただいてもよろしいでしょうか?」
店員さんとやり取りの隙間を狙ってローゼリスが店員さんに話しかけた。
「私はこっちのミスリルのガントレットと胸当ては大丈夫でした。ブーツは少しきつく感じたので調整していただけますか?」
「かしこまりました、すぐに調整させていただきます。防具はもう見ていただいた様ですのでローゼリスお嬢様は武器をお選び頂いてもよろしいでしょうか?」
「分かったわ」
そうしてローゼリスと店員さんはそれぞれ装備を手にしながら隣の部屋に移動した。僕はどうやって着たらいいのか分からない鎧を、あーでもないこーでもないと試行錯誤しながら何とか着用することができた。
革製の鎧の装着感はかなり厚めのコートを着こんだような圧迫感があり、少し息苦しかった。
「なかなか似合うじゃない」
「お似合いですよ。どこか窮屈に感じる所はありますか?」
「特に無いんですが、少し息苦しく感じます」
「慣れない内はそんな感想を持つ方が多い見たいですよ。こちらの世界では基本的な装備になりますので、これ以上軽量の物を希望される場合はスキルや魔法などで調整していただく必要があります」
可動域は阻害されていないが、やはり少し重く感じる。
「スキルや魔法というとどんな物が必要なんですか?」
「主な調整は身体強化で行う場合が多いわね。ハルカはスキルは持っているの?」
「残念ながらスキルはインベントリだけだよ」
「それって残念どころかうらやましいスキルなんだけどね。それじゃ魔法で調整するしかないわね」
「今着ていただいている物はカーボンの重量がかなり軽いもので、魔法の力を弾く付与術式が組みこまれています。身体能力の低下が無い場合はこちらがお勧めでございます」
魔法耐性がついている鎧か、なるほど強力だ。
「それではガントレットだけで構いませんのでこちらのミスリルを芯材に使ったものを装備していただいてもよろしいでしょうか?」
店員さんからガントレットを受取り交換する。こちらの方がちょっと重い。
「こっちの方が重いですよ?」
「それではマナを指先に流すようにして頂いてもよろしいでしょうか?」
「分かりました」
言われた通りに指先にマナをあつめる。するとガントレットは薄く発光して重さは消えてなくなった。
「ちゃんと発動しましたね。流石選定者ですね。これは身体強化の付与があるガントレットになります。微弱なマナの供給で最低限の補助を行うものですがかなり効果のある付与術式ですよ」
「コレ凄いですね。元の身体の動きよりも力が溢れてくる感じがします」
「そうですね。普段から身体強化をしていないと逆に力を込めすぎて身体が傷ついてしまう場合もあるので注意してください。そしてこちらには魔力反射はついていませんので魔法を使うモンスターを相手にするときには注意してくださいね」
「分かりました。基礎能力が高くなるまではこっちの防具を使いたいのですが大丈夫ですか?」
「もちろんです。それじゃあミスリルを芯材に使っている方でフル装備してみてください。そのあとハルカ様も武器を選んでくださいね」
それじゃあと店員さんは出ていったので僕はもう一つの装備を身にまとい、武器を選びに隣の部屋に向かった。
「キヅナさん! おはようございます」
「おおハルカ殿、おはようございます。なかなかの冒険者スタイルですぇ。」
「あはは、馬子にも衣装ってやつですね」
「懐かしい、慣用句ですねぇ。それじゃあ私からの贈り物です大切にお使いください」
挨拶から唐突に刀を一本渡された。黒漆の鞘に黒の組紐で装飾された真っ黒な拵えの刀。柄の部分を除くと50センチくらいだろうか、黒の柄巻を握るとガントレット越しにも磁石のように掌にくっ付くの感じがする。とても不思議な感覚だ。
鞘から抜くと青白い刃文が緩やかに波打っている。
「使い方は簡単ですよ。切りたい獲物に対して真っすぐに振り抜くだけで大丈夫です。クワリファダンジョンの低階層では基本的にはガントレットでの打撃戦が中心になるでしょう。ですからあまり出番は無いと思いますが接近戦でも邪魔にならないこの刀をお使いください」
美しい刀身を眺めるのを中断して鞘に戻した。キヅナさんの説明が終わらなければ
ずっと刀身を眺めていただろう。
「ありがとうございます」
「なぁに、ちゃんと請求してますから。それとこの前の訓練用の木刀はなるべく肌身離さず身に着けていただけると助かりますので、お願いしますねぇ」
「分かりました!なるべく身につけておきますね」
「もうすっかり冒険者ですね!」
キヅナさんから説明を受け、キヅナさんが仕事に戻ると入れ違いにローゼリスと店員さんが一緒に現れた。
「似合っているわよ。午後からはよろしく頼むわね!」
「ローゼリスも今日から冒険者なんだね。よろしくね」
装備も整ったし、回復アイテムも合わせて手渡された。基本的には自分の命は自分で管理する形になる。命大事にだ。
「それじゃあまた竜鱗亭で待ち合わせしましょう」
「分かったよ、それじゃまた後でね! 僕は回復魔法を少し勉強してくるね」
「また後でね!」
目がくらむ程の笑顔で手を振るローゼリス。まだ出会って数日だが、良い子なのはとても伝わってくる。
むしろ良い子過ぎて、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。手を振り返す僕は次の約束をしている教会に向かうべく冒険者ギルドを後にした。
読んでいただきありがとうございます。
面白いかもしれない、とか続きが気になるよ?と感じたら画面下部から感想、評価して頂けるとありがたいです!
今後の展開にもご期待ください!よろしくお願いします!




