騒がしく、穏やかな朝
僕は柔らかな感触を全身に感じながら目を覚ました。そして思い出してしまった。レヴェラミラを去るときに自分の部屋に皆を招いてしまっていたことを。
落ち着いて現状を確認しよう。恐らくここは僕の部屋のベッドの上だ。
昨日アーティファクトを使ったのは窓際の椅子で使った。本来ならばそこで起きるはずだ。でもベッドの上にいる。これは今後検証が必要だ。
そして大事なのはココからだ。昨日ベッドにはサラさんとローゼリスが寝ていたはずだ。そして僕はその真っ只中に呼び戻されたという事なのか。右側には白い髪の毛をふわりとベッドに広がっている。首と視線だけを動かして反対側を向けばくるんと丸くなり明るい髪色のショートカットの髪の隙間からもこもこしたサラさんの耳がひょこひょこと動いている。
無意識にそっとサラさんの頭、というか耳を目掛けて伸びている自分自身の腕に驚きなんとか触りたい衝動を抑え込みながらこの天国のような地獄から抜け出す方法を考える。
この際なんでベッドの上に居るのかは関係ない。事故を起こさないように抜け出すだけだ。
僕は首を反対に回しながら身体も一緒に横に向けようとした。竜鱗亭のふかふかのベッドが態勢を変える僕の動きに沿って沈み込んだ。
その瞬間ローゼリスが寝返りを打ち沈み込んだ僕の方にコロンと転がってきた。
むにゅ、という音がでそうなくらい布越しでも分かるほどの柔らかな感触が僕の胸にも伝わった。ローゼリスの腕が僕の腰に周り、ローゼリスの寝息が僕の頬に掛かる。咄嗟に首を上に向けて回さなかったらそのまま唇に触れてしてしまっていただろう。
ちょっとビギナーの僕には難易度が高すぎるミッションだ。もういっその事バッとベッドから飛び降りてしまいたい。しかしローゼリスの手が僕の上に乗っているのでもうそれすら叶わない。
今度は足元に変化があった。何者かにふくらはぎを撫でられている感覚になった。ローゼリスをおこさないように上半身を捻って確認すると丸くなって眠るサラさんのしっぽがゆらゆらと僕の足を撫でている。
もう限界だ、どうにでもなっていい。そう思い僕は思い切り身体を起こしその勢いでベッドから脱出した。
「あら、起こしちゃったかしら? もう少し寝ていても良かったのに」
マリナローゼさんが僕の部屋で朝食の支度をしている。なぜかメイド服で……
そう、天国から何とか逃げ出した僕はダイニングテーブルでサラダを作っているマリナローゼさんと目を合わせてしまった。
「せっかく私がベッドまで運んであげたのに……」
「犯人は貴女ですか?! てかマリナローゼさんが僕を運んだんですか? 僕そんなに軽くないですけど?!」
「あらあら、もう一度抱っこしてあげましょうか?」
「大丈夫です! 間に合ってます!」
自分で言っておいてなんだけど、何が間に合っているのかまったく分からない。とりあえずは助かった。次からはココの部屋には入らないようにしてもらおう。
「んっ、う~ん」
サラさんが大きく伸びをしながら起きてきた。
「いててて、おはようございます!昨日は流石に飲みすぎちゃいましたね」
「うふふ、その様子だと二日酔いね。おはようサラちゃん」
「昨日は楽しかったですし、ハルカ君も一緒でしたからね」
「おはようございます、サラさん」
「えっ? ハルカ君?! どうしてココに?」
「いや、ココ僕がお借りしている部屋ですし、どうしてと言われましても……」
「あらあら、照れちゃって。お姉さんちゃんと見てたわよ、ハルカ君がサラちゃんの頭を撫でてるのを」
「えっ? えぇ?! そうなんですか?!」
「いや、僕はそんな事してないですって」
「寝ぼけながらサラちゃんの耳を触ってたのよ?」
「それは不可抗力ですよね? というかマリナローゼさんが一緒のベッドに寝かすから!」
「一緒のベッド……」
しまった。墓穴を掘ってしまった。
「いやいやいや、サラさん。何もしてませんよ?」
揶揄っているマリナローゼさんはうふふと微笑みながらサラダをとり分け、着々と朝食の用意を進めている。固まったままのサラさんと微笑むマリナローゼさん、そしてもう一人の美少女がベッドから起き上がった。
「おはようロゼちゃん。寝ぐせ凄いわよ?」
真っ白な髪はふわりと広がったまま四方八方に膨らんでいる。頭の上に真っ白な兎でも乗せている見たいで起きている時の凛とした雰囲気のローゼリアからは想像できない姿だった。
「おはようございます。あれ? ココどこですか?」
さっき学んだ事を実践しよう。このタイミングはスルーすべきだ。
「ハルカ君のベッドの上よ? よく眠れたでしょう?」
失敗だ。マリナローゼさんに掛かればどんな状況も面白そうな方向に持っていかれてしまう。
「ハルカ君のベッドの上……」
何かを思い出したように呟くサラさんに僕は引き続き呼びかける。
「サラさん! そろそろ戻ってきてください!」
僕はサラさんの方を掴んで左右に少し揺り動かす。
「ハルカ君? これは夢?」
「夢ではないですけど、とりあえず朝ごはんを食べましょう!」
ぽかんとしているサラさんをダイニングテーブルに座らせた。
「嘘、私男の人の部屋で寝ちゃったの?」
声の主に目を向けると、ベッドの上でシーツを胸元に手繰り寄せたローゼリスが顔を真っ赤にしていた。
「そうよ、ハルカ君の隣でぐっすり眠ってたわよ」
「ハルカ君の隣……」
落ち着いたと思っていたサラさんがまた呟いた。その言葉につられるようにローゼリスが声をあげる。
「私、そんなはしたない事を?」
「マリナローゼさん! これどうするんですか?」
ダイニングテーブルで湯気を出しながら固まっているサラさんに、シーツを握りしめて瞳を潤ませているローゼリス。もう収拾がつかない。
「うふふ、みんな元気で良いわね。私ももう少し若かったらよかったのにね」
涙目のローゼリスをテーブルに座らせて、マリナローゼさんのいたずらだった事を伝えた。
「朝から楽しそうね。私もココに残れば良かったわ」
ひと段落したところに空飛ぶトラブルメーカーが到着し、今日のスケジュールを皆で確認する。
「それじゃ今日は午前中に装備の確認と回復魔法の習得、そして午後からはクワリファダンジョンの下見をして、調整の済んだ装備を回収してここに戻ってきます」
「忙しいな、今日中に全部出来るのか?」
「忙しいのはハルカだけよ。皆はそれぞれでやる事があるからね。ちなみに私はハルカにずっと付き添うわ」
なぜか腰に手を当てて威張るような態度をとるクロエ。なんだかこのポーズも見慣れてきたがやっぱりイラっとさせてくれる。軽くデコピンをしてクロエを黙らせる。
「いたっ、何するのよ!」
「なんとなく?」
「なんとなくで叩かないでよ!」
クロエといつものやり取りをしていると朝食を食べ終えたローゼリスが席を立った。
「御馳走様です。それじゃ私は先に冒険者ギルドに行っているわね」
いつの間にかサラサラになった純白の艶髪をなびかせてローゼリスが先にギルドに向かっていった。
「それじゃ私もクワリファに戻って準備しておきます。ハルカ君また後でね」
「私もそろそろ仕事に戻りますわね。これ以上のんびりしていたら従業員に怒られちゃうわね」
サラさんもマリナローゼさんも自分の仕事に戻っていった。
「ハルカも部屋を片づけたら訓練用の木刀を持って出かけるわよ!」
「おう! それじゃまた後でな」
「早く来なさいよ! じゃないとまた二階で飲み始めるからね!」
「飲むなよ、絶対飲むなよ!」
聞いているのかいないのか分からない笑顔で妖精は飛んでいった。このあとの予定を妖精と共に過ごすことは無かった。押すなよ、絶対に押すなよ! というやり取りはこちらの世界でも通用する鉄板ネタらしい。
ふぅ。
ようやく一息付けた。それくらいとても賑やかな朝の時間だった。向こうの世界ではこんなに賑やかでは無かった。父さんとナツミが朝食を用意してくれていて、それを僕が黙々と食べる。そんな毎日だった。
本当ならそこに母さんがいて、こっちの朝よりは静かかもしれないけど、穏やかな朝を迎えていたんだろうな。
幸せな日常は普段は感じることが出来ないと、しみじみ思うのだった。
「おっさん臭いこと考えてないで準備しなきゃな」
僕は誰に言うでもなく声を出して準備に取り掛かった。
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